- 予算区分
- CD 文科-科研費
- 研究課題コード
- 2527CD013
- 開始/終了年度
- 2025~2027年
- キーワード(日本語)
- 港湾,ヒアリ,侵入,外来生物
- キーワード(英語)
- port,Solenopsis invicta,invasion,invasive alien species
研究概要
米原産のヒアリSolenopsis invicta(ハチ目:アリ科)は、在来の生物相から人間社会にまで深刻な負の影響を及ぼす侵略的外来生物で、日本への定着が切迫した段階にあることから、2023年に外来生物法で、『要緊急対処特定外来生物』に指定された。日本国内におけるヒアリの侵入事例数は初発見からこれまでに累計18都道府県140事例まで及び、その大半が港湾における営巣段階で発見されている。従って、ヒアリの防除は港湾における水際緊急防除が中心であり、その高度化は喫緊の課題である。一方で、米国や中国等過去のヒアリ定着国では、ヒアリ発見が国内定着後であったため、港湾環境下におけるヒアリの生態情報は極めて乏しく、効率的な防除の妨げとなっている。本研究では、ヒアリの飼養コロニーを用い、港湾環境を模した人工実験系において、コロニーの成長速度、移動、繁殖虫の分散開始などに影響を及ぼす栄養条件、温度条件などの諸条件を明らかにする。
本研究の成果は、国内におけるヒアリ防除の高度化に多大に貢献するとともに、今後のヒアリの侵入が警戒される欧州諸国などでの応用が大きく期待される。さらに、なぜヒアリが各国に侵入・定着に成功したかを生態学的に明らかにする。
研究の性格
- 主たるもの:基礎科学研究
- 従たるもの:応用科学研究
全体計画
本研究においては、国立環境研究所ヒアリ飼養施設において2025年3月より飼養しているヒアリを、港湾環境を模した人為的環境において動態を確認する。ヒアリは、女王1個体、働きアリ・幼虫それぞれ100個体ずつに分け、人工的な一つの集団(コロニー)として用いる。動態確認は、次の4段階において行う。各実験は、国立環境研究所の特定外来生物実験安全管理規程を遵守して実行する。
[1] 港湾に侵入するまでの生存条件(2025年度実施予定)
港湾で発見されたヒアリの侵入経路は、海上輸送用コンテナを介してだと考えられる。過去には海上輸送用コンテナから70,000個体以上ものヒアリが発見された事例がある。一方で、大規模な侵入事例であっても集団中に生存している女王アリが発見されない事例がほとんどである。これは、全体中の割合が低い女王の発見が困難なためであるか、そもそもコンテナ内の集団に女王が含まれていないかを明らかにする必要がある。コンテナの内側は、底面が吸湿・放湿可能な板からなっている以外は、多くがフィルムなどでラッピングされており、餌資源へのアクセス不能であることが多い。これを模した条件下において、女王および幼虫の生存率を、働きアリの個体数および気温条件を変動させる条件下で測定し、女王が生存している可能性が高いコンテナの輸送条件を明らかにし、港湾へのヒアリ侵入リスクをより精緻に確認する。
[2] 港湾におけるコロニー好適地の明確化(2025年度-2026年度実施予定)
港湾は、輸送用コンテナの重さに耐えるための厚さ40cm程度のコンクリートの板をアスファルトで固め、その下に数10cmに渡り砂利が敷かれている。ヒアリの営巣はこれまで、コンクリートとアスファルトの間の亀裂から発見される事例が大半であるが、巣がどこまで深く伸びているか、またどの位置に女王、幼虫がいるかの確認はなされていない。そこで、コンテナを模した容器に人工コロニーを入れ、それぞれのカーストの個体がどの位置に運ばれるかを確認する。通常、強光・高温に晒される港湾環境を模すため、爬虫類飼養用ライトなど、高熱を発する熱源や紫外線灯を用い、条件別にコロ
ニー営巣の好適地点を確認し、どの深さまでの防除が必要かを可視化する。
[3] 港湾におけるコロニー成長速度の実証 (2026年度実施予定)
港湾の生物相について、これまでに得られている知見から、イネ科植物に代表される植物種子、植物に集まる同翅目昆虫が分泌する蜜、灯火に誘引される節足動物死体等が、ヒアリが利用可能な主要なエサ資源であると考えられる。これらを餌として投与した場合のコロニー成長速度を、人工コロニーを用いて確かめる。コロニー成長の指標としては、幼虫数・新成虫数の増加と共に、生殖虫(新女王アリ・オスアリ)の数の変化を用いる。途中、植物質・動物質の餌の量・比率を変えることにより、どのような条件の港湾ではコロニー成長速度が速く、侵入リスクが高まるのかを明らかにする。
[4] 港湾におけるコロニー移動要因の検証 (2026-2027年度実施予定)
ヒアリは一般に、強固な巣を作り、その内側に女王アリや幼虫を保護する。一方で、環境条件の悪化や、薬剤防除などの刺激により、巣の場所を大きく移動させることが知られている。特に日本においては、港湾は大都市圏と隣接することが多く、この移動は侵入リスクと密接に繋がる。そのため、どのような条件下で港湾からヒアリが移動分散するかを解明することは極めて重要となる。本試験では、飼育容器をチューブで連結した上で、飼養しているヒアリコロニーに物理的・化学的刺激を与
え、どのような条件で移動するかを明らかにする。刺激には熱などの温度刺激、餌不足などのストレス、薬剤防除を模した薬剤による化学的刺激などを含む。連結するチューブの長さを調整し、時にはロール状に長距離移動が可能な形として移動距離についても判断する。
今年度の研究概要
2025年度は、全体計画の[1] 港湾に侵入するまでの生存条件の解明を実施すると共に、[2] 港湾におけるコロニー好適地の明確化の準備を整える。
まず、[1]について、飼養している人工コロニー中の女王および幼虫の生存率を、働きアリの個体数および気温条件を変動させた諸条件で測定し、いかなる条件が満たされれば女王が生存状態で港湾に侵入するリスクが高いかを明らかにし、港湾へのヒアリ侵入リスクを可視化可能な状態にする。続いて[2] について、ヒアリに対する環境条件の変動として使用する予定の高熱を発する熱源や紫外線灯につき、目的に叶った実験機材の検討を行い、次年度の実施を妨げない研究準備を整える。
課題代表者
坂本 洋典
- 生物多様性領域
生態リスク評価・対策研究室 - 主任研究員