- 予算区分
- CD 文科-科研費
- 研究課題コード
- 1821CD002
- 開始/終了年度
- 2018~2021年
- キーワード(日本語)
- 放射性核種,化学物質,重金属,潮間帯,浅海域,付着動物,イボニシ,底棲魚介類,繁殖,加入
- キーワード(英語)
- radionuclides, chemical substances, heavy metals, intertidal zone, coastal waters, sessile invertebrates, rock shells, megabenthos, reproduction, recruitment
研究概要
2011年3月の東日本大震災及び原発事故後、同年12月から福島県を中心に潮間帯の生物相調査を継続してきた結果、無脊椎動物の種数と個体数密度が福島第一原子力発電所(1F)近傍、特に南側で有意に低く、1Fを含む、広野町〜双葉町の約30kmの範囲でイボニシが全く採集されないことが明らかとなり、2017年9月現在、その回復がなお充分でない。また、2012年10月以降、福島県沿岸で定期的に進めてきた環境・底棲生物相調査の結果、甲殻類の個体数密度が特に南部で顕著に低く、2014年以降、全域で棘皮類も減少している。総じて、魚類を含む底棲魚介類の繁殖・再生産が阻害されている可能性がある。本研究では、拡充した現地調査により、上述の現象を精密に追跡・把握し、その実態を明確にするとともに、作業仮説に沿って各種室内実験を行い、その原因と機構に関する検証と解析を進める。
研究の性格
- 主たるもの:応用科学研究
- 従たるもの:基礎科学研究
全体計画
1.潮間帯の無脊椎生物の質的及び量的変化に関する実態と機構の解明
1.1 定期フィールド調査を継続し、潮間帯における無脊椎動物群集とイボニシ個体群の動態等を調べ、その経時変化から回復過程を評価する。無脊椎動物群集は毎年5月〜6月に福島県の他、宮城県及び茨城県の7定点において付着生物を対象に方形枠調査を実施し、種数、種別個体数密度と重量密度を解析する。イボニシ個体群は毎年4月に福島県浜通り全域で調査し、棲息密度を調べる。また、福島県の定点において毎月調査を実施し、イボニシの産卵状況を調べ、加入と成長も解析する。
1.2 震災・原発事故後の減少と回復の遅延現象の原因究明と機構解析に向け、以下の各種室内実験を実施する。まず、震災・原発事故直後の汚染環境再現を短寿命〜長寿命核種と化学物質を用いて図り、イボニシ等の成体・幼体への急性影響を調べる。なお、供試する放射性核種は、事故直後に1F近傍海水から検出された核種のうち、入手可能な核種の他にいくつかの短寿命核種とする。短寿命核種は「短寿命RI供給プラットフォーム」から供給を受ける予定である。次いで、1F専用港湾海底被覆工事に伴う汚染環境の再現を重金属と濁度に着目して図り、イボニシ等の初期生活史への急性・慢性影響を調べる。なお、供試する重金属は、1F専用港湾海底被覆工事に使用されたセメントに比較的高濃度で含有されるCr、Cu、Zn、Pb等とする。
2.浅海域の底棲魚介類の質的及び量的変化に関する実態と機構の解明
2.1 福島県沿岸(北部(相馬沖)、中部(1F沖)及び南部(いわき沖))の水深10m、20m、30mに設定した9定点において夏季と冬季に環境・底棲生物相調査を継続し、底棲魚類、甲殻類、軟体類及び棘皮類の動態を調べ、記録する。また、震災・原発事故後に減少し、その種個体群の回復が遅延しているとみられる代表種に対する調査も別途、実施する。すなわち、初年度(2018年度)に北部、中部及び南部の定点で試験底曳きとプランクトンネットによる調査を毎月/隔月実施し、種別の出現頻度・豊度等を調べ、当該調査のための代表種を選定する。代表種は移動能力の比較的低い種(小型甲殻類、棘皮類)と生態系の主要構成種(板鰓類(サメ・エイ類)、異体類(ヒラメ・カレイ類))から選択し、2年目(2019年度)以降、詳細調査を実施する。そこでは、生活史初期とともに成体の生態調査(成長・成熟・食性・空間分布・密度などの時空間的変化)も含めて生活環の解明を行い、その後に再生産阻害に関係する生活史段階を推定する。また、餌生物となる動植物プランクトンやベントスの種構成・密度の変化も解析し、胃内容物分析や安定同位体比分析による食物網及び種間関係の解明を行う。以上の調査結果をもとに増殖阻害因子を推定し、それに関する作業仮説を検証するための追加の野外調査を実施する。
2.2 震災・原発事故後の減少と回復の遅延現象の原因究明と機構解析に向け、1.2の潮間帯の無脊椎動物と同様に、また、野外調査結果に基づいた増殖阻害因子に関する作業仮説を検証するための各種室内実験を実施する。また、津波による海底地形変化の影響を調べる実験も実施する。
3.潮間帯無脊椎動物及び底棲魚介類における遺伝子レベルの変化の解明
放射線による遺伝子レベルの変化を明らかにし、種個体群や群集レベルの影響を考察する。
3.1 長期影響解析のための試料の採取:福島県の北部・中部・南部海域において潮間帯から水深30mに至る定点でベントス(貝類、甲殻類、棘皮類等)を年2回定期的に採集し、個体及びDNAを凍結保存する(DNAは乾燥保存も行う)。
3.2 短期影響の解析:巻貝類2種及び二枚貝類2種を対象に次世代シーケンサーを用いたRad-Seq法により地域/定点ごとの遺伝子多型を解析し、放射線による影響を調べる。巻貝類1種については、事故前に採取された凍結個体を用いて時系列的に影響を解析する。また、巻貝類2種に加え、すでに発生実験系の確立している二枚貝類2種の人工授精を行い、得られた胚・幼生のトランスクリプトーム解析を行うことにより、発生に重要な遺伝子への影響を網羅的に解析する。さらに、巻貝類2種及び二枚貝類2種のいくつかの代表的な個体群について全ゲノム解析を行い、放射線による影響をゲノム全体で比較する。
3.3 突然変異率の計測:親子のゲノム比較により、突然変異率を直接計測するため、巻貝類2種(間接発生と直接発生のものそれぞれ1種ずつ)について人工授精による発生実験系を確立する。人工授精により巻貝類2種のそれぞれの親子から得られたゲノム配列を比較することにより、突然変異率を直接計測する。また、巻貝類2種のそれぞれの親子から得られたゲノム配列をさらに深く読むことにより、突然変異率をさらに高精度で求める。3.2で得られた知見及び1.で得られた巻貝類の表現型への影響に関する知見等とも合わせ、原発事故による沿岸生態系代表種への遺伝子レベルの変化を解明する。
今年度の研究概要
1.潮間帯の無脊椎生物の質的及び量的変化に関する実態と機構の解明
1.1 定点におけるフィールド調査を継続し、潮間帯における無脊椎動物群集(5月)とイボニシ個体群の動態等(4月以降、毎月)を調べる。イボニシの産卵状況も調べ、加入と成長も解析する。
1.2 震災・原発事故後の減少と回復の遅延現象の原因究明に向け、室内実験を実施する。震災・原発事故直後の汚染環境再現を短寿命核種と化学物質を用いて図り、イボニシ等の成体・幼体への急性影響を調べる。1F専用港湾海底被覆工事に伴う汚染環境の再現を重金属と濁度に着目して図り、初期生活史への急性・慢性影響を調べる。
2.浅海域の底棲魚介類の質的及び量的変化に関する実態と機構の解明
2.1 福島県沿岸(北部、中部及び南部の水深10m、20m、30mに設定した9定点)において夏季と冬季に環境・底棲生物相調査を継続し、底棲魚類、甲殻類、軟体類及び棘皮類の動態を調べ、記録する。また、震災・原発事故後に減少し、その種個体群の回復が遅延しているとみられる代表種に対する調査も別途、実施する。初年度(2018年)は北部、中部及び南部の定点で試験底曳きとプランクトンネットによる調査を毎月/隔月実施し、種別の出現頻度・豊度等を調べ、次年度以降の調査のための代表種を選定する。
3.潮間帯無脊椎動物及び底棲魚介類における遺伝子レベルの変化の解明
放射線による遺伝子レベルの変化を明らかにし、種個体群や群集レベルの影響を考察する。
3.1 長期影響解析のための試料の採取:福島県の北部・中部・南部海域において潮間帯から水深30mに至る定点でベントス(貝類、甲殻類、棘皮類等)を年2回定期的に採集し、個体及びDNAを凍結保存する(DNAは乾燥保存も行う)。
3.2 短期影響の解析:巻貝類2種及び二枚貝類2種を対象に次世代シーケンサーを用いたRad-Seq法により地域/定点ごとの遺伝子多型を解析し、放射線による影響を調べる。また、巻貝類2種と二枚貝類2種の人工授精により得られる胚・幼生のトランスクリプトーム解析を行うことにより、発生に重要な遺伝子への影響の網羅的解析に取り組む。
3.3 突然変異率の計測:親子のゲノム比較により、突然変異率を直接計測するため、巻貝類2種について人工授精による発生実験系の確立を図る。
外部との連携
鹿児島大学、九州大学、東京大学及びエクセター大学(英国)との共同研究