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流域圏生態系研究プログラム(平成 23年度)
Assessment of functions and integrity of basin ecosystems

研究課題コード
1115SP060
開始/終了年度
2011~2015年
キーワード(日本語)
流域圏,生態系機能,環境因子,連動関係,戦略的環境アセスメント,メコン河,自然再生
キーワード(英語)
basin, ecosystem function, environmental factor, linkage, strategic environmental assessment, the Mekong River, nature restoration

研究概要

 生物多様性国家戦略2010において生物多様性と生態系の回復は重要な国家戦略と位置付けられている。生物多様性のホットスポットとして重要な生態系の保全と、生態系機能を最大限活用して生物多様性の減少を防止することが強く求められており、そのため生態系機能の健全性評価に関する研究は喫緊の課題となっている。 一方、健全性評価には生態系機能の定量評価が不可欠であるが、その評価手法はほとんど確立されていない。生態系機能と環境因子との連動関係や相互作用についても多くが未解明なままであり、生態系機能の保全、再生・修復に向けた具体的な取り組みが大きく進展しない要因となっている。
 そこで、流域圏(森林域、湖沼・河川、沿岸域)における生態系を対象として、水・物質循環に着目し、生態系機能の新たな定量的評価手法の開発・確立を行う。典型的な生態系に対して、長期・戦略的モニタリング、新規性の高い測定法やモデル解析を駆使して、生態系機能・サービスと様々な環境因子との連動関係(リンケージ)を定量的に評価する。さらに、機能劣化が著しい自然生態系を対象に劣化メカニズムの解明と機能改善手法の構築を図る。これらの科学的知見をもとに、メコン河等の広域スケール流域圏における重要な生態系を戦略的に保全し、生態系機能を最大に発揮させることで生物多様性を減少させない施策に資する戦略的環境アセスメント手法を開発する。これらの成果に基づき流域圏の環境健全性を評価して、生態系機能の保全、創造、環境修復や自然再生の在り方を提言する。
 さらに、研究成果に基づいて、流域圏における環境因子と生態系機能、環境因子と生物多様性、生態系機能と生物多様性を定量的に繋げる方向やアプローチを展望する。
以上の研究を推進することにより、以下の目標達成と社会的・学術的貢献を目指す。
(1) 人工林荒廃と窒素飽和現象の関連性を解明し、適正な人工林管理施設の推進に貢献する。落葉樹混交の種多様性回復が窒素貯留能に与える影響を評価して、窒素飽和改善シナリオ構築に貢献する。
(2) 長期モニタリング、新規の測定手法、湖沼モデル解析等により、湖沼における水柱と底泥での物質循環と微生物活動の連動関係、環境因子と生態系機能の連動関係を定量的に評価し、湖沼環境の環境改善シナリオ作成に貢献する。
(3) 沿岸域における一次生産者の変化や移入種による優占現象が、生物相、水-生物−底質間の物質収支や食物連鎖などの生態系機能へ及ぼす影響を定量的に評価する。流域負荷と生物種多様性の関係を探索し、生態系機能の健全性を評価する。
(4) ダム開発に対する戦略的環境アセスメントの技術を開発し、失われる沈水林の生態系機能を推定する。迅速・高感度のアオコ定量手法を開発し、計画中のダム貯水池でのアオコ発生の可能性を予測する。
(5) 重要な漁業資源である回遊性淡水魚の回遊生態を解明し、ダム開発による食糧供給に対するリスクを事前に推定する。
(6) 沿岸域(干潟等)における底生生物の種多様性・生態系機能のデータベースを構築して、広域スケールの生物多様性、生態系機能および健全性の関係を評価する。

今年度の研究概要

 流域圏生態系の水・物質循環に着目し、生態系機能の健全性を定量評価するための手法開発を行う。新規性の高い測定法やモデル解析を駆使して長期・戦略的モニタリングを行うことで、生態系機能・生態系サービスと様々な環境因子とのリンケージ(連動関係)を定量的に評価する。ここでの評価に基づき,メコン河等の広域な流域圏における生態系と生物多様性を戦略的に保全し、生態系機能・生態系サービスを維持するための施策に資する研究を行う。
(1) 筑波山や東北大学演習林等を対象に、森林生態系における物質動態に関するモニタリングを開始し、人工林荒廃と窒素飽和現象の関連性を評価するとともに、そのメカニズムについて検討を行う。
(2) 霞ケ浦等の湖沼を対象にフィールド調査と室内実験等を開始して、湖水柱と底泥での物質循環と微生物(藻類、バクテリア等)活動の連動関係を検討する。
(3) 谷津干潟等の沿岸域を対象に、野外調査、操作実験や室内実験を実施して、一次生産者の変化や侵入種による優占現象が干潟の生態系機能に及ぼす影響について検討する。
(4) メコン河流域の下流4カ国において重点研究サイト(ダム貯水池)を選定し、地域ごとに定期的な水および底泥のサンプリングを行うための研究基盤を整備するとともに、実験室(日本)にてこれらサンプルを効率的に処理するためのシステムを整備する。
(5) すでに取得してある回遊魚の耳石サンプルをLA-ICP-MSで分析し、そのデータから回遊経路の推定を行う。また上述のダム貯水池から新たに得られる耳石サンプルの分析も進める。
(6) 沿岸域(干潟等)における底生生物の種多様性・生態系機能のデータベース整備を始め、広域スケールの生物多様性の評価を開始する。

外部との連携

東北大学,Ubon Ratchathani University (Thailand), WorldFish Center (Cambodia), Inland Fisheries Research and Development Institute (Cambodia), Living Aquatic Resources Research Center (Lao PDR), 東京大学大気海洋研究所,(独)産業総合研究所

課題代表者

今井 章雄