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埋立廃棄物の安定化メカニズムの把握と科学的評価研究から

Summary

 これまで多くの既存処分場の実態を調査し、また実際の埋立処分場にテストセルを建設し、実際の廃棄物を用いた埋立実験や国立環境研究所に設置したしたライシメータを用いた埋立研究を行い、安定化に影響を与えるさまざまな因子の特性を解明してきました。ここではそのうちのいくつかを紹介します。

最終処分場の維持管理期間を長引かせる要因

 実際の埋立地に埋立られる廃棄物は焼却灰、不燃ごみ、汚泥、建設廃棄物や破砕残渣などさまざまなものがほとんど無計画に埋立てられます。さらにその日ごとに廃棄物から悪臭やほこりの放散防止やハエやネズミなどの衛生生物が発生しないように覆土が施され、その層が終了すると強度保持等のために50cm程度の中間覆土が行われます(参考)。

 埋立地はこのような構造をしているので、いくら集排水施設を工夫して作ったとしても、浸透水が均等に流れ、空気が浸透し、廃棄物分解反応が効果的に促進するとは限りません。遮水工が機能しているうちに安定化が可能かどうかは断言できないのです。

 問題はさらにあります。埋立廃棄物の安定化について定義はされていますが、具体的な評価法が決まっていないのです。国際的にも国内的にも学会における統一的な見解はありません。そのためでもあるのですが、埋立処分場の廃止時期も予測できないのです。要するにいつ、そして具体的にどのような状態になったら廃止できるのかがわかりません。これは、埋立構造を考慮した安定化が理論的にも実験的にも定式化されていないことにも原因があります。

 廃棄物最終処分場における埋立廃棄物の安定化のメカニズムを把握する方法と「安定化」の客観的評価をめざし、以下のような研究を進めています。

参考 埋立地の構造
埋立地では一定の幅で水平な廃棄物層をつくりながら埋立作業が行われ、1日の作業が終了すると0.2〜0.3m程度の即日覆土が施されます。この1日分の埋立処分区画をセルと呼んでいます。

評価サンプル採取地点の選定手法の確立

 研究では、まず高密度電気探査法を用いて最終処分場の安定化が遅れた廃棄物の空間分布など地下構造を明らかにしました。また、表面温度計測装置(サーモカメラ)等による温度計測とレーザーメタン計測装置を組み合わせ、現場におけるチャンバー法による地表面からのメタンフラックス計測の精度を高めました。そこで温度とメタンフラックスから埋立地表面において安定化のレベルを数段階程度に領域分けし、ボーリング等による埋立廃棄物のコアサンプル採取地点を選定しました。

 本研究では安定化が遅れているポイントでボーリングを行い、コアサンプルを採取すると同時に観測井として自動温度検層、自動ガス濃度測定を進めています。調査中の最終処分場は、陸上4カ所、海面3カ所です。

 図4は実際の最終処分場(処分違反事例)のボーリング位置を選定するために測定された高密度電気探査の解析例です。有限要素法によって解析された比抵抗値を基に等比抵抗分布が色分けされて描かれています。実際には1mの深さの温度と比抵抗分布を使ってボーリング位置を選定しました。

 さらにサーモカメラやレーザーメタン計により温度やメタン放散フラックスの高いホットスポットを検知しました(図5)。また、地表面メタンフラックスおよび10mグリッド上メタンフラックスから求められた埋立地のメタン放散フラックス分布を作成しました。この分布図よりメタンフラックスの大きな領域が安定化の遅れた領域として選定され、評価地点として選定されました。

図4 高密度電気探査による埋立処分場の廃棄物の存在分布推定
図5 サーモカメラやレーザーメタン計による温度やメタン放散フラックスの高いホットスポットの検知

採取したコアサンプルの安定化の評価

 次は選定されたサンプリング地点の埋立廃棄物の安定化のレベルの評価です。有害廃棄物の判定基準としてvan der Sloot等の溶出法による評価法がありますが、生物分解の進行状態を的確に把握できるものになっていません。そこで本研究で提案した評価法は、廃水処理の処理性評価法として周知の方法で、pH7.0付近における回分溶出DOC(溶存性の有機炭素濃度mg/L)をE260(紫外部260nm/cmの吸光度)で除した値(DOC/E260)を使うものです。この評価法は一般にDOC/E260の値が50以下ですと生物難分解性を示します。すなわち、埋立廃棄物は安定化していると解釈できます。逆にこの値が100を超えると生物分解性が高いことを示し、まだ安定化していないと解釈できます。

 この改良法が安定化促進の評価をできるかどうか、実規模の埋立サンプルを使って検討を行いました。サンプルは埋立現場に設置した実規模のテストセル埋立実験(国立環境研究所、埼玉県、大成建設(株)との共同実験)を行ったときのもので、(1)好気性(A:通気+浸出液循環)、(2)嫌気+浸出液循環(AN)、(3)現場条件(C:嫌気性、浸出液の無循環)の3つと、比較のために一般的な土壌を使いました。その結果、好気性条件で安定化が著しく促進されることを本安定化評価手法により明らかにすることができました(図6)。同時に私たちの安定化評価法は、現場周辺土壌と好気性埋立廃棄物との安定化の違いを明確に示すことができ、より正確な安定化評価が可能になると考えられます。

図6 van der Sloot法(左)とDOC/E260評価法(右)による埋立廃棄物の安定化評価

安定化期間の定式化

 これまでに日本や欧米の研究者によって安定化期間の定式化が行われてきましたが、単一槽モデル(埋立地は多層セル構造)であり、実際の処分場への適用可能な中長期的モデルは皆無です。そこで既存モデルが持っている問題点を整理し、底部集排水、中間覆土、最終覆土、ガス抜き管および1層3mの多層構造を表現できる新たなモデルを構築しています。研究は進行中ですが、これまで覆土の流体移動特性が安定化反応に大きな影響を与えていることを簡易モデルにより明らかにしました(図7)。

図7 安定化反応に大きな影響を与えている覆土の流体移動特性を明らかにした簡易モデルの概要