- 研究課題コード
- 1821CD001
- 開始/終了年度
- 2018~2021年
- キーワード(日本語)
- 界面活性剤,吸入
- キーワード(英語)
- surfactant,inhalation
研究概要
我が国ならびに韓国で死亡事故に繫がった、陽イオン界面活性剤の曝露経路別安全性評価に関する研究を行う。陽イオン界面活性剤をミストとして吸入した場合、肺胞表面を被覆しているリン脂質であるサーファクタントの生理活性を撹乱し、呼吸不全に至ると考えられる。まず、細胞を用いたin vitro毒性研究において、気液界面曝露方法を用いて細胞に陽イオン界面活性剤や陽イオン荷電粒子をエアロゾルとして曝露して、炎症メディエーターの産成に関する研究を行う。次に、小動物を用いたin vivo毒性研究において、in vitro研究で得られた結果を肺組織を用いて確認する。並行して、サーファクタントを模擬した脂質単層膜を用い、陽イオン界面活性剤の添加がリン脂質の表面活性に及ぼす変化を定量的に求める。これら、in vitro、in vivo毒性研究に加え、脂質単層膜を用いた in chemico研究を進めることにより、消毒剤として日常使用されている化学物質の曝露経路の違いによる安全性評価を確立する。
研究の性格
- 主たるもの:基礎科学研究
- 従たるもの:応用科学研究
全体計画
初年度は、呼吸器系細胞や血管内皮細胞を用いたin vitro系の実験のほか、表面張力計を用いて陽イオン界面活性剤が肺サーファクタントの界面に及ぼす影響について詳細に調べる。初年度に用いた塩化ベンザルコニウムと塩化セチルピリジニウムに加え、陽イオン系界面活性をもつエアロゾルとして安定に気中に存在しうるポリヘキサメチレンビグアナイドを用いて研究を進める。上記in vitro試験の結果をもとに、実際肺を構成する細胞が、陽イオン界面活性剤のエアロゾルに気液界面曝露した場合に起こる変化についても、同様に調べる。ジパルミトイルホスファチジルコリンを用いた表面張力性測定や、陽イオン界面活性剤を添加することによる表面活性の変化を調べた後、実際の肺サーファクタントを用いてLB膜を作成し、陽イオン界面活性剤が肺表面活性に及ぼす影響について調べる。マウスを用いて、ごく低用量の陽イオン界面活性剤エアロゾルの吸入実験を行う。 吸入実験が困難である場合は、気管内投与実験で代用すし、肺の表面活性の変化に伴う炎症過程について詳細に解析する。
今年度の研究概要
今年度は実験動物個体より調製したマクロファージを用いて、インフラマゾーム形成のメカニズム研究をさらに進める予定である。実験方法としてはC57BL/6マウス骨髄細胞をM-CSFにより刺激してマクロファージに分化させ、界面活性剤を曝露することによりインフラマゾーム形成が見られるかどうか調べる。培養細胞において見いだされた知見を実際動物個体より調製した細胞において検証し、陽イオン界面活性剤の炎症誘導機序を明らかにする。一方で、G3BP1を含むstress granules (SGs)の誘導をマーカーとした刺激応答性細胞内相分離の実験系を確立しつつある。陽イオン界面活性剤や陰イオン界面活性剤に曝露した細胞におけるSGsを測定することにより、陽イオン界面活性剤が膜構造を伴わない相分離にどのような影響を与えるのか調べる。まず、G3BP1を強発現させたCHO-K1やHEK293培養細胞を用いた実験系を用いて、SGsを形成する界面活性物質やその関連物質をスクリーニングする。さらに、インフラマゾーム形成実験時と同様に、マウス骨髄由来のマクロファージを用いて陽イオン界面活性剤を曝露した細胞におけるSGsの形成についても調べる。これまでの研究成果とあわせて、経気道的に曝露した陽イオン系面活性剤が呼吸器に及ぼす生体影響に関する総合評価を行う。
外部との連携
名古屋市立大学医学部
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