二次有機エアロゾル中の低揮発性成分の生成過程に関する研究(平成30~令和2年度)
国立環境研究所研究プロジェクト報告 SR-140-2021
大気中に存在する粒子は、人への健康影響が懸念される他、直接的・間接的に地球大気の熱収支に影響を及ぼしています。特に、炭化水素などの大気中での光化学反応で二次的に生成する二次有機エアロゾル(SOA)は、その生成機構が複雑なため、気候モデル、物質輸送モデルに大きな不確実性をもたらす要因となっています。SOA生成過程での低揮発性成分の生成機構の理解が不十分なため、SOA生成モデルの精緻化が不十分であると考えられます。
本研究では、植物起源のモノテルペンの酸化によるSOA生成過程を事例研究として、(1) 低揮発性成分の生成を左右する環境因子(特に、気温と既存粒子の酸性度)を制御可能なチャンバー実験システムを構築し、SOA生成収率とSOA化学組成に関して、気温依存性と既存粒子の酸性度依存性について系統的に調べること、(2) エアロゾル表面反応における反応生成物の気温依存性と既存粒子の酸性度依存性について調べ、気相反応との違いを考察すること、(3) ラボ実験で得られた結果を実大気エアロゾル試料と比較すること、を通して、SOA生成機構の正確な理解とモデル計算によるエアロゾル量の計算の精緻化を目指しました。
本研究の成果として、SOA生成モデルで使用されている温度依存のパラメータ(蒸発エンタルピー)の検証と既存粒子の酸性時のSOA生成収率の増大のモデル化の提案を行いました。さらに、酸性時に増える成分としては、酸触媒不均一反応で生成したと考えられる低揮発性成分のダイマーエステルや有機硫酸エステルが主であることを見出しました。また、現行のSOA生成モデルには全く考慮されていないエアロゾル表面での反応に関し、硫酸酸性シード粒子表面での酸触媒不均一反応で、有機硫酸エステルが生成されることを実証しました。加えて、これらの成分が実大気試料の「酸性度の指標」になることを確認しました。以上から、低揮発性成分の生成機構の理解を深めることで、モデルのSOA生成量の精緻化に繋がることを示しました。
本研究によって、温度とシード粒子の酸性度を変えてSOA生成収率を系統的に調べることができる環境が整いました。本研究ではモノテルペンの酸化反応について調べましたが、SOA生成に重要な他の人為起源の炭化水素などからの酸化過程に対しても、今後、本研究のような系統的な実験を行い、SOA生成モデルの精緻化を進めていくことが必要であると考えています。