海底鉱物資源開発における実用的環境影響評価技術に関する研究(令和元年度~令和3年度)
国立環境研究所研究プロジェクト報告 SR-145-2024
本報告書は、令和元年度~令和3年度の3年間にわたって実施した所内公募型提案研究「海底鉱物資源開発における実用的環境影響評価技術に関する研究」の成果をとりまとめたものです。
日本における金属鉱山の開発の歴史は古く、13世紀にはマルコポーロが黄金の国ジパングとして世界に紹介しています。しかし、今日の国内の陸上鉱山の多くは掘り尽くされ、金属資源の多くは輸入に依存しています。世界的に見ても金属資源は潤沢ではありません。金属種によって異なるものの陸上鉱山の可採年数が僅か20年という金属もあり、市場価格は不安定でしばしば資源国の輸出規制が行われています。我が国における金属資源の安定確保は喫緊の課題と言えるでしょう。こうした中、注目を集めているのがほぼ手つかずの海底鉱物資源であり、特に広大な排他的経済水域に様々な資源の存在が明らかになってきた日本をはじめとして、世界各国が資源探査や掘削技術の開発を急ピッチで進めています。その一方、海底資源開発に伴う海洋環境・生態系への影響に関する懸念も多く、環境保全との両立が科学的に説明されない限り、国際的に認められた海底資源開発を実現することは難しいでしょう。
国立環境研究所は、平成26年度~平成30年度に実施された内閣府戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「次世代海洋資源調査技術 - 海のジパング計画」において、現地調査を通じて海底鉱物資源開発の潜在的環境影響の検討を進め、特に商業生産時の資源の洋上回収過程においては表層水質への影響リスク(鉱石からの重金属溶出と生態系影響)が高いことを明らかにしました。この成果を受け、SIP期間中に「洋上バイオアッセイ」という新たな表層水質監視技術の開発をスタートさせましたが、SIPの終了時点では、実用化には未だ距離が残されていました。令和元年度に開始された本所内公募型提案研究では、SIP課題で着想された洋上バイオアッセイについてリアルタイム性や簡便さなどの実用面での課題を新規派生技術等により解決するとともに、その標準化に向けた取り組みを進めました。SIP課題では未検討であった水銀やヒ素などの生物影響が強く懸念される元素の溶出特性の検討や流動モデルを用いた資源開発影響の範囲推定など、国立環境研究所ならではの多様な視点をもつ研究も盛り込まれています。令和5年度からは、海洋開発における環境影響評価手法の社会実装をめざした第3期SIP課題「海洋安全保障プラットフォームの構築」への参画も決まっており、本所内公募型提案研究の成果の反映が期待されています。