- 予算区分
- 環境問題対応型研究
- 研究課題コード
- 2325BA103
- 開始/終了年度
- 2023~2025年
- キーワード(日本語)
- 気候変動,健康影響,適応
- キーワード(英語)
- climate change,health impact,adaptation
研究概要
気候変動やヒートアイランドに伴う気温上昇に伴い、我が国では熱中症による救急搬送数や死亡者数が高い水準で推移している。この状況を緩和するために、国は2021年度に熱中症警戒アラートを全国展開したところであり、その効果検証は今後のアラートの在り方を検討するためにも喫緊の課題となっている。なお、熱中症に係る救急搬送数の50%、死亡者数の80%を高齢者が占める。その大半が屋内でエアコンを使用していない状況で発生しており、高齢者に対する適切なエアコン使用の促進が急務である。
世界的にも高温による熱中症等の健康影響が大きな問題となるなか、近年事態がさらに深刻になりつつある。カナダのブリティッシュ・コロンビア州では2021年6月29日に49.6度の最高気温を記録し、一週間で500人以上の熱中症による死亡者が発生した。2022年においても世界各地で極端な高温(以下、極端高温)が発生しており、ポルトガルとスペインでは7月17日だけで1000人以上が「暑さ」が原因で死亡した。日本においても2022年6月下旬から7月上旬に猛暑日が連続するなど異常な高温が発生し、多数の救急搬送が生じた。既に熱中症が深刻である我が国において、気候変動により今後さらに極端高温が深刻化、多発化すれば、今まで経験していない甚大な熱中症被害の発生や、それに伴う医療・介護供給体制の崩壊が危惧される。このような事態を未然に防ぐために、熱中症警戒アラートの在り方も含め、効果的な対策の在り方を検討することが喫緊の課題となっている。
上述の課題を解決するためには、今後我が国において極端高温がどの程度深刻化、多発化するか、極端高温が発生した際の熱中症被害はどの程度か、医療・介護供給体制のレジリエンスは十分であるか、熱中症警戒アラートの効果はどの程度か、そしてどのような対策が有効か等の問いに対する科学的回答を有した上で、適切な準備が必須となる。本研究ではこの問いに対する科学的回答を創出し、その知見の活用を通じて我が国の熱中症に係るレジリエンス向上を目的に実施するものである。
研究の性格
- 主たるもの:基礎科学研究
- 従たるもの:政策研究
全体計画
今後の中長期的な熱中症に係る政策決定に資する研究を実施する。サブテーマ1では我が国で将来どの程度極端高温等が深刻化、多発化するかを明らかにする。サブテーマ2、3では極端高温が熱中症や医療・介護供給体制に及ぼす影響、熱中症警戒アラートの導入効果を明らかにする。サブテーマ4ではエアコンの適切な利用等の個人レベルでの極端高温に対する適応行動促進に資するための研究を実施する。
サブテーマ1:既に公開されている気候予測情報を市区町村スケールまで詳細化し、我が国で将来どの程度極端高温が深刻化、多発化するかを、最悪ケースまで考慮して確率的に評価する。また、気温のみならず暑さ指数(WBGT)やその構成要素である日射量、湿度、風速等の将来変化まで評価の対象を広げる。得られた将来の高温事例の中でも特に極端な事例を対象に都市街区スケール(関東など)でエアコン使用と室内外気温の関係等を評価する。アウトプットはサブテーマ2、3に提供する。
サブテーマ2:社会・集団レベルにおける暑熱健康影響・適応策研究を展開する。特に2021年度より全国展開された熱中症警戒アラートが熱中症救急搬送数および死亡者数をどの程度減少させる効果があるかを検証する。さらにその効果を考慮の上、極端高温下における熱中症救急搬送数および死亡者数の将来予測を行い、暑熱健康影響を最小化するための適応策として十分であるかを検証する。
サブテーマ3:極端高温や低温が医療供給体制に及ぼす影響について、過去の救急救助統計の時間情報を用い現地到着や治療までに要する時間の遅延を定量的に評価する。また、気候の異なる複数地域(北海道、関東、沖縄など)の介護施設を対象に質問票調査を行い、極端現象に対する準備・対応や課題を明らかにする。
サブテーマ4:熱中症警戒アラートの発令がエアコンの適切な利用等の個人レベルでの行動に与える効果を推定する手法を開発する。また、熱中症警戒アラートの発令等に関わらず高齢者がエアコンを不使用あるいは忌避する現状に鑑みて、高齢者の温度感受性の低下等、エアコン不使用の生理学的背景を明らかにする。サブテーマ1〜4の成果に基づき熱中症に係るレジリエンス向上のための提言をまとめる。
今年度の研究概要
サブテーマ1:WBGTやその構成要素である日射量、湿度、風速等を対象にd4PDFを用いて気温と同様のダウンスケールと解析を行い、その将来変化を市区町村スケールで確率的に評価する。将来の極端高温事例を複数対象に都市街区スケール(関東など)で都市における温熱環境やエアコンの使用具合が室内外気温やエネルギー消費量等に及ぼす影響も評価する。
サブテーマ2:熱中症警戒アラートの地域間比較や前後比較など基礎解析を行うとともに、distributed lag non-linear modelやDifference in difference approachなどの統計モデルを用いて、アラート導入前後のリスク変化を定量化する。分析結果をサブテーマ4に提供する。都道府県別のアラートの基準値についても検討する。
サブテーマ3:介護施設を対象とした質問票調査から得られた情報を基に現状の課題を明らかにするとともに、影響要因を明らかにするための基礎的な解析を行う。
救急救助統計データを用い、極端事象が救急搬送出動から治療に至るまでの時間(現地到着時間、医療機関到着時間)に及ぼす影響を定量的に明らかにする。
サブテーマ4:エアコン不使用者及び使用者それぞれ数十名をスクリーニング調査により抽出し、精神物理学的及び生理機能的な項目の測定を実施し、温度感受性の差異などエアコン不使用の生理学的背景を検討する。また、エアコンの利用や外出の有無などの個人レベルでの適応的な行動を継続的に記録可能な手法を開発する。
外部との連携
東京大学、海洋研究開発機構、産業技術総合研究所、岡山理科大学、長崎大学、筑波大学、北海道大学、小樽商科大学、九州大学