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温暖化に伴う河川性魚類の分布変化予測とダム運用による緩和策の検討(令和 4年度)
Predicting the interacted impacts of climate change and dams on fish distributions and the mitigation by dam operations.

研究課題コード
2225CD001
開始/終了年度
2022~2025年
キーワード(日本語)
温暖化,生息地分断,局所絶滅
キーワード(英語)
Global warming,habitat fragmentation,local extinction

研究概要

温暖化が引き起こす河川水温の上昇は、河川性淡水魚の分布域をより高標高(上流方向)へシフトさせると考えられている。また、その際、分布域が本川から個々の支川に細分化すること、ダムなどの構造物によって上流へのシフトが阻害されることが指摘されている。一方で、ダムからの放流水の水温を操作可能な「選択取水機能」が、ダム下流の水温上昇を抑える温暖化緩和策として期待されている。本研究では、応募者が東海地方木曽三川流域で開発してきた淡水魚の分布予測モデルを発展させ、?温暖化に伴う淡水魚種の分布変化の定量化、?支川やダムで細分化された個々の分布域における個体群絶滅リスク評価を行うことで、?温暖化に脆弱な種を選定し、その生態学的特性を整理する。そして脆弱種を対象に、?ダム下流への選択取水とダム上流への個体移植の2つの緩和策によって、どの程度脆弱種の分布域縮小を緩和できるのかを評価する。

研究の性格

  • 主たるもの:技術開発・評価
  • 従たるもの:基礎科学研究

全体計画

本研究の仮説を検証するために、4年度計画で6つのステップに分かれた解析を行う。初年度は、気温から水温を予測するモデル(ステップ1)と水温から魚類分布を予測するモデル(ステップ2)の構築及び制度上昇であることである。これまで木曽三川約100地点で計測中の水温・気温データの関係から、統計学的手法で予測モデルを構築する。気温データのほかに同地点1kmグリッドでの環境要因(勾配、土地利用、斜面方向など)を用いて、予測モデルを構築する。次に、水温から魚類の分布を予測する。水温観測地点周辺で調査された淡水魚種の在不在データに対する、環境要因(標高,河川勾配,土地利用,流域面積)と水温指標値(夏季最高水温、冬季最低水温など)の関係性をモデル化し、水温から魚類の分布を予測可能なモデルを構築する。2-3年目は、公表されている将来の気候変動予測値と初年度に開発した予測モデルを用いて、水温の変化と魚類の分布変化を予測する(ステップ3)。そして、現在の分布データから開発済みの各魚種の生息域サイズ-生息確率モデルを用いて、細分化された個々の分布域における局所個体群の消失リスク評価ならびに流域全体の分布域の量的評価を行う(ステップ4)。最終年度は、気候変動下において分布域を増やす種、減らす種の生態学的特性を整理する(ステップ5)。図鑑などから整理された種ごとの生態学特性と生息域の変化量との関係性を解析する。最後に、木曽三川流域に存在する73のダムを対象に、個々のダムで選択取水(下流一定距離を現状水温に維持)と上流への個体移植を行うことで、各魚種の分布域がどれだけ拡大するか定量化する(ステップ6)。この定量値をもとに、効果の高いダムと緩和策の組み合わせをリスト化する。

今年度の研究概要

今年度は、水温モニタリングならびに魚類の継続調査を行うとともに、水温予測モデルと魚類分布予測モデルの開発・発展を行う。魚類分布予測モデルはすでに簡易モデルが構築済みであるが、水温の代わりに標高を用いているため、水温に置き換えて再構築する。この際、水温変動のデータから、魚類にとって有用な水温指標地(夏季最高水温、冬季最低水温、高温水温持続時間など)を算出し、種ごとに重要な水温指標地を明らかにする。年度内を目標に本モデルの成果公表を目指す。水温予測モデルは、まずは統計学的手法で推定を行うが、同流域で開発されつつある様々な水温予測モデルとの比較を行い、水温予測精度の検証を行う。

外部との連携

本研究は、次の外部研究機関・課題とデータを共有して推進予定である。環境総合推進費「水防災・農地・河川生態系・産業への複合的な気候変動影響の評価手法の開発と適応策の共創(代表 岐阜大学原田守啓)」、科研費基盤B「気候変動に伴う河川生態系のリスク評価:統計モデルとメソコスム実験の融合(代表 北海道大学Jorge Garcia Molinos)」。

課題代表者

末吉 正尚

  • 生物多様性領域
    琵琶湖分室(生物)
  • 研究員
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