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政策2. 化学物質環境リスクに関する研究 - 効率的な化学物質環境リスク管理のための高精度リスク評価手法等の開発に関する研究(平成 17年度)
2. Research on environmental risk by chemical substances - Development of methodologies for sophisticated assessment and effective management of environmental risk by chemical substances

研究課題コード
0105PR021
開始/終了年度
2001~2005年
キーワード(日本語)
化学物質, リスク評価, リスク管理, 高精度化, 効率化
キーワード(英語)
CHEMICAL SUBSTANCES, RISK ASSESSMENT, RISK MANAGEMENT, SOPHISTICATED ASSESSMENT, EFFECTIVE MANAGEMENT

研究概要

ダイオキシン類、内分泌攪乱化学物質など、化学物質汚染はますます複雑化、多様化しており、人の健康や生態系に取り返しのつかない影響をもたらすおそれがある。そこで、環境リスク概念を取り入れ、科学的知見の不足に起因する不確かさを踏まえたリスク評価とそれに基づくリスク管理によって、化学物質管理の強化が図られている。
 化学物質の環境リスクを適切に管理するには、リスク評価が的確に行われることが前提となる。リスク評価が適切でないと、リスク管理に過大な社会コストを費やすことになり、もう一方では影響を受けやすい集団を切り捨てることになりかねない。このような問題を解決するにはリスク評価をより高精度化する必要がある。
 しかし、高精度のリスク評価は多くのデータを必要とし、リスク評価のコストを増大させるおそれがある。適正なコストの下で的確にリスク管理するには、段階的に精度の異なるリスク評価で対象を絞り込んでより高精度のリスク評価を行う手順が必要となる。このため、少ない情報に基づくリスク評価手法や簡易な有害性試験法の開発が必要となる。また、化学物質のリスク管理は、リスクコミュニケーションを促進して社会的な合意の下に進める必要があるが、そのためには住民自らが判断できるようにリスク情報を分かりやすく伝達する手法を確立する必要がある。
 本研究では、以上のような問題認識の下で、現行のリスク管理政策の要請を受けた課題とリスク管理政策のさらなる展開を目指して解説すべき課題の2つの観点から、7つの研究課題を取り上げて実施している。

研究の性格

  • 主たるもの:政策研究
  • 従たるもの:応用科学研究

全体計画

既存の挙動予測モデルや構造活性相関手法をサーベイし、分類・評価を行う。生物種別の毒性試験データを収集し、解析方法を検討する。インターネットを用いて公開しているデータベースの充実及びそれに搭載するデータの加工方法を検討する。空間分布を再現できる環境挙動モデルの概念設計を行い、モデルに必要となるデータの収集・整理を行う。遺伝子情報解析を用いてヒトの感受性を決定している遺伝子多型解析用の生体試料を採取・分析する。バイオアッセイ手法の役割とその条件を検討するとともに、この観点から既存のバイオアッセイ手法の評価を行う。(13年度)
 収集したモデルの中からより少ない情報で使えるモデルを抽出・改良し、試算を行うとともに、化学物質の性状等と環境濃度の統計解析を行い、統計モデルを開発する。生物種と化学物質の種類の組み合わせによる感受性の違いを解析する。データベースの充実・改良を進めるとともに、企業説明会に参加した住民の説明前後での意識変化を探る。河川データベースを構築し、それを用いてモデルの試算・検証を行うとともに、空間データ変換に基づき曝露の空間分布を算定する手法を開発する。生体試料の収集・分析とそれに基づく遺伝子多型要因の抽出を継続するとももに、曝露要因や生活環境条件との関連を解析する。提案されている複合曝露評価リスク評価指標を調べ、大気モニタリング結果を用いて試算を行う。各種バイオアッセイ手法を実用化の観点から比較評価するとともに、変異原性についてバイオアッセイと動物試験結果の比較を行い、両者の対応関係を明らかにする。(14年度)
 抽出・改良したモデルや開発した統計モデルを組み込んで新規化学物質や指定化学物質の審査システムを提案する。生物種と化学物質の種類の組み合わせによる感受性の違いの解析や多媒体の生態毒性試験法の開発を続けるとともに、構造活性相関の可能性について検討を行う。データベースの充実及びデータ加工方法の改良を進めるとともに、PRTRデータの解析を行い、化学物質リスクの現状を分かりやすく伝える手法を開発する。空間データ変換に基づく曝露分布評価手法を改良するとともに、環境侵入量を推定する手法を開発する。遺伝子多型要因の抽出及び生体試料の分析を継続する。大気について新たな複合曝露リスク評価指標を提案し、試算を行う。実用化の観点からのバイオアッセイ手法の評価やバイオアッセイと動物試験の比較実験を続ける。(15年度)
 感受性の高い組み合わせの抽出及び多媒体生態毒性試験法の開発を続け、構造活性相関手法の開発を試みる。データベースの充実及びデータ加工方法の改良を進めるとともに、専門家の参加を組み込んだリスクコミュニケーション実験を行う。侵入量予測モデル、環境挙動モデルと体内動態モデルを統合して変動を考慮した曝露評価システムを構築する。遺伝子多型要因の抽出を継続する。作用機構を考慮した複合曝露リスク指標を提案する。選び出したバイオアッセイ手法の改良を行い、バイオアッセイと動物試験の比較実験を続ける。(16年度)
 生物種と化学物質の組み合わせによる感受性の違いを考慮した生態リスク管理手法を提案する。データベースの充実及びデータ加工方法の改良を進めるとともに、リスクコミュニケーションにおける専門家の関与方法を提案する。開発した曝露評価手法を用いて化学物質類型ごとに代表物質を選定して曝露濃度の変動を推定し、この結果を踏まえて新たな化学物質リスク管理手法を提案する。感受性と遺伝子多型の対応関係を明らかにするとともに、感受性を考慮した曝露モニタリング及び健康リスク管理手法を提案する。複合曝露リスク評価指標を開発するとともに、複合曝露を踏まえたリスク管理のあり方を提案する。バイオアッセイを活用した環境モニタリングシステムを提案する。(17年度)

今年度の研究概要

(1)少ないモニタリングデータから環境濃度の統計量を推定するためのモンテカルロシミュレーション手法について検討を進める。
 (2)構造活性相関では、生物種や手法を拡大するとともに、本手法の公開に向けた検討を行なう。生態毒性試験法については、各種生物に対する試験法について標準化を進めていく。
 (3)化学物質環境リスク情報の市民向けのページを追加し、解説から科学的なリスク評価データまでを参照することができる総合的なシステムを構築し、インターネット上で公開する。
 (4)PRTR対象物質を中心に大気及び河川濃度の推定を行なう。大気では実測値を用いた曝露推定との検証を行なう。また、経年的インベントリの作成を行い、環境濃度予測モデルと体内動態モデルとの統合により、人の体内濃度の時間的変動について検討を行う。
 (5)ヒトDNAを用いてメチル基転移酵素及びグルタチオン抱合に関連する代謝酵素の多型解析をさらに進めるとともに、これらの遺伝子に存在する遺伝多型と化学物質への感受性との関連を調べる。
 in vivo変異原性から発がん性を予測する数理モデルを用いて、第II相薬物代謝酵素の欠損による突然変異頻度上昇により、変異原物質の発がん性がどの程度上昇するか定量的に予測する。
 (6)化学物質の毒性発現作用機構を考慮した複合曝露リスク評価手法に関する検討を進め、有害大気汚染物質や水環境に含まれる化学物質の環境測定結果を用いて試算を行う。
 (7)B[a]Pをモデル化合物として肺がんの数理モデルのパラメータを決定し、実験からin vivo変異原性の強さを求め、肺がんの発生率を推定できるようにする。
 ゼブラフィッシュ胚に発生した突然変異は成長過程で修正されないことが明らかになったが、人を含む哺乳類の胎仔や生殖始原細胞への変異原物質曝露でも同様の現象が起こるのか明らかにする。

課題代表者

白石 寛明