- 予算区分
- TD JST-RISTEX
- 研究課題コード
- 2023TD001
- 開始/終了年度
- 2020~2023年
- キーワード(日本語)
- ELSI,専門知
- キーワード(英語)
- ELSI,expert knowledge
研究概要
科学知が不確実性を伴う状況下での、専門家の社会への参画や専門知の社会適用は、単なる科学知の提供に留まらず、さまざまなELSIを生み出す。新興感染症COVID-19をはじめ、こうした議論が構築される重要な場となっているのは、いまやマス/ソーシャル・メディアが渾然一体となったメディア空間である。
本プロジェクトは、蓄積した膨大なCOVID-19のメディア分析を基に、計算社会科学と科学技術社会論の手法を中心に、ELSIが構築される機序の解明に取り組む。さらに、今後立ち現れるだろう萌芽的科学技術も対象として、メディア分析を通じてELSIに関する社会的議論の萌芽を捉え、専門知を社会の中に位置づけていくRRIの道筋を明らかにする。
研究の性格
- 主たるもの:行政支援調査・研究
- 従たるもの:政策研究
全体計画
テーマ1:COVID-19に関するメディア空間の科学的議論の分析
パンデミックとなった新興感染症COVID-19は、日本社会をも大きく揺さぶった。その対応のなかで特筆すべきは、COVID-19対策において—日本社会では極めて稀なことに—専門家が社会の議論を主導しようと試み、メディアを通じて語ったことである。さらにはELSI/RRIについて熟知した研究者が中心的にこの専門家組織に係わり、社会の議論を喚起しようと試みたことも重要な点である。この本邦において稀有な挑戦は多くの賛否を浴びたが、その社会的影響や意味は、まだきちんと測られ、検討されてはいない。
このテーマ1では、日本社会のメディアにおけるCOVID-19議論の推移を捉えることから始め、COVID-19に関するリスク観がメディアでどのように形成されたかを検討すると共に、発信当事者の振り返りも促しながら、専門家の唱道が社会のリスク観に与えた影響の効果測定を行うことを目指す。この成果は、今後のELSI/RRIの議論が参照すべき、重要な振り返り研究となることが期待される。
テーマ2:メディア空間における萌芽的科学技術のELSI構築過程の分析
テーマ2は、これまでの提案者らの研究の蓄積と、項目2で得られる成果を援用しながら、メディア空間におけるELSI構築のダイナミズムを、より詳細に解き明かそうという試みである。この中では、研究期間中に立ち現れるであろうELSIを帯同する萌芽的科学技術、あるいはRRIの問われる科学イシューについての分析を行う。
テーマ3:ハイブリッド・メディア時代の専門知助言のあり方に向けた規範的検討
テーマ3は、テーマ1、テーマ2の成果を踏まえた、主に科学技術社会論とメディア論を踏まえた実践的提言の構築を目指す研究である。またこのテーマは、前章で述べた大きな問い、「科学技術のリスク状況における専門知の役割とはどのようなものであるべきか?」に対する回答を模索し、実践規範への埋め込みする試みでもある。
今年度の研究概要
日本国内のCOVID-19禍にあたり、厚生労働省に設置された「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議(EMN-CDC)」や、その支援組織で研究代表者も参加する「新型コロナ専門家会議 有志の会(COVID-PAGE)」は、2月24日以降、計15回にのぼる「提言」を送出し、また留意すべきELSIについて注意を喚起しようと試みた。しかし、これらの提言はどのようなチャンネルで、どのような人々に、どのように拡散したのか、という検討は未だ行われていない。
蓄積した豊富なメディア議論のデータをもとに、ハイブリッド・メディア内でのリスク観の形成・増幅過程のなかで、専門家の言説がどのように流布し、またELSIの議論を喚起しようという試みがどのように消費されていったのかを分析すると共に、この結果を踏まえたEMN-CDC/COVID-PAGEメンバーと協力し、振り返りの分析を行う。
外部との連携
参画・協力機関:早稲田大学, 東京大学, 豊橋技術科学大学, 放送大学, 国立環境研究所。早稲田大学の田中幹人准教授が研究代表者である。
課題代表者
林 岳彦
- 社会システム領域
経済・政策研究室 - 主幹研究員
- 理学博士
- 生物学