2021年3月26日
回遊魚を指標とした森里川海のつながりと自然共生
平成29~令和元年度
国立環境研究所研究プロジェクト報告 SR-138-2020
河川に暮らす生き物の多くは森里川海のつながりに大きく依存しながら進化し、種を存続させ、今ある生物多様性を形作ってきました。一方で私たち人類はその“つながり”から様々な恩恵-生態系サービス-を享受する文化を育んできました。海と川を行き来するサケの仲間の多くは、北海道の地域経済を支える重要な水産資源です。また同じくサケの仲間の巨大魚イトウは幻の魚とも呼ばれ、釣りの対象として高い人気を博していますが、環境省と国際自然保護連合は本種を絶滅危惧種に指定しています。水産資源であるサケやマスも希少種イトウも“つながり”が失われれば住んでいた川から姿を消してゆく-つまり地域的な絶滅を余儀なくされる-ことになります。北海道だけでも数万基あるとされるダムや堰などの構造物は生物多様性と生態系サービスに対する深刻な脅威です。
本研究プロジェクトは、北海道のサケの仲間に焦点を当て、森里川海のつながりを分断するダムや堰からの影響緩和を目的として設置された魚道や改良工事の効果を環境DNAにより検証しました。また全道の約300河川についても、この手法により魚類相を推定することに成功しました。希少種イトウについては、骨に蓄積された微量元素の安定同位体分析、また産卵遡上した親魚の電子標識による行動追跡を通して、謎の多かった回遊生態に関する新たな知見を得ることができました。
本プロジェクトの成果や開発された研究手法は、サケ・マスのような水産資源の管理や、希少種イトウの絶滅要因の特定、絶滅回避策の策定に役立つと考えています。さらに全道に造られたダムや堰などの位置情報と環境DNAから推定された魚類分布を合わせて可視化することで、さらなる研究成果がもたらされることも期待されます。
(国立環境研究所 生物・生態系環境研究センター 生態系機能評価研究室
主任研究員 福島 路生)
主任研究員 福島 路生)
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