- 研究課題コード
- 2527CD006
- 開始/終了年度
- 2025~2027年
- キーワード(日本語)
- プラネタリーヘルス,カーボンフットプリント,産業連関分析
- キーワード(英語)
- Planetary Health,Carbon Footprint,Input Output Analysis
研究概要
健康の基盤である⾷と医療は多⼤な温室効果ガス(GHG)排出を伴うため、既存研究では⾷品別や疾患別の排出量が算定されている。しかし、「健康な⾷事による医療削減」という公衆衛⽣的な連動を捉えた⾷改善が持つ真の排出削減効果は未解明である。本研究の⽬的は、⾷と医療の供給システムに両者の連動を組み込む新たな評価モデルを開発し、⼈健康と地球環境に適した⾷⽣活 (planetary health diet: PHD) への移⾏に伴う真のGHG排出削減効果を解明することである。
具体的には、PHDへの移⾏に伴う慢性疾患への罹患率および重症化率の減少をモデル上に表現し、PHD普及による⾷と医療のGHG排出変化を2050年まで定量化する。加えて、PHDの普及度合いに着⽬したシナリオ分析を実施し、脱炭素社会達成と整合的な移⾏策を提⽰する。研究成果は、地産地消や⾷品ロス以外の⾷に関するGHG排出対策の重要性を⼀般に喚起するだけでなく、⾼齢化による医療のGHG増加の抑制策としてPHD推進戦略を⽴案することにも貢献する。
研究の性格
- 主たるもの:応用科学研究
- 従たるもの:基礎科学研究
全体計画
本研究では、次の手順(1)から(3)の実施により、研究課題を遂行する。
(1)食と医療のCFを算定する産業連関モデル構築
食・医療システムのCF算定に必要となる産業連関モデルを作成する。具体的には、2024年6月に公表された最新の日本の全国産業連関表(2020年版)に対して応募者が開発した固定資本内生化手法を適用する。さらに、作成した産業連関モデルの部門(約400部門)と対応した単位生産あたりの直接GHG排出量のインベントリデータを整備する。また、国内データとGLORIAデータベースを接続し、国産品と輸入品の排出を区別する。これにより、食と医療に必要となる固定資本形成由来の排出を含めたCFを算定する。
(2)食と医療部門のサプライチェーンGHG排出構造分解
手順(1)により算定した食と医療のCFに、応募者が構築したブロック行列構造分解を適用し、食と医療の主なGHG排出要因となるサプライチェーンのブロックを特定する。具体的には、食については肥料・温室・農薬・電力・輸送・固定資本形成・外食・中食・フードロス、医療については医薬品・医療器具・医療廃棄物・食品・エネルギー・輸送・固定資本形成のサプライチェーンによる、それぞれのCFに対する寄与を定量化する。これにより、食と医療のCF排出構造の現状を把握し、両CF削減の鍵となるサプライチェーンを特定する。
(3)脱炭素社会の達成に向けたPHD移行シナリオ探索
PHDの導入がどれだけ2050年脱炭素社会の達成に貢献し、またそのためにはいつまでに、どの程度の強度で食の転換を推し進める必要があるかを明らかにする。まず、PHDを異なる時期(2025年、2030年、2035年、2040年、2050年)および強度(100%、75%、50%)で導入するシナリオを設定する。また、手順(2)で明らかにする食の転換以外の削減オプションを含めたシナリオを定義する。続いて、食生活の改善と病気罹患の関係を次のようにモデルに表現する。
本研究では、治療の排出強度と治療継続による排出の恒常性を考慮し、慢性疾患(糖尿病・高血圧・心疾患・脳血管疾患・腎不全等)を対象とする。学術論文および統計データに基づいて食生活と慢性疾患の罹患の相関を示すデータベースを作成し、PHDの継続年数による慢性疾患の罹患減少率を設定する。食の転換と慢性疾患の予防による食と医療の一人当たり最終需要の変化をシナリオ別に導出し、2050年までの食と医療のCFを推計する。これにより、2050年の脱炭素社会達成に必要となるPHDへの移行開始時期と移行強度を明らかとする。
最後に、脱炭素社会の達成と整合的なPHDのへの移行達成要件を整理し、実現に必要な戦略・政策オプションを特定する。
今年度の研究概要
本年度は手順(1)における食・医療システムのCF算定に必要となる産業連関モデルの作成に注力し、研究の基礎となるデータ整備を完了させる。
また、手順(2)における食と医療のGHG排出構造の把握と削減の鍵となるサプライチェーンの解明を試みる。
課題代表者
畑 奬
- 社会システム領域
脱炭素対策評価研究室 - 研究員
- 博士(環境学)
- システム工学,土木工学