- 予算区分
- CD 文科-科研費
- 研究課題コード
- 1616CD004
- 開始/終了年度
- 2016~2016年
- キーワード(日本語)
- 環境教育
- キーワード(英語)
- Environmental education
研究概要
全国にある地方環境研究(以下、地環研という)は、そのノウハウをもって地域の環境問題に科学的根拠を提示することに務めている。一方、今日的な環境教育への要請として、持続可能な社会に向け、生活の利便性向上と不可分な関係にある環境問題に対し、合理的な解を見出す科学リテラシーの醸成が求められている。申請者は先行研究で、一つの地環研のノウハウを科学的な環境教育に応用する試みを行ってきた。そこで得た科学リテラシー向上に資する環境教育の可能性を、本申請課題では全国に展開することを目的とする。環境教育に係る地環研のあらゆる情報を網羅的に調べ、【1】新たな教育資源を発掘すると共に、先進的な教育事例の分析から【2】効果的な教育カリキュラムを策定する。【1】と【2】の融合から新たな教育プログラムを試行し、教育効果の評価をフィードバックして教育カリキュラムの完成を目指す。
研究の性格
- 主たるもの:基礎科学研究
- 従たるもの:
全体計画
環境問題は、本質的に生活の利便性向上と不可分な関係がある。持続可能な社会を形成するには、環境問題の本質を科学的に捉え、便益とリスクの間に合理的な妥協点・解決策を見出していく科学リテラシーの醸成が求められる1)。同じく、放射能問題に見る偏見や差別など、環境問題に付随する風評被害に対しても、冷静に対応するため科学リテラシーの向上が重視され、これに貢献する環境教育が期待されている1)。わが国では、環境教育指導資料の刊行や環境教育等促進法の施行などを経て、今や環境教育は様々な主体で実践されるに至った。特に環境教育等促進法では、地方自治体の責務として地域の特性に応じた環境教育の策定が明記され、これにより自治体主導の環境教育が全国的に展開されるようになった2)。しかし、その内容を概観すると、実施主体は行政事務の部門が主であり、自ずと単調な座学或いは自然体験などの感性教育に偏重される傾向がうかがえる。
環境教育は、「(1)環境に対する豊かな感受性の育成」、「(2)環境に関する見方や考え方の育成」、「(3)環境に働きかける実践力の育成」の学習過程を、学習者の発達段階に応じて展開することが重要である(環境教育指導資料)。しかし、自治体をはじめ、現在日本で多く行われている環境教育は、(1)の感性教育を充足するものの、(2)と(3)を充足する教育は不足しているように見受けられる。
一方、全国各地にある地環研は、そのノウハウをもって地域の環境問題に科学的な根拠を提示することに務めている。このノウハウと経験は、環境教育の基本方針における科学リテラシー重視に呼応し、前述の(2)と(3)を充足した教育カリキュラムの軸になり得るのではないか。この仮説のもと、申請者は群馬県の地環研において「PM2.5の見える化と半定量評価による科学的な大気環境学習プログラムの開発と実践(若手B:2014-2015)」に着手し、実証的な成果を得た3)。しかし、これは一つの地環研の事例から示したのみであり、この状態から自発的な全国展開を期待するのは難しい。すなわち、地環研のための効果的かつ効果的な教育カリキュラムを策定するなど、全国的な展開を促進させる地環研の協働が不可欠と考えられる。
以上の学術的背景から、環境教育機能を新たに備えた地環研を全国展開していくために、本申請課題を着想した(図1)。この課題を通して地域の新たな教育拠点を創造することは、日本の環境教育の更なる深化に寄与し、また、科学リテラシーの将来的な醸成による地域社会の持続可能性の向上にも貢献すると考えられる。
今年度の研究概要
【1】地環研の実態把握と潜在的な教育資源の発掘<アンケートとヒアリング>
2007年に環境省は、自治体の環境教育の実践事例2)を全国的に取りまとめたが、この主たる対象は行政部門であり、地環研の環境教育に関する実態はわかっていない。そこで、全国アンケートによって地環研の環境教育に係る実態を調べ、それが有するノウハウも網羅的に調べて、潜在的な教育資源の発掘を行う。先進的な環境教育を実践している地環研に対しては、追加的にヒアリングも行う。
外部との連携
研究代表は群馬県衛生環境研究所の齊藤由倫研究員。
研究分担は高崎経済大学の飯島明宏准教授。