高磁場MRI を用いる脳・神経機能の計測  

環境ホルモンがヒトの健康に与える影響を解明するための研究手法として核磁気共鳴断層撮像法(MRI)を用いるヒトの診断方法の開発を行っている。

私たちがものを考えたり、記憶したり、目や耳を通して外界を認識したりという脳の機能には、神経細胞の間の信号伝達に関わる化学受容体と神経伝達物質が深く関与している。脳はこのような化学受容体の集積ということができ、環境ホルモン化学物質の影響が懸念されている。本研究ではヒト脳に対するこれらの化学物質の影響を解明するために、脳の解剖学的な形態、機能発現の局在する部位(機能マップという)、機能発現を支える代謝、という三つの方向から脳を観察するためのMRI法の研究を進めている。
 これまで、環境ホルモン総合研究棟にわが国でもっとも高感度の4.7 Teslaの磁場強度を有する人体用MRIを設置し(図1)、信号検出器の製作、ヒト脳の測定条件の最適化、新しい代謝測定手法の開発を行ってきた。解剖学的形態画像の研究では、脳機能を考える上で重要な灰白質、白質を高いコントラストで識別できる高精細3次元画像法の最適化を行い、ボランティアを対象とする画像集積を開始した。この3次元画像を用いて脳室や脳梁、脳下垂体などの脳内器官を1mmの空間分解能で観察できる(図2)。また、脳機能発現にかかわるグルタミン酸などの神経伝達物質や、神経細胞のエネルギー代謝に中心的役割を果たすATPの脳内局所での挙動を追跡できる新しい測定法を実現した(図3)。


          
     図1:わが国でもっとも高感度の4.7 Tesla人体用MRI

     図2:脳の3次元形態画像から切り出した、3方向の断面。横顔の断面:矢状断 (sagittal)、体軸に直交する
        断面:軸位断 (axial)、顔面に平行な断面:冠状断 (coronal)の画像を示す。



       
      
図3: ヒト脳の後頭葉の3x3x3cm3の領域で同時測定した1H スペクトル(上段)と31P スペクトル(測定時間は10分)。
1H スペクトルでは神経細胞マーカーであるN-アセチルアスパラギン酸(NAA)や神経伝達に関わるグルタミン酸Glu)などが、31P スペクトルではエネルギー代謝の中心的役割を果たすクレアチンリン酸(PCr)、アデノシン3リン酸(ATP )などが観測できる。