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埋立処分研究、世界の視点と動向─循環型社会への対応

研究をめぐって

 廃棄物の最終処分としての埋立処分技術は世界的に見ても試行錯誤の繰り返しでした。循環型社会に向かう今、これまでにない質の高い最終処分場が求められています。安全・安心を前提にした新たな価値を持つ最終処分場の実現をめざして、実践的研究が進められています。

世界では

 廃棄物処理の中心が焼却・減容化・埋立てという流れの日本に比べ、焼却せず埋立て中心の欧米では、1970年代、浸出液による地下水汚染が起きたことを契機に、埋立処分場の構造基準や管理基準を制定しました。水道水の80%以上を地下水に頼る欧米では、浸出液による汚染を極端に嫌い、これを防ぐため、下図のように逆さ台形状に掘り込んだ地面に粘土とプラスチックシートの目張り(遮水工)をした“封じ込め”の設計思想(コンセプト)ができあがっていきます。1990年代になるとこのコンセプトは徹底され、最終処分場の底部は二重遮水工、上部は雨水浸透を防止するキャッピングシステム(写真)が義務化されました。

 欧米の最終処分概念の根幹にはこのように地下水汚染防止のためのリスク管理がありますが、“封じ込め”には大きな弱点がありました。水分の一切の浸入・漏水を許さないシステムは、浸出液の発生量を最小にすることには成功しましたが、水分補給のない埋立地は、一方では埋立層内部が乾燥し、他方では有機物が多いために高濃度有機酸の蓄積と低pH化が起こり、メタン発酵が著しく阻害されることがわかってきました。

 その結果、90年代になって最終処分場の持続可能性が議論される中、維持管理終了(日本の最終処分場廃止に相当)までの期間が「数百年にも達する」との研究論文も報告され、多くの議論が巻き起こりました。漏水リスクだけでなく維持管理コストを抑えるためにも維持管理期間の短縮は大きな課題となったのです。その結果は“封じ込め”型から早期安定化(生物反応促進)型へのドラスティックなコンセプト変更です。アメリカは廃棄物を選別や焼却等の前処理なしで丸ごと埋め立て、埋立地での通気方式による生物反応促進へ、欧州は前処理過程で生物処理を行い有機物をあらかじめ安定化させる生物反応促進です。欧州では前処理技術選択肢としてMBP(埋立前に廃プラスチック・金属類を選別し、残りの有機物は簡易生物処理)が導入されました。ドイツではMBP施設設置が義務化されましたが、有機物削減の効果について疑問視する見方もあり、焼却への繋ぎの技術システムとも見られています。

概念図
欧米の封じ込め型最終処分場の写真
欧米の封じ込め型最終処分場
埋立が終了した後、地表面に雨水浸透防止用遮水シートを施している。この上に排水層、客土、植生が施される(オランダ)

日本では

 日本は今でこそ焼却・減容化、準好気式埋立手法により欧州より一歩先に進んでいるといわれていますが、以前は「最終処分についての戦略がない」と技術、政策は酷評されていました。事実、最終処分場からは浸出液による水域汚染が大きな課題でした。

 最終処分技術を大きく変えたのは、花嶋正孝福岡大学名誉教授と故田中信壽北海道大学大学院教授でした。花嶋が開発し、田中が定式化した準好気性埋立方式です。この方式は埋立槽底部浸出液集水ピット出口を大気に開放することで、埋立層内部に空気を供給し、微生物分解を促進するものです。実証規模の模擬埋立槽による実際の都市ごみを使った埋立実験は1975年に成功し、すぐに福岡市の埋立処分場で実施され、以後全国に普及していきました。焼却を中心とした日本のごみ処理体系は、その後埋立ごみが焼却灰と不燃物主体の低有機分・高塩分化へと変化します。それが準好気性、浸透性覆土方式にマッチしたのです。当時、欧米で封じ込め型嫌気性衛生埋立が技術的確立に向かっていたときですから、日本の技術がいかに独自の道を歩んでいたかがわかります。

 一方、最終処分場では雨水を積極的に排除しなければ地下水汚染リスクは高くなります。この問題を解消するために最近、民間企業を中心に処分場への屋根の設置、人工的な散水による汚濁物質の洗出しなどにより、安定化を速める最終処分場が提案・開発され、好成績を収めています。とはいえ、これらの流れはあくまでも最終処分場が受け身の立場で、中間処理など上流側からきた廃棄物を受け入れることを前提にしています。次世代の最終処分場開発へは、もう一つ、越えるべきハードルがあります。

国立環境研究所では

 循環型社会・廃棄物研究センターでは、このハードルを越えるため、21世紀にふさわしい最終処分システム、高規格最終処分システム作りを中心に研究を進めています。現在力点を置いて進めている研究とその成果は、(1)埋立廃棄物の適正品質化とそのための中間処理など川上への提案、(2)埋立廃棄物の最適な混合を行うための輸送・運搬ツールの開発、(3)安定化促進型埋立構造の提案、(4)埋立構造を表現できる新しいモデルによる長期の安定化現象の解明、などです。さらに、海面最終処分場の安定化促進、不適正処分場の適正な修復技術を選定する手法の開発、最終処分場の再生利用に関する研究などを行っています。

安心・安全な廃棄物最終処分をめざして

 循環型社会・廃棄物研究センターで安全・安心な廃棄物最終処分に関する研究を行っているスタッフと主な研究を紹介します。

● 山田正人:最終処分場からのメタンエミッションの評価、最終処分場リスク管理ツール開発、アジア地域の適正な廃棄物管理の技術移転。

● 遠藤和人:数値工学モデルによる最終処分場の安定化現象の解析、海面最終処分場における物質移動解析と早期安定化工法開発。

● 朝倉 宏:高濃度硫化水素発生機構と対策および高規格最終処分システムの構築。

● 阿部 誠:固形廃棄物のリスク評価のための昆虫等を利用した直接バイオアッセイ手法の開発。

● 坂内 修:既存最終処分場の安全性評価のための地理情報GISによる周辺環境質の数値評価手法の開発。

● 山田亜矢:既存最終処分場に埋め立てられた廃棄物の安定化評価手法の開発。

(旧スタッフ)

● ブレント・イナンチ(Bulent Inanc):強制通気法による既存最終処分場の早期安定化技術開発。(2002.10〜2005.12)

● 石垣智基:分子生物学的手法による最終処分場の安定化指標の構築。(2001.4〜2005.3)

● 毛利紫乃:バイオアッセイ評価法の確立と最終処分場における化学物質リスクの早期警戒システムの構築。(2001.8〜2004.3)

スタッフの写真
左から山田(正人)、坂内、遠藤、朝倉、井上、阿部、山田(亜矢)
右上からイナンチ、石垣、毛利