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地球温暖化国際交渉、世界の視点と動向

研究をめぐって

 気候変動問題が国際的関心を集め始めたのは1980年代後半。以来、世界中の人々は、問題解決に向けた国際協調の可能性を模索してきました。20年間あまりに及ぶ検討の結果が気候変動枠組条約と京都議定書。それらは解決に向けた貴重な一歩ではありますが、今後もさらなる取組みが求められています。

世界では

 気候変動問題に対する国際的な対応は1990年代から始まりましたが、「いかなる国際的枠組みであるべきか」に関する研究も、ほぼそれと同時に始まったといえます。このような研究の成果は、1992年に採択された気候変動枠組条約や1997年に採択された京都議定書の交渉過程において、着実に反映されてきました。枠組条約交渉開始当初は、他の地球環境問題関連の条約を分析することによって、気候変動に対処するための条約のあり方について提言するものが中心でしたが、気候変動枠組条約が採択された後は、同条約そのものの分析や、気候変動問題特有の性質に関連してエネルギー政策や途上国の持続可能な発展との関係をふまえた研究が増えました。

 気候変動対策がさまざまな意味で経済的影響を及ぼすため、2013年以降の国際的枠組みに関する各国の関心は高く、世界で多くの研究者がこのテーマに取り組んでいます。オランダのRIVM(国立公衆衛生環境研究所)やユトレヒト大学といった学術的研究機関にとどまらず、米国のピューセンター、世界資源研究所といった多くの産業界関連団体や環境保護団体、OECD/IEA(経済協力開発機関・国際エネルギー機関)などの国際機関からも、このテーマに関する出版物が出されています。

Webページ画像

 このように数が非常に多いことから、その中で際だった成果を上げるためには、内容そのものが際だっていることがもちろん第一の条件ですが、さらに、研究成果を広めるためのさまざまな活動(諸外国研究機関との連携、ワークショップやシンポジウムの開催、英語で書いた論文の出版、ウェブサイトの拡充など)を充実させることが求められてきています。現在ではたとえば、ウェブサイトにリンクを張った上図のようなウェブサイト(ECOFYSというドイツの政府から財政的支援を受けている環境保護団体のサイト)まで登場しています。

日本では

 日本では、とくに京都議定書が採択された後、そしてさらに米国が議定書からの離脱を宣言した2001年以降、急激に2013年以降の国際制度に対する関心が高まりました。それに伴い本テーマの研究に従事する研究者の数も以前より大幅に増えてきましたが、現実の交渉が細分化している分、研究テーマも細分化しているのが現状です。

 国際制度に限定したものだけでも、本研究のような政策・法学的観点からの研究の他に、排出量取引制度などの効果に関する経済学的観点からの研究(兵庫県立大学等)、途上国の開発の観点からの研究(東北大学等)、CDMを進展させるための方法論的観点からの研究(財団法人電力中央研究所等)などが多数あり、相互連携が求められます。

 また、国の政策を決定づけるという意味では、議論の中心は政府にあるといえます。中央環境審議会地球環境部会気候変動に関する国際戦略専門委員会と、産業構造審議会環境部会地球環境小委員会では、関連研究を進める研究者をはじめ各種関係者が委員となって議論に参加しています。

国立環境研究所では

 気候変動に関する最初の国際条約である気候変動枠組条約が採択された1992年以来、国立環境研究所でも、徐々にこの問題に関する制度的研究を進めてきました。当初は、オゾン層破壊防止を目的としたモントリオール議定書との比較などから着手していました。近年、日本でもこの問題に関連する研究は増えましたが、このように、過去10年以上にわたる実績をふまえて研究を進めているのは、国内では国立環境研究所の他にほとんどありません。現在行っている研究は以下の3つです。

  • (1)    中長期的な地球温暖化防止の国際制度を規律する法原則に関する研究:中長期的な気候変動対策のための国際制度を提示することを目的として、国際法の観点から検討しています。ここでは、他の国際条約との比較や気候変動枠組条約、京都議定書の法的解釈と発展の方向性について研究を行っています。
  • (2)    脱温暖化社会に向けた中長期的政策オプションの多面的かつ総合的な評価・予測・立案手法の確立に関する総合研究プロジェクト:2050年までの日本の温室効果ガス削減のシナリオとそれに至る環境政策の方向性を提示するために、あるべき中長期の国際制度について研究しています。
  • (3)    総合評価モデルによる温暖化の危険な水準と安定化経路に関する研究:気候変動の影響面について総合的な研究を進めています。地球上どこで排出削減しても効果が同一の気候抑制策に対して、気候が変動した世の中に適応していく政策は、各地域ごとに細分化されるため、抑制策とは異なった国際制度づくりが必要と考えられます。

 国立環境研究所でこのような制度研究をする利点としては、次のような点があります。

  • ・環境省と密に連絡をとり、国際交渉においても連携を取る体制ができている。
  • ・環境問題を総合的に扱う研究所であり、気候変動の現象解明や対策に関するモデル研究等の研究を担当しているグループと情報交換ができる。
  • ・研究プロジェクトなどにより、国内外の研究者と協力体制が整っている。

 とくに最後の研究協力体制については、気候変動現象から対策方法そして制度と一貫した流れを作るために重要です。現在、研究所で気候変動問題の制度的側面に関して研究を進めているのは、ここで登場する2名だけですが、実際の研究活動では、気候変動予測モデルやAIM(アジア太平洋地域統合モデル)研究チームとの連携を重視しつつ、関連する先述の研究プロジェクトに部分的に参加しています。