森林土壌のカルシウム供給能に対する火山灰の寄与評価（平成 28年度）
Influence of volcanic ash in soils on Ca cycling in forest ecosystems

研究概要

森林土壌のカルシウム（Ca）供給は、生態系の酸性化抑制と生物への養分供給に重要である。日本では、森林土壌中に混入している火山灰が、Ca 供給に大きく寄与していると考えられるが、火山灰は地形等の影響で不均一に分布しているため、集水域単位での寄与評価は困難であった。本研究では、渓流水中Ca の起源を火山灰・基盤岩・大気に分け、それぞれの寄与率を評価する。まず、火山灰・基盤岩・降水からCa が供給される森林集水域で、Sr 同位体比を用いたCa 起源解析に必要な観測手法を確立し、渓流水や植物に含まれるCa に対する起源別寄与率を定
量評価することを第一目標とする。次に、Ca の起源別寄与率を地質と火山灰混入程度が異なる３集水域で比較することで、Ca 供給源としての火山灰の重要性を示すことを第二目標とする。

研究の性格

• 主たるもの：基礎科学研究
• 従たるもの：モニタリング・研究基盤整備

全体計画

本研究では、地質と火山灰混入程度が異なる３集水域において、以下の観測と解析を実施し、渓流水や植物に含まれるCaに対する、火山灰・基盤岩・降水の起源別寄与率を定量評価する。
　? 渓流水のSr同位体比、Sr/ Ca比、主要元素濃度、pHを把握するための多地点観測を行う。
　? Ca供給起源のSr同位体比を求めるため、火山灰、基盤岩、降水の採取・分析を行う。
　? 各起源のSr同位体比を用いて、渓流水や植物中のCaに対する火山灰の寄与を算出する。
対象地域として伊自良湖集水域、笠間集水域、筑波山集水域を計画している。
平成28年度は笠間集水域の広域調査を実施し、次年度以降の重点調査地域を選定する。
平成29年度は笠間集水域および筑波山集水域における通年調査を実施し、火山灰・基盤岩・降水のエンドメンバーのSr同位体比を得る。
平成30年度は伊自良湖集水域（連携研究者が別事業でデータ取得予定）、笠間集水域、筑波山集水域のデータを総合的に解析する。

今年度の研究概要

平成28年度は、笠間集水域（ここでは、茨城県笠間市だけでなく栃木県のチャート地質の地域も指すこととする）において広域調査を実施して、次年度以降の重点観測地点を選ぶ。まず、地形図と地質図を参考に約30地点で渓流水を採取し、主要元素およびSrの濃度を分析する。Ca濃度が特に高い渓流と低い渓流の流域において、土壌の活性アルミニウムテストにより火山灰分布の簡易調査を行う。以上を総合して、チャート地質で火山灰の影響が強いと予想される地点と弱いと予想される地点を選び、渓流水および表層土壌のSr同位体比を測定する。１回目のSr同位体比の測定結果を踏まえて火山灰の影響がより強いと予想される地点とより弱いと予想される地点を検討するとともに、次年度の毎月降水採取に適した地点を考慮して、２回目の試料採取と分析を行う。以上により次年度に通年観測を実施する重点観測地点を決定する。

外部との連携

連携研究先：アジア大気汚染研究センター、総合地球環境学研究所