- 予算区分
- 基盤研究C
- 研究課題コード
- 2426CD016
- 開始/終了年度
- 2024~2026年
- キーワード(日本語)
- 放射性セシウム,河川,有機性懸濁物質
- キーワード(英語)
- radiocesium,river,particulate organic matter
研究概要
福島第一原発事故後の広域的な観測により、陸域生態系の放射能汚染の主要因である河川水中137Csのさまざまな生成・反応機構が明らかになってきた。しかし、河川が森林域から農地域に至る過程で懸濁態・溶存態137Cs濃度の支配的な形成機構がどのように変化するかが解明されていないため、河川全体の形態別137Cs濃度を連続的に精度良く再現・予測することができていない。本研究では、「農地から河川への鉱物粒子の流入が137Csのイオン交換反応を促進し、溶存態137Cs濃度が変化する」という仮説を立て、水温・無機懸濁物質濃度と137Cs分配係数の関係を現場観測・室内試験・過去の観測データの解析を通じて検証する。
研究の性格
- 主たるもの:モニタリング・研究基盤整備
- 従たるもの:応用科学研究
全体計画
本研究では、まず福島県浪江町を流れる請戸川において、懸濁物質(SS)の大部分が有機物と見られる森林流域の末端部と農地排水由来の無機SSを多く含むと見られる下流部の地点において、溶存態・SS態137Cs濃度の定点観測を2024年度より3年間毎月行う。定点観測の結果をもとに、水温と137Cs分配係数の関係を表すvan’t Hoffプロットを作成し、2地点における鉱物粒子への137Cs吸着反応に対する標準反応エンタルピー値を評価する。溶質・SSの成分として、請戸川河川水試料中の溶存有機炭素,K, NO3-,Al, Fe, Si, 133Cs, Rb等の共存溶存物質濃度を測定する。SSについては、無機SS量、全炭素・窒素含有量、鉱物組成、粒度分布等を測定する。SSについては、無機SS量、全炭素・窒素含有量、鉱物組成、粒度分布等を測定する。これらのうちいくつかの成分を選定し、河川水・SSのソース解析を行う。 次に、137Csの熱力学的平衡状態における「標準反応エンタルピーと無機SS濃度の関係式」を導出するため、請戸川の山林渓流部と下流部において河川水中のSS、およびろ過処理を行った請戸川河川水を採取する。ろ過処理水に採取したSSを適量添加して恒温槽内で48時間撹拌し、137Csの平衡状態を生成する(温度・SS濃度は現場観測の範囲に調整)。この結果をもとに、無機SS濃度の条件ごとに137Csの標準反応エンタルピー値を評価して両者の関係式を導出する。以上より現地観測と室内試験から得られる「標準反応エンタルピーと無機SS濃度の関係式」を比較し、もし違いが見られれば、現場の河川水が平衡状態にない可能性があるため、現地採水試料を数段階の温度で保管し上記の関係式を再評価するなど、適宜補足試験を行って要因を明らかにする。さらに過去に様々な森林・農地河川で観測された溶存態・SS態137Cs濃度データを収集し、各河川における「137Cs標準反応エンタルピーと無機
SS濃度の関係式」を同定した上で、上記関係式の一般性について評価を行う。既存の137Cs濃度のデータセットにおいて無機SS濃度の測定値がない場合には、過去に採取したSS試料や、過去の観測時期に合わせた採水により得られた試料の成分分析を行うことで、観測当時の無機SS濃度を推定する。 以上より、河川ごとに得られた「137Csの標準反応エンタルピーと無機SS濃度の関係式」を比較し、もし相違が見られれば水質や流域の地質等、その原因について考察する。また、従来の「分配係数を定数とした式」、「分配係数の温度依存性のみを組み込んだ式」と本研究で得られた再現式それぞれを現地観測の結果に適用して比較することで、本研究の提案式による形態別137Cs濃度の再現精度の向上について評価を行う。
今年度の研究概要
福島県の請戸川における大柿ダム放流地点、および農地・居住地の下流に位置する地点において毎月河川水の採水を行い、懸濁態・溶存態137Cs濃度とともに全懸濁物質・有機性懸濁物質の濃度を測定する。また、過去の様々な森林・農地河川で観測された懸濁態・溶存態137Cs濃度のデータを収集して整理したうえで、過去の採水試料中の懸濁物質に含まれる有機性粒子の割合を測定し、不足データ補填のための追加採水の必要性について検討する。
外部との連携
筑波大学
- 関連する研究課題
- : 災害環境分野(ウ知的研究基盤整備)
課題代表者
辻 英樹
- 福島地域協働研究拠点
環境影響評価研究室 - 主任研究員
- 博士(農学)
- 農学