- 予算区分
- BB 環境-地球一括
- 研究課題コード
- 1923BB001
- 開始/終了年度
- 2019~2023年
- キーワード(日本語)
- グローバル炭素収支,大気酸素,炭素安定同位体,放射性炭素
- キーワード(英語)
- global carbon budget,atmospheric oxygen,stable carbon isotope,radioactive carbon
研究概要
2015年にCOP21で採択された「パリ協定」では産業革命以後の全球平均気温上昇の上限を2℃未満とし、そのために21世紀末までに人為的な温室効果ガスの排出と自然吸収源による除去を均衡させることが目標とされた。この目標達成のための排出削減計画を策定する上で、地球温暖化の影響によって海洋・陸域生物圏のCO2吸収量が将来どのように変化するかを予測することは極めて重要な課題である。これまで人為起源CO2の約半分は海洋や陸域生物圏によって吸収されてきたが、温暖化はこれらの吸収能力を低下させる可能性がある。また、CO2の自然吸収源の将来予測(→自然吸収源のCO2吸収量の将来予測?;吸収源の予測か、吸収量の予測か)は温暖化の進行速度とも密接に関連するため、温暖化に対する適応計画を実施する速度を考える上でも重要である。
そこで、本研究では地球温暖化が地球表層の炭素循環に及ぼす影響を大気・海洋の観測から明らかにすることを目的とする。CO2の炭素安定同位体(13C)や放射性炭素同位体(14C)、大気中の酸素濃度、さらに表層海水の溶存無機炭酸中の13Cや14Cは、地球表層の炭素循環の各プロセスにおいて特徴的な変化を見せるため、それらの長期観測から炭素循環の変動を推定することができる。本研究ではアジア・太平洋地域に広く展開した観測網を用いて同位体や酸素の広域観測を実施し、過去のデータも援用しながら、炭素循環の長期変化傾向と気候変動との関係を明らかにし、将来予測のための基礎的なデータの取得を目指す。さらに、本研究で蓄積されるデータの公開を促進し、内外のモデル研究におけるデータの利活用を積極的に推進することで、炭素循環に対する温暖化影響の解明の深化や新たな現象の把握などを進めることが期待される。
研究の性格
- 主たるもの:モニタリング・研究基盤整備
- 従たるもの:応用科学研究
全体計画
本研究ではこれまでの地球一括計上課題において構築してきたアジア・太平洋域を広く覆う広域観測網を活用し、炭素循環の指標成分である大気中CO2の安定同位体(13C, 18O)や放射性同位体(14C)、さらに、大気中酸素濃度の長期観測を行う。各地点から大気試料をパイレックスガラス製またはステンレス製のボトルに絶対圧で2〜3気圧程度で採取し、研究所に持ち帰った後、各種成分の分析を行う。また、大気中酸素濃度については現場連続測定も複数の地上ステーションおよび貨物船で実施し、時間的にも空間的にも高密度の観測を実現する。これらの観測結果から、各種成分の時空間変動を求め、大気−陸域生物圏間および大気−海洋間のガス交換の年々変動や長期的な変化傾向、さらにはそれらの地域的な違いについての情報を抽出し、気候変動と炭素循環の関係を明らかにする。さらに、大気中酸素濃度およびCO2の同位体の長期データのクオリティーチェックを徹底した後に、DOIを取得し、研究所のウェブサイトからデータを公開する。なお、本研究で活用する地上ステーションおよび貨物船の各種情報は以下の通りである。
今年度の研究概要
昨年に引き続き、アジア・太平洋域に展開した地上ステーションおよび貨物船において大気試料のボトルサンプリングを継続し、大気中酸素濃度およびCO2の安定同位体(13C、18O)、さらにCO2の放射性炭素同位体(14C)の広域観測を実施する。大気中酸素濃度については、連続測定装置による現場観測も実施する。観測された大気中酸素濃度、13Cおよび14Cの変化に基づき海洋・陸域生物圏のCO2吸収量の定量化や、その時間的変化傾向を明らかにする。また、地上ステーションにイベントサンプリングシステムで得られた汚染イベント時の14C観測結果から、東アジア域における化石燃料や森林からのCO2の影響を推定する。さらに、太平洋上で得られた大気中酸素濃度の季節変動を解析することで、大気‐海洋間のガス交換の詳細を調べる。これら大気観測に加え、太平洋を運航する貨物船を用いて海水に溶存する無機炭酸中の13C、14C、及び酸素濃度を測定する。得られたデータから、大気−海洋間のCO2および酸素の交換量を推定し、大気観測の理解を深める。
課題代表者
遠嶋 康徳
- 地球システム領域
- 特命研究員
- 理学博士
- 化学