- 研究課題コード
- 2125FP138
- 開始/終了年度
- 2021~2025年
研究概要
福島第一原子力発電所事故を含む東日本大震災等の災害から得た経験知を踏まえた、被災地での中長期的な環境影響の実態把握・評価、地域との協働を交えた被災後の環境回復・環境創生のための実践的研究、将来の大規模災害に備えた強靭で持続可能な地域社会構築のための研究等、災害環境学の確立を目指す。
研究の性格
- 主たるもの:応用科学研究
- 従たるもの:モニタリング・研究基盤整備
全体計画
先見的・先端的な基礎研究として、福島第一原発事故後の初期における放射性物質の動態を把握し、それに基づき環境管理手法を構築する。具体的には、3 年目を目途に、主として福島県浜通り地方の河川流域を対象とした原発事故由来の放射性物質の初期動態を把握する。また 5 年目までに、その結果を踏まえた事故後初期の環境モニタリングのあり方や環境管理手法を検討し、技術指針として取りまとめる。また、福島第一原発事故後の放射能汚染廃棄物等を対象とした処理システムを検証し、その結果をもとに原子力施設立地地域における原子力災害予測を踏まえて原子力災害廃棄物処理計画を検討し、処理支援システムを構築する。具体的には、3 年目までに福島第一原発事故後の処理システムの検証を進めるとともに、原子力災害予測を踏まえた一般環境中の汚染状況から除去土壌や汚染廃棄物量を推計する。また 5 年目までに、事故後に選択可能な処理方策を多面的に考慮できる処理支援システムを構築して、原子力災害廃棄物処理計画の策定に向けた基礎資料を作成・公開する。さらに、将来の原子力発電所事故による野生生物への遺伝的影響を評価するため、全国の原子力発電所周辺にて野生アカネズミを捕獲し、事故前試料として保存するとともに遺伝情報を取得する。具体的には 5 年間に、原子力発電所周辺において一ヶ所あたり 20-30 頭のアカネズミを捕獲し、頭骨の標本化、肝臓や筋肉の収集及び生殖器の組織標本作製を行う。また、一部試料よりゲノム情報を取得し、捕獲場所、属性情報及び遺伝情報の一部を公開する。以上の取組により、将来の原子力災害発生時の放射性物質の環境モニタリング、放射能汚染廃棄物管理、野生生物への放射線影響等、環境面から備えるための包括的な環境管理手法の構築に貢献する。
政策対応研究として、東日本大震災・原子力災害からの環境回復・環境創生研究を行うための基盤情報として、福島県内の自治体が策定する環境に係る行政計画(復興・SDGs 関連計画を含む)、実施する環境政策とその実施体制を調査・分析する。これらを通じて、自治体に対する環境計画の策定や環境政策の立案に貢献する。また、災害廃棄物処理の初動対応に係る技術的課題に対して、科学的見地から対応策を提案するための基礎的な現象理解や技術開発を行う。これらを通じて、災害廃棄物の初動対応に必要となる発生量推計や、仮置場の設置方針や一次仮置場での処理等に係る施策への科学的根拠を担保するとともに、迅速かつ円滑な初動対応の意思決定や平時の対策立案に貢献する。さらに、災害廃棄物処理と災害時の化学物質管理の課題に対し、災害環境マネジメント連携推進オフィスの活動を通して、国内における科学的・技術的観点からの支援を提供しつつ、社会全体として災害環境マネジメント力を向上させる取組を推進する。平時において、事例データの蓄積・整理・公開、政策立案支援、学術ネットワークの醸成、緊急時モニタリングの事前準備を進め、災害時に円滑に対応するための準備を進める。
また、災害時においては、被災自治体や国等による行政支援と連携しつつ、主に技術的な観点からの支援を提供し、状況に応じて情報収集を行う。上記の事業について、各年度で過年度の災害廃棄物処理事例に関する情報を蓄積するとともに、データベースとオンラインツールを統合した災害廃棄物情報プラットフォームの運用開始と学術専門家ネットワークとの連携による対策支援方法の提示と運用を目指す。また、平時/緊急時の災害廃棄物と化学物質に係る対策への統合的な支援枠組みの提示と試行的運用を目指す。これらを通じて、災害時及び平時における国・自治体及び関係主体間の連携による災害環境マネジメント向上施策の促進を図る。
知的研究基盤整備として、福島第一原発事故によって生じた避難指示区域の解除やそれに伴う住民帰還の動向を踏まえて、自然・社会環境における放射性物質の動態や放射能汚染による生物・生態系への直接的、間接的影響に係るモニタリングとして、?廃棄物・資源循環に伴う放射性セシウム・フローのモニタリング、?多媒体環境における放射性セシウムの環境動態モニタリング、?生態系モニタリングをそれぞれ戦略的に実施する。具体的には、?については、福島県内における廃棄物や資源の再生利用等に伴う放射性セシウムのフローを把握し、それを基に被ばく線量評価を実施する。さらに、環境動態における放射性セシウムのフローと統合して、その空間分布を可視化する。また、事故由来の放射能汚染廃棄
物の処理処分全般に係る記録を作成し、英文報告書として取りまとめてホームページから発信する。?については、大気に関しては飯舘村で1か月単位での大気浮遊じんを、山林では南相馬市等で年 1 回の頻度で土壌を、河川水系では浜通り地方の主要河川における月 1 回の河川水と年 1 回程度のダム湖底質をそれぞれ採取、測定し、経年的あるいは季節的な放射性セシウムの濃度変動傾向を把握する。生物については南相馬市等の河川とダム湖で年に 4 回の頻度で採取、測定する。また、気候変動が放射性セシウムの環境動態に及ぼす影響把握にも取り組む。?については、陸域約 50 点において哺乳類・鳥類・カエル類・昆虫類の分布に係る経年調査を実施する。また、福島県沿岸域の 9 定点において、夏季と冬季に魚介類調査を行い、底棲魚介類群集の質的及び量的変化の把握に取り組む。これらを通じて、観測データ等の災害環境研究プログラムでの活用を図るとともに、地域の様々なステークホルダーへの情報提供を通じて、生活圏における環境リスクの軽減に貢献する。また、広報機能の拡充と自治体等との地域協働研究活動の窓口的機能の整備を進めるととともに、一体的に取り組むことで、?自治体や地域住民と協働したセミナー等の開催等による環境に関する自治体職員や市民を対象とした対話活動の推進や、?刊行物の発刊や WEB や SNS からの情報発信、コミュタン等県内の情報発信施設と連携した取組等による体系的な情報発信の推進、?高校生・大学生等次世代層との対話や協働による環境課題・地域課題
に関する教材・資料の作成、?自治体や NPO/NGO、民間企業、学校等に対する協働相談窓口の設置等を行う。以上の福島県内の様々なステークホルダーとの協働を通して、福島の環境復興、更には持続可能な地域づくりに向けたボトムアップ型の取組を環境研究面から支援し、その推進に貢献する。
今年度の研究概要
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課題代表者
林 誠二
- 福島地域協働研究拠点
- 研究グループ長
- 博士(工学)
- 土木工学,林学