- 研究課題コード
- 2124CD002
- 開始/終了年度
- 2021~2024年
- キーワード(日本語)
- 物質フロー,気候変動,科学的目標,資源生産性
- キーワード(英語)
- Material flow,Climate change,Science-based target,Resource efficiency
研究概要
地球の環境容量を超過することなく、増加し続ける世界人口の基本的欲求を充足する資源生産・消費システムの構築は人類が直面している最重要課題である。しかし“環境容量下において、いかなる資源を、いかなる国が、どの程度利用可能か”は科学的に解明されておらず、国際調和のとれた取り組みに不可欠な科学的目標値が確立されていない。本研究は、環境制約下における世界の資源循環構造を精緻に表現する新規の数理モデルを開発し、地球の環境容量と厳密に整合する資源フロー・ストック・生産性目標の構築を目的とする。研究成果は、資源利用に関する国際的目標設定の議論を支援すると共に、日本の次期循環型社会推進基本計画における各種数値目標の科学基盤強化に貢献する。
研究の性格
- 主たるもの:政策研究
- 従たるもの:
全体計画
システム分析を基礎とする以下の1から5を各種資源に順次適用することで上記の目的を達成する。なお対象資源はUNEP国際資源パネルの分類に倣い、金属・土石系鉱物・プラスチック・バイオマスとする。
1.現状分析の実施
世界231の国・地域における過去110年間の資源フロー・ストック・生産性を同定することで、目標値開発の基礎となるデータを確立する。この際、解析は申請者の前研究課題(科研費番号:19K24391)において開発した動学資源フロー・ストックモデルを応用することで行う。231という詳細な国・地域区分での分析を可能とする国際貿易データの整備に関しては、申請者が所属する国立環境研究所で継続的に開発・改良している手法を用いて、国際連合貿易統計データベースにおける約6000品目から各種資源関連品目を網羅的に抽出する。これにより、歴史的な資源循環構造がグローバルスケールで詳細に解明される。
2.物質フロー指標体系の構築
現状分析と並行して、物質フロー指標の体系的レビューを実施することで、持続可能な資源生産・消費システムへの転換の進展度合いを適切に表現する一連の評価指標体系を構築する。既に申請者らは金属に関する過去約150本の論文を整理し、日本や欧州で採用されている資源生産性や循環利用率のみでは、進展度合いを適切に表現できないことを明らかにしている(Watari et al., 2020, 2021)。そこで、申請者が開発した体系的レビュー実施手順を、土石系鉱物・プラスチック・バイオマスにも順次適用していくことで、目標値提示の際に採用されるべき一連の指標体系を提案する。
3.動学最適化型モデルの開発
手順1で利用する動学資源フロー・ストックモデルを、ライフサイクルインベントリデータベース(Ecoinvent等)および環境容量データ(カーボンバジェット等)と接続することで、時系列目標値を導出するための動学最適化型モデルを開発する。これは、資源の採掘から精錬・製造・利用・廃棄そしてリサイクルから成る一連の資源循環プロセスに伴う環境影響を地球の環境容量と厳密に連動させて将来の資源利用可能量を算出する新規数理モデルである。この際、コードは全てフリーソフトウェアであるPythonで記述し、オープンデータとして広く公開する。これによりオープンな議論が喚起され、モデルの精緻化および当該分野の科学的基盤熟成に貢献する。
4.動学最適化型モデルの適用による時系列目標の開発
手順3において開発した動学最適化型モデルを各種資源に適用することで、2100年までの資源フロー・ストック・生産性目標を開発する。この際、制約要因となる地球の環境容量は資源利用との関連の強さを鑑み、気候変動・生物多様性損失・土地利用量・水消費量とし、各指標の限界点は既存研究 (Lucas et al., 2020; Steffen et al., 2015) を参考に設定する。2100年までという超長期のシナリオを検討する際には、技術開発や社会経済など様々な動的変化要素の考慮が不可欠であるため、本研究では、燃料転換やエネルギー効率改善、循環経済の進展など複数の要素をパラメータ化し、将来の不確実性をシナリオとして表現する。つまり、技術開発や社会経済の進展状況に応じて複数の目標値が整合的に導出されるのである。これにより、不確実な将来動向を考慮しつつ、技術・経済・資源循環という複数の要素が厳密に整合した資源フロー・ストック・生産性目標が完成する。
5.目標達成に必要な戦略・政策オプションの特定
最後に、手順1〜4によって構築された世界および231ヵ国・地域レベルの時系列目標の達成に必要な戦略・対策オプションを具体的に特定する。この際、技術レベルや将来の経済・人口展望などにより、達成すべき目標値は国によって大きく異なることが予測されるため、目標値の差異に着目した検討を実施する。具体的には、まず学術論文・技術レポート・各国政府の政策文書を参考に、可能性のある戦略・政策オプションを網羅的に整備する。そして開発した各国の時系列目標達成に向けて、いかなる戦略・政策を、いつまでに、どの程度実施する必要があるのかを明らかにする。
以上1〜5を全て実施することにより、資源消費に関する目標値の開発からその達成に向けて必要な対策が、詳細かつ科学的に明らかになる。
今年度の研究概要
世界231の国・地域における過去110年間の資源フロー・ストック・生産性を同定することで、目標値開発の基礎となるデータを確立する。この際、解析は申請者の前研究課題(科研費番号:19K24391)において開発した動学資源フロー・ストックモデルを応用することで行う。231という詳細な国・地域区分での分析を可能とする国際貿易データの整備に関しては、申請者が所属する国立環境研究所で継続的に開発・改良している手法を用いて、国際連合貿易統計データベースにおける約6000品目から各種資源関連品目を網羅的に抽出する。これにより、歴史的な資源循環構造がグローバルスケールで詳細に解明される。
- 関連する研究課題
- 25969 : PJ1_物質フローの重要転換経路の探究と社会的順応策の設計
- 25564 : 資源循環分野(イ政策対応研究)
- 25565 : 資源循環分野(ウ知的研究基盤整備)
課題代表者
渡 卓磨
- 資源循環領域
国際資源持続性研究室 - 主任研究員
- 博士(環境学)
- システム工学,機械工学