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2021年3月26日

大気中の有機粒子の各種毒性に対する
発生源別寄与の解明 平成29~令和元年度

国立環境研究所研究プロジェクト報告 SR-137-2020

SR137表紙画像
SR-137-2020 [12.1MB]

 大気中のPM2.5による健康リスクを減らすためには、その発生源や環境中の動態を理解することが重要です。また、PM2.5の化学組成はその発生源や採取地点によって異なるため、その健康影響や毒性も、発生源や採取地点によって異なる可能性があります。
 本研究では、PM2.5の毒性に大きく関与していると考えられる有機物に着目し、有機物を主体とする粒子(有機粒子)の主な発生源(ガス状物質が大気中で粒子化した二次有機粒子、自動車排気、野焼き排気、調理排気)を対象に、化学組成と毒性(酸化ストレスと炎症に関する応答、DNA損傷性、アリル炭化水素受容体(AhR)結合活性)を細胞や化学試薬を用いて評価しました。また、大気中のPM2.5試料も、同様の方法で化学組成と毒性を評価しました。そして、発生源と大気試料の分析結果を組み合わせた解析によって、大気PM2.5中の有機物が示す毒性に、どの発生源がどの程度寄与しているかを定量的に推定しました。
 その結果、有機物質量あたりの毒性の強さは、毒性の種類や発生源の種類、大気を採取した地点・季節によって大きく異なることが確認されました。本研究で対象とした発生源のうち、大気PM2.5中の有機物の毒性に対して寄与が大きいのは、ナフタレン起源二次有機粒子、野焼き排気粒子及び自動車排気粒子と推定された一方、調理排気粒子や植物起源二次有機粒子の寄与は小さいと推定されました。また、長時間(数日以上)の大気中でのエイジング(酸化反応)が大気有機粒子の毒性を低下させることが示唆されました。
 本研究の結果から、大気中2.5による健康リスクを減らすための、より効果的な発生源対策を検討するためには、従来のようにPM2.5の質量で評価することに加え、化学組成や健康影響・毒性の違いも考慮することが望ましいと考えられます。


(国立環境研究所 環境計測研究センター 主任研究員 伏見 暁洋)