高時空間分解能観測データの同化による
全球大気汚染予測手法の構築
(令和2年度~令和4年度)
国立環境研究所研究プロジェクト報告 SR-147-2024
本報告書は、令和2~4年度の3年間にわたって実施した所内公募型提案研究A「高時空間分解能観測データの同化による全球大気汚染予測手法の構築」(研究代表者:五藤大輔)の研究成果をとりまとめたものです。
大気汚染は環境問題として、1970年頃から着目されており、大気汚染物質の代表的なものであるエアロゾルについては2013年のPM2.5騒動を機に、日本でも大きな社会問題になりました。PM2.5の人体への影響も懸念される中、PM2.5自体の時空間分布をより正確に把握することが強く望まれています。国立環境研究所では大気汚染予測システムVENUSを運用しており、継続的な高度化を進めています。しかし、その予測精度は社会のニーズを十分に満たしているとはいえず、個々の数値モデルや予測手法に更なる改善が期待されています。また、ここ10年の間で、大気汚染物質の時空間分布を推定できるセンサーを搭載した人工衛星が次々と打ち上がり、人工衛星から多くのデータを得ることができる時代になってきました。このような背景の下で、膨大な衛星観測データを利活用した大気汚染物質予測の高精度化が世界的にも進められています。
本研究では、全球大気汚染物質輸送モデルNICAM-Chemを軸に、データ同化手法を用いた予測手法の構築を実施しました。観測とモデルの誤差を最小にする方程式を基盤として、最も現実場を再現できるような解を導出するデータ同化手法の中で、計算コストの軽い2DVarをNICAM-Chemに新たに導入しました。同化で利用する観測データは、日本の気象静止衛星である「ひまわり」に搭載されたセンサーから得られるエアロゾルの情報を中心に、米国の衛星によるデータや世界中の地上観測データを収集し、本研究チーム独自のデータ選別・統合手法によって高精度の観測データセットを作製しました。その結果、同化することによって、NICAM-Chemによるエアロゾルシミュレーションの再現性が向上し、観測や数値モデルだけでは得られなかった高精度なエアロゾルの時空間分布を得ることができました。本研究を通じて得られた技法・知見を用いて、日々の大気汚染予測の高度化を進めていきます。