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化学気候モデルを用いた太陽活動に伴う気候変化実験(平成 23年度)
Effects of the solar activity on the stratospheric and tropospheric circulations simulated by chemistry-climate model

予算区分
CD 文科-科研費
研究課題コード
0911CD020
開始/終了年度
2009~2011年
キーワード(日本語)
化学気候モデル,準二年周期振動,太陽11年周期,北極振動
キーワード(英語)
chemistry-climate model, Quasi-biennial Oscillation, 11-year solar cycle, Arctic Oscillation

研究概要

 冬季成層圏には北極周辺の西風ジェットで特徴づけられる極渦があり、極渦強度の年々変動は、赤道域で卓越する準二年周期振動(Quasi-biennial Oscillation; QBO)や太陽活動の11年周期と関連して変化することがこれまでに指摘されている。また極渦の強化/弱化は、対流圏における北極振動(Arctic Oscillation; AO)とも関連する。

 QBOが極渦に及ぼす影響に関しては、これまで赤道下部成層圏50 hPa付近の高度のQBOが惑星波の伝播を変えることで影響するとされていた。しかし上部成層圏までを含む客観解析データが提供されるようになり、上部成層圏のQBOの影響の重要性も示唆されるようになった。数値モデルによる実験からも、上部成層圏のQBOを含めることで現実的な極渦変動を再現可能なことが指摘されている。しかしこれらの研究では、上部成層圏のQBOが極渦に影響する具体的なプロセスまでは明らかでない。太陽活動の影響に関しては、特に晩冬に太陽活動の極大期と極小期でQBOの極域への影響が変わることが統計的に示されているものの、そのプロセスに関してまでは十分には分かっていない。

 本研究では、成層圏QBOが極渦変動やAOに及ぼす影響について客観解析データとCCSR/NIES化学気候モデル(chemistry-climate model; CCM)の出力に対し波解析などを用いて調べる。また太陽活動の11年周期がどのようなプロセスでQBOの極域への影響を変えるのかを、初冬や晩冬の違いを考慮しながら調べる。

研究の性格

  • 主たるもの:基礎科学研究
  • 従たるもの:

全体計画

 成層圏過程とその気候における役割(Stratospheric Processes And their Role in Climate; SPARC)の化学気候モデル検証(CCM Validation; CCMVal)国際プロジェクトの近過去気候再現実験では、QBOや太陽11年周期、温室効果ガス、ハロゲン、火山性エアロゾル、海表面温度の年々変動を含めた実験が行われた。近過去気候実験の期間(1980−2000)には、大規模な火山噴火が約10年間隔で起こったため、火山性エアロゾルの影響が太陽11年周期の影響と混在している可能性がある。また、エルニーニョ/ラニーニャなどQBOと周期の近い現象の影響がQBOの影響と混在する可能性もある。本研究では、近過去気候実験から影響を個別に除去した感度実験を行うことで、QBOや太陽活動に伴う影響とその他の因子の切り分けを行う。また多くのアンサンブル実験を行うことで解析結果の信煩性を高める。

 気候モデルには各モデル固有の特性があり、そのため同じシナリオに基づく近過去気候実験であってもモデル間の結果にはばらつきがある。特に変動が大きい極域大気では影響が大きいと思われる。こうしたモデル間の特性の違いが再現性に与える影響を比較するため、他のCCMとの比較を行う。また、モデル固有の特性による誤差を緩和して精度を上げることを試みる。

 さらにCCSRとNIESにおける共同研究で開発された新しいCCMを用いて、近過去気候実験および将来予測実験を行い、結果を解析する。

今年度の研究概要

 モデル固有の特性やモデル間の特性の違いがQBOと極渦との関係に与える影響及びその太陽11年周期に伴う変化を、他のCCMで出力された結果から調べCCSR/NIES CCMの結果と比較するため、前年度より継続してアメリカのNOAA Geophysical Fluid Dynamics Laboratory(GFDL)に滞在し研究を行う。

 CCSRとNIESでは新しいバージョンのCCMの開発を進めており、このモデルでは放射伝達計算のスキームの更新や太陽放射のフラックスの導入方法の更新が行われた。帰国後にこのモデルを用いて近過去気候および将来予測実験とその結果の解析を行う。

 温暖化時には成層圏の気温や循環が変わり、それがオゾンの化学的な生成・消滅量やオゾン輸送を変えることでオゾン分布に影響するとされている。CCMVal-2で行われた将来予測実験にはQBOや太陽活動の影響が含まれていないため、「QBOと太陽11年周期のある将来予測実験」を行い、その出力結果を解析することにより、温暖化時の『QBOと北極渦やAOとの関係』やその輸送に及ぼす影響を解析する。また温暖化により前記の関係やそれに伴う輸送などがどのように変化し、それが将来のオゾン分布にどのように影響するのかを評価する。

外部との連携

アメリカのNOAA Geophysical Fluid Dynamics Laboratory(GFDL)

課題代表者

山下 陽介