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生物多様性と地域経済を考慮した亜熱帯島嶼環境保全策に関する研究(平成 27年度)
Environmental conservation of subtropical islands considering biodiversity and regional economy

予算区分
AO 所内公募A
研究課題コード
1315AO001
開始/終了年度
2013~2015年
キーワード(日本語)
生物多様性,地域経済,環境保全
キーワード(英語)
biodiversity, regional economy, environmental conservation

研究概要

琉球列島に代表される亜熱帯島嶼においては、過去数十年間の土地利用の改変と、それにともなう赤土等の流出が増加しており、農地から河川、沿岸にかけて生物多様性が低下していることが指摘されている。沖縄県では赤土等流出防止条例が1995年に制定され、開発行為による赤土等流出に関する規制が行われるようになったが、耕作地からの赤土等流出対策は努力目標に留まっており、未だ実効的な対策は不充分な状況である。
 沖縄県久米島は、ラムサール条約に登録されており、クメジマボタルなど固有種が生息している。また、島の周囲をサンゴ礁が取り囲んでいる。しかしながら、赤土等流出とそれに伴う川と海の環境劣化が顕著であり、クメジマボタルはH24年8月28日に公表された環境省レッドリストで絶滅危惧Ia類(絶滅のおそれが最も高い)にランクアップされた。
 こうした状況を受け、久米島町役場とWWFジャパン・本提案参画者(山野・林)らが協働し、グリーンベルト設置(農地からの土壌流亡を低減させるため、端を植生する)による発生源対策を行った。
 こうした対策をさらに拡大し継続するために、以下の課題が挙げられる。
(1)生物多様性保全のための赤土等削減目標の提示
(2)赤土等発生源対策の多様なオプションの提示
(3)対策の実現性の社会経済的評価
本研究は、こうした課題を解決し、実現可能な赤土等の発生源対策を立案する。対策は以下の2つの時間スケールを考慮する。
・短期的(数年):現在の農作物を維持した状態での発生源対策を提案する。
・長期的(数十年):農作物の転換を含めた土地利用のデザインを行う。
上記の課題に対応した、以下の3つの達成目標を設定する。
(1)生物多様性の保全目標とそれに必要な赤土等の流出量の削減目標の設定
(2)赤土等の流出メカニズムを解明し、赤土等の流出モデルを構築・改良・適用して、流出量削減のための発生源対策オプションを提示
(3)対策の社会経済的評価による政策メニューの提案

研究の性格

  • 主たるもの:応用科学研究
  • 従たるもの:政策研究

全体計画

沖縄県久米島を対象として、(1)過去記録と現在の比較及び環境の異なる流域の比較により、生息環境の改変に対する生物多様性の変化を明らかにし、保全目標とそれに必要な赤土等の流出量の削減目標を設定する。(2)計測器及び定点カメラによって赤土等の流出の観測を行い、流出モデルを構築・改良・適用して、流出量削減のための対策オプションを提示する。(3)対策の費用効果分析とともに、聞き取り及びアンケート調査によって各種対策の実現可能性を検討し、現在の農作物を維持した状態での発生源対策(短期的対策)と、農作物の転換を含めた土地利用のデザインを行った発生源対策(長期的対策)を提案する。保全目標と対策コストの最適化を行い、現実的な対策を提案する。以上の課題番号に対応するサブテーマを設定するとともに、全体が連携する全体課題を設定する。
 サブテーマ1:農地、河川、河口、沿岸の代表的な生物として、それぞれトンボ、ホタルとその餌生物のカワニナ、マングローブ、サンゴを選定し、現存量・種多様性・ストレス応答の調査を行う。過去記録との比較、環境の異なる流域での調査結果の比較、生育実験により、生物相の保全目標とそれを達成するための赤土等流出削減値を明らかにする。
 サブテーマ2:土地利用調査を行い、農地及び河川に定点カメラと濁度計を設置して継続観測を行うとともに、降雨時に採水を行って赤土等の流出調査を行う。赤土等流出モデルを構築・改良・適用して対策を優先的に行う農地を抽出する。
 サブテーマ3:生物相の保全目標・赤土等流出削減値(サブ1)達成のための対策評価を行う。その際、赤土等流出モデル(サブ2)と対策評価モデル(対策費用最小化モデル、作物選択モデル)をリンクさせる。対策評価モデルの開発に際して、土地利用選択メカニズムの解明および対策の阻害要因特定のための聞き取り・アンケート調査を行う。モデル分析の結果を用い、政策メニューを提案する。
 全体:各サブテーマが連携し、過去から現在と、将来の予測(人口変化、気候変動)に基づいて、なりゆきのシナリオを提示する。その上で、現在の農作物(特にサトウキビ)を維持した状態での発生源対策(短期的対策)と、農作物の転換を含めた土地利用のデザインを行った発生源対策(長期的対策)を提案する。これらに基づいて、保全目標と対策コストの最適化を行い、現実的な対策を提案する。なりゆきシナリオと対策シナリオ両方の結果を行政機関(久米島町役場、沖縄県、環境省等)に提示し、対策の実施に資する。

今年度の研究概要

サブテーマ1:生息環境別の生物相調査、過去の分布情報の整理、実験用散布体の収集、ストレス実験、土地利用の歴史・現状評価、コア解析を統合して、生物多様性保全のための赤土等流出閾値を設定する。
サブテーマ2:土地利用解析、赤土堆積調査、定点モニタリングシステムの運用継続、赤土等を対象とした降雨時流出調査、土壌・施肥・農薬使用量等モデル入力データベースの整備、栄養塩ならびに農薬流出サブモデルの構築と試行計算を行い、サブテーマ3と統合する。
サブテーマ3:赤土流出対策の評価のためのモデルを拡張し、生物に関する調査結果を組み込み、対策実施による生態系への効果を合わせて検討できるようにする。2014年に実施した農家を対象としたアンケート調査の結果に基づき、サトウキビ作型・作物選択モデルの開発を行う。久米島を訪れる観光客を対象とした旅行需要のアンケート調査を実施し、久米島のサンゴ礁の価値の計測を引き続き行う。
全体:なりゆきシナリオの構築を行うとともに、サブテーマ1〜3を統合して保全パッケージとして完成させ普及を図る。

外部との連携

共同研究機関:沖縄県衛生環境研究所、東北大学、東京経済大学、長崎大学、北星学園大学

関連する研究課題

課題代表者

山野 博哉

  • 生物多様性領域
  • 領域長
  • 博士(理学)
  • 地理学,地学,理学
portrait

担当者