- 研究課題コード
- 2023CD008
- 開始/終了年度
- 2020~2023年
- キーワード(日本語)
- 移動履歴,ウロコ,ストロンチウム同位体比
- キーワード(英語)
- Migration history,Scale,Strontium isotope
研究概要
生物の移動を把握することは、対象種を保全し資源の持続性を高める上で基礎的なデータとなる。しかし、魚類の移動履歴を推定する手法の開発は発展途上であり、空間スケールを考慮した資源保護対策を打ち出す上で大きな障害となっている。ストロンチウム同位体比(87Sr/86Sr)は水域間で値が変化することが多く、水域の値が生物体組織に直接反映されるため、対象魚が生息していた水域を推定することができる。本研究は年輪状に成長し、対象魚を殺さずとも採集できるウロコの87Sr/86Srを測定し、魚の行動履歴推定する新たな手法を開発し応用する。
研究の性格
- 主たるもの:基礎科学研究
- 従たるもの:技術開発・評価
全体計画
既年度は、ウロコおよび耳石のストロンチウム同位体比分析を研究分担者とともに実施した。耳石分析は、東京大学理学部に導入されている、レーザーアブレーションMC-ICP-MSを用いてい行った。本分析機器を用いることで、1日あたり約50個体ものスピードで分析を実施することができた。すでに250個体以上の分析が完了しており、分析結果から長良川サツキマスの出身河川(流域)が複数あることが推定できた。本結果は、ステークホルダーである長良川漁協の方々に報告しており、現場の声(漁獲・目撃情報)から以下解析方法の改良を試みている。一方、ウロコの分析に関してはレーザーアブレーションを用いると、ウロコに多く含まれるリン酸とカルシウムやアルゴンが反応し、40Ca31P16O(分子量:87)や40Ar31P16O(分子量:87)といった87Srと質量の等しい分子が発生するため、分析が困難であることがわかった。なので、他の分析機器を使用することを検討する。また、河川のストロンチウム同位体地図および耳石のストロンチウム同位体分析結果を用いて対象魚(サツキマス)の移動履歴推定を行うために、状態空間モデルの開発に着手している。
さらに、ダム湖の建設がカワムツ、カワヨシノボリおよびアブラハヤといった淡水魚の移動履歴に与える影響を検証するために、木曽川に建設されたダム湖に流れ込む支流のストロンチウム同位体分析も同時に実施した。次年度以降に耳石及びウロコのストロンチウム同位体比分析を実施し、ダム湖のある河川と無い河川で、淡水魚の支流間移動に違いがあるかを推定する予定である。
今年度の研究概要
今年度は、長良川サツキマスの分析試料を増やすとともに、琵琶湖など他の流域においても同様の分析を試みる。また、河川水および耳石のストロンチウム同
位体分析結果を状態空間モデルにより解析することで、サツキマスの詳細な移動経路を推定する。状態空間モデルは現在開発を進めており、2022年度中には妥当
なモデルを開発できると考えている。
外部との連携
富山大学学術研究部理学系 太田民久助教(代表)
京都大学生態学研究センター 佐藤拓哉准教授 (分担)
課題代表者
末吉 正尚
- 生物多様性領域
琵琶湖分室(生物) - 研究員