衛生リスク低減を見据えた病原細菌の消長の評価と適地型排水処理技術の開発と実装支援
(令和3年度~令和5年度)
国立環境研究所研究プロジェクト報告 SR-148-2024
本報告書は、令和3 年度~5 年度の3 年間にわたって実施した所内公募型提案研究「衛生リスク低減を見据えた病原細菌の消長の評価と適地型排水処理技術の開発と実装支援」の研究成果をとりまとめたものです。
世界の生活排水の約8割が未処理で環境中に排出され、深刻な環境汚染を引き起こし、特に途上国では衛生リスクの主要因となっています。また、東南アジアの都市部では水資源が不足しており、排水処理設備の普及に伴って、処理水の循環利用が重要な課題となっています。例えばバンコク(タイ)では、排水処理後の処理水を道路洗浄や樹木への散水の目的で利用していますが、処理水質の管理が不十分なため、水系感染症のみならず病原性細菌の大気飛散による健康被害も懸念されています。
こうした状況の中、本研究では、東南アジア途上国などでの水質管理、安全な水利用への貢献を目指し、国内外の研究機関と連携して、生活排水に含まれる病原性細菌の排水処理施設における消長の評価、適切な排水処理・再利用技術の開発と実証、排水処理技術の社会実装に必要な技術認証取得と実装の3つの課題に取り組みました。
本研究を通じて、排水処理施設において大腸菌を指標とする事で主要な病原性細菌の除去特性を把握できること、一方大腸菌とは挙動が異なり、今後モニタリングが必要な病原性細菌も存在することを明らかにしました。また、バンコクの一部の排水処理施設の処理水に比較的多くの病原細菌が残存することが明らかになり、処理水の再利用時における安全性確保行動のための情報提供に繋がりました。さらに、消費エネルギーが少なく維持管理が容易なスポンジ担体を用いる好気性ろ床が、既存排水処理施設の後処理、衛生管理技術として有効である事を通年での排水処理試験を通じて実証しました。最終的に、開発を行った好気性ろ床の技術認証を取得し、タイの日系民間企業の社宅排水処理設備の後処理施設設として実規模導入される事で、東南アジアにおける水質管理、衛生環境の確保、安全な処理水の再利用に貢献することが出来ました。これらの成果が今後、東南アジア、日本の地方都市における環境管理の参考なりますことを願っております。
(国立環境研究所 地域環境保全領域 珠坪 一晃)