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重点4 アジア自然共生研究プログラム(平成 21年度)
Priority Programs 4 [Asian Environment]

研究課題コード
0610SP004
開始/終了年度
2006~2010年
キーワード(日本語)
アジア,自然共生,越境大気汚染,エアロゾル,排出インベントリ,黄砂,水循環,物質循環,長江,技術インベントリ,流域生態系,メコン川
キーワード(英語)
ASIA, HARMONY WITH NATURE, TRANSBOUNDARY AIR POLLUTION, AEROSOL, EMISSION INVENTORY, ASIAN DUST, WATER CYCLE, MATERIAL CYCLE, CHANG JIANG, TECHNOLOGY INVENTORY, WATERSHED ECOSYSTEM, RIVER MEKONG

研究概要

 現在急速に発展しつつあるアジア地域が持続可能な社会に移行できるか否かは、我が国及び世界の環境の持続可能性の鍵を握っている。そのアジア地域において、環境の現状が、持続可能な社会に向けたシナリオに沿って推移しているか否かを評価するとともに、持続可能な社会を実現するために必要な技術・政策等の評価を行い、政策提言の科学的基盤を築くことが不可欠である。本研究プログラムでは、アジア地域の大気環境・広域越境大気汚染、陸域・沿岸域・海域を対象とした持続可能な水環境管理、大河川を中心とした流域における生態系保全管理に関する研究を行うことによって、国際協力によるアジアの環境管理と自然共生型社会構築のための科学的基盤を確立する。

研究の性格

  • 主たるもの:-
  • 従たるもの:

全体計画

 本プログラムは、3つの中核プロジェクト及び3つの関連プロジェクトによって構成されている。中核研究プロジェクトの概要は以下のとおりである。

(1)アジアの大気環境評価手法の開発

 エアロゾルおよびガスの大気汚染物質と黄砂の地上観測、航空機観測、ライダーネットワーク観測等を行い、国際的にも観測の連携を進めるとともに、モデルと排出インベントリの精緻化を進めて、観測データ・モデル解析の両面から日本国内を含むアジア地域の大気環境施策立案に必要な科学的知見とツールを提供する。具体的な研究は、1)アジアの広域越境大気汚染の実態解明、2)アジアの大気環境評価と将来予測、3)黄砂の実態解明と予測手法の開発、の3サブテーマにより実施する。

(2)東アジアの水・物質循環評価システムの開発

 長江等の東アジア地域の流域圏について、国際共同研究による水環境に関する科学的知見の集積と持続的な水環境管理に必要なツールの確立を目指し、観測とモデルを組合せ、水・物質循環評価システムを開発する。また、都市・流域圏における環境管理の技術インベントリを整備し、持続性評価指標体系を構築することにより、技術導入効果に基づく適切な技術システムと政策プログラムの設計を含む流域の長期シナリオ・ビジョンの構築の方法論を開発することを目指して研究を進める。具体的な研究は、1)流域圏における水・物質循環観測・評価システムの構築、2)長江起源水が東シナ海の海洋環境・生態系に及ぼす影響の解明、3)拠点都市における技術・政策インベントリとその評価システムの構築、の3サブテーマにより実施する。

(3)流域生態系における環境影響評価手法の開発
 東南アジア・日本を中心とした流域生態系における環境影響評価手法の開発を行い、メコン川流域に関連した国際プログラム間のネットワークを構築し、国際共同研究による流域の持続可能な発展に必要な科学的知見を提供する。主にメコン川の淡水魚類相の実態解明、流域の環境動態の解明を行うこと等により、ダム建設等の生態系影響評価を実施する。具体的な研究は、1)流域生態系・高解像度土地被覆データベースの構築、2)人間活動による生物多様性・生態系影響評価モデルの開発、3)持続可能な流域生態系管理を実現する手法の開発、の3サブテーマにより実施する。


 関連プロジェクトの研究課題は以下のとおりである。

(1)九州北部地域における光化学越境大気汚染の実態解明のための前駆体観測とモデル解析

今年度の研究概要

 平成21年度は、平成18-20年度の成果の基礎の上に、中核研究プロジェクトを中心に、具体的な研究を更に発展させること、観測データの蓄積と解析を進めると共にモデル研究との連携を進めることに力点を置く。また、プロジェクト横断的、プログラム横断的な研究協力を具体化する。

中核研究プロジェクト1;アジアの大気環境評価手法の開発

(1)アジアの広域越境大気汚染の実態解明

 越境大気汚染の実態を解明するために、沖縄辺戸岬ステーションでの多成分・連続観測を継続するとともに、長崎県福江島での地上観測を充実し、東シナ海沿岸部でのデータを蓄積する。沖縄辺戸岬ステーションで取得された観測データを集積し、データベースの構築に向けた作業を継続する。さらに、中国沿岸地域での地上観測の再開にむけて中国等の研究機関との連携を強化する。データベースの構築を進めると共に、これまで蓄積してきた航空機および地上観測データを解析し、他の観測データとの比較やモデルの活用を進めることにより、東アジア域における広域越境大気汚染の実態を把握する。

(2)アジアの大気環境評価と将来予測

 これまでに開発したアジア地域の排出インベントリと領域大気質モデルを観測データを用いて検証し、広域大気汚染の空間分布、過去四半世紀における大気質の経年変化、越境大気汚染による日本へのインパクトを評価する研究を継続する。全球化学気候モデルを用いて、東アジアにおける対流圏オゾンの発生源地域別寄与率を評価する。衛星観測データを基に排出量を推計する逆推計モデルを用いて、排出インベントリによるNOx排出量を検証・修正する。

(3)黄砂の実態解明と予測手法の開発

これまでに確立したライダーを中心とする黄砂モニタリング観測網による観測を行ない、リアルタイムのデータ解析処理を行う。また、黄砂予報モデルのリアルタイムのデータ同化を目標として、信頼性の高いデータを提供するためのデータ処理手法の改良および高いデータ品質を維持するためのライダーシステムの校正手法の検討を行う。

中核研究プロジェクト2;東アジアの水・物質循環評価システムの開発

(1)流域圏における水・物質循環観測・評価システムの構築

 中国長江水利委員会との共同で南水北調の水源地である漢江で自動水質観測システムの維持管理および測定データのキャリブレーションを行うと共に、最新の衛星データによる90mメッシュの地形図を作成し、それによって高精度の流域水系図、傾斜図などのGISデータを作成し、既存の流域の気象・土地被覆の条件、水文・水質観測データ等の調査データを収集し、流域の水・物質循環情報データベースを更新する。また、流域の気象・地形・土地被覆の条件や、人間生活、経済開発活動に伴う水環境の現状と意識に関する現地調査の結果を分析し、流域圏水・物質循環評価モデルに必要となるパラメータおよび原単位を確定し、モデルシミュレーションを行うことによって、陸域から河川への環境負荷の量と質的変化を推定し、人間生活や南水北調などの流域開発活動の影響評価を進める。上記評価モデルを、長江水利委員会の生態修復テストサイトである漢江サブ流域に適用し、生態修復工事の影響評価を行う。さらに、共同研究体制を強化するため、昨年度四川大震災によって延期された第三回日中流域水環境技術交流会を中国で開催し、情報発信を行っていく。

(2)長江起源水が東シナ海の海洋環境・生態系に及ぼす影響の解明

 長江河口・沿岸における赤潮発生状況,沿岸域の漁獲量,陸棚域の衛星クロロフィルデータなど東シナ海の環境劣化評価のためのデータを収集し、データベース化する。また,これまでに航海調査で取得した陸棚域の試料・データの分析・解析を進め、1)安定同位体比を用いた硝酸塩起源の評価、2)微細乱流構造が藻類群集形成・維持機構に及ぼす影響の解析、3)陸棚域で単離した渦鞭毛藻を用いたマイクロコズム培養実験等により、本種が陸棚域で優占化する原因(日周鉛直移動における走化性・走光性の有無など)を考究する.上記研究に基づいて昨年度までに構築した水・熱・物質動態及び低次水界生態系モデルの改良に取組むとともに、長江デルタの都市化に伴う陸域からの汚濁負荷量の変化と東シナ海における藻類種変化の関連性について数値シミュレーションで検討する。

(3)拠点都市における技術・政策インベントリとその評価システムの構築

 アジアの資源経済の拠点都市を対象として、広域な環境制約下での都市スケールの技術・施策の効果を評価できる、水・物質・エネルギーの統合型環境アセスメントモデル(NIEC-Urbanモデル)の開発を進め、中国瀋陽市、遼寧省、中国環境科学院応用生態研究所との連携のためのプラットフォームを展開する。瀋陽市と遼寧省を対象として、水資源、大気汚染、物質循環を含む統合的環境フラックスデータベースの構築を進め、統合型のモデルを用いて立地・移動特性を解析する。産業化・都市化の中核拠点都市として、瀋陽市に焦点をあて、大連市と武漢市の比較調査を実施する。国内では、包括的研究協力協定を締結した川崎市との連携により、日本の技術をアジアに展開する産官学連携研究を推進する。これらの研究を踏まえ、環境技術導入の政策シナリオの評価及び水資源の循環利用、都市産業技術システム導入シナリオの評価研究を進め、さらに、中国研究機関と連携して複数の国際会議の開催により、国際的なベンチマーク構築に向けての情報発信を行う。

中核研究プロジェクト3;流域生態系における環境影響評価手法の確立

(1)空間データベースの構築と応用:構築した空間データベースの利用価値をさらに向上させるために、1)擬河道網および小流域界の地理的な精度と確度を改善するとともに、2)集計単位である小流域の規模や形状の違いが、類型化分析の結果に与える影響を明らかにする。また、3)構築した空間データベースの公開に向けての法律的および技術的な諸課題について、検討を開始する。

高分解能主題図の整備手法の開発と適用:信頼性の保証された利用価値の高い主題図を整備するために、1)既に現地調査と衛星観測を実施した地域のデータに基づいて、主題図整備手法の精緻化を図る。また、2)その汎用性を検証するために、その他の地域においても、可能な範囲で現地調査と衛星観測を実施し、基礎データの蓄積を行う。このとき、3)現地におけるデータ収集作業の効率性、安全性および経済性をさらに高めるために、現地の大学、研究機関あるいはNGOとの協働体制を積極的に強化していく。

(2)メコン上流部におけるダム建設とその影響評価:物質輸送料解析の対象範囲を下流域(タイ北部Chiang Sean付近からラオス国境の約100km区間)に拡大する。また物質輸送モデルの結果と河川構造の関係を結びつける目的で物質移動のモデルを2次元に拡張する。河川構造と魚類生息地との関係に繋がる研究に着手する。

栄養塩・元素濃度データの統計解析:メコン流域全体の水質について入手可能な様々なGISデータで説明できるかどうかを検討する。元素分析はすべての河川水サンプルでの分析を行い、これを流域のGISデータ(とくに地質マップ)などで説明を試みる。また耳石サンプルの分析は、レーザーアブレーション以外ほぼすべて整備されたので、すぐに分析に応じられるよう前処理等を行う。

(3)生物の好適生息地評価や河口域生態系への影響:引き続きメコンデルタ天然マングローブ林の構成樹種である3種(A. marina, R. stylosa, B. gymnorrhiza)の生理生態学的検討を行う。今後はこれに加え、既に輸入したR.apiculata の種子について、測定に向けて栽培を行う。ベトナム戦後の植林活動において選択的に植栽されているR.apiculata に関する生理生態学的検討を行う。

メコンデルタに広範囲に生育しているマングローブ主要樹種の機能が物質代謝などの生態系に及ぼす影響を、ベトナム及び石垣島での野外調査および圃場での実験から明らかにする。更に、流域開発に伴う堆積物の量・質の変化がこの生態系機能に及ぼす影響について検討する。生物の好適生息地評価や河口域生態系への影響評価を行うため、タイ北部及びメコンデルタにおいて景観生態学的評価技術を引き続き開発する。

さらに、メコン河委員会、環境NGO、各大学研究者、森林管理局等の間で情報共有ネットワークをつくり、それらの協力のもとに、メコン河流域の環境影響評価に不可欠な生物・水環境の空間変化及び時系列変化のデータの取得を行う。

課題代表者

中根 英昭