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2011年9月20日

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複数の大気海洋結合モデルを利用し将来気温変化を推定−北半球高緯度地域で、従来予測より大きな気温上昇の可能性を示唆−(お知らせ)

(筑波研究学園都市記者会配付)

平成23年9月20日(火)
独立行政法人国立環境研究所 地球環境研究センター 
気候変動リスク評価研究室
 室  長  :江守 正多 (029-850-2724)
 研 究 員 :塩竈 秀夫 (029-850-2252)
 特別研究員 :阿部 学 (029-850-2379)
気候モデリング・解析研究室
 室  長  :野沢 徹 (029-850-2530)

 大気海洋結合モデル(GCM)による将来気候変化予測には、モデルによって気温上昇量やその空間分布特性など、細かい点では異なるという不確実性があります。国立環境研究所では、その不確実性を低減するため、複数のGCMによる現在気候再現実験と将来予測実験の出力データを用いた多変量解析(注1) の結果と、20世紀後半の客観解析(注2) 気象データとを利用し、将来気温変化を推定しました。この推定の結果、北極海の海氷の大きな減少により、特に北半球高緯度地域で、複数のモデル出力結果を単純平均した将来気温変化の予測よりも、大きな気温上昇が将来に起こる可能性があることを明らかにしました。

 なお、本研究は環境省の環境研究総合推進費および文部科学省の21世紀気候変動予測革新プログラムの研究費により実施しました。

 本論文は、9月17日に米国学術誌「Journal of Geophysical Research –Atmosphere-」に掲載されました。

(注1)多変量解析:複数の変数から構成されるデータをもとにして、それらの変数の相互関連を分析する統計的な手法のこと

(注2)客観解析:不規則に分布した観測データから、気象要素の三次元分布を分析する手法のこと

1.背景

 これまで世界の複数の大気海洋結合モデル(地球全体の大気・海洋を計算するコンピュータシミュレーションモデル、以下GCM)を用いて将来の気候変化予測が行われてきたが、気温上昇量やその空間分布特性にはばらつき(不確実性)がある。このように予測に大きなばらつきがある場合、単純平均がもっとも信頼性が高く、単純平均から外れている予測は信頼性が低いという考え方が、予測の信頼性を評価する適切な指標であるという根拠はない。また、観測データと比較した現在気候実験のデータの誤差が小さいGCMが、より信頼できると考えることもできるが、どのような現在気候の誤差が将来の気候変動予測のばらつきの主要因になるかは明らかではなく、この場合でも適切な指標を特定することは容易ではない。

 このような課題を解決するため、塩竈研究員らが2011年に開発した多変量解析(特異値分解解析)を利用した手法を応用し、GCMの現在気候のばらつきと将来予測のばらつきの間に関係がある空間パターンを評価し、その関係するパターンと客観解析気象データを利用し、将来の気温変化量の推定を行った。なお、この手法は、 GCMの将来予測のばらつきと南米における将来の水資源の影響評価のばらつきとの間で関係のあるそれぞれの空間パターンを客観的に得るために開発されたものである(参考文献参照)。本研究では、その手法をGCMの現在気候のばらつきと将来予測のばらつきとの間で関係するそれぞれの空間パターンを得るために用いた。ここでのばらつきとは、全GCMの平均値からの偏差とする。

2.GCMデータ

 本研究では、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第4次報告書にも貢献した、21のGCMによる現在気候実験および将来予測実験における地上気温のデータを用いた。現在気候実験に関しては1980-1999年の平均値、将来予測実験に関しては2080-2099年までの変化量を解析した。客観解析気象データは、ヨーロッパ中期気象予報センター(ECMWF)が作成した再解析データ(ERA40)の地上気温の1980-1999年の平均値を用いた。

3.結果

 今回応用した手法を用いて、GCMで再現される20世紀後半の気温のばらつきと将来の気温変化予測のばらつきの間で、統計的に意味のある関係にある二つのモードの空間パターンが抽出できた。それぞれを第1モード、第2モードとする。

 第1モードは、20世紀後半の北大西洋、ノルウェー海やバレンツ海上の気温のばらつきと将来の北極海を中心とした全球的な気温のばらつきの関係を示す(図1)。このモードは、①20世紀後半に、北大西洋の海面水温(SST)が相対的に高く、バレンツ海の海氷が少ないという再現性をもつGCMは、将来の温暖化により北極海の海氷が早い時期に大きく減少する傾向にあり、その影響で北極海を中心とした北半球高緯度域でより大きな気温上昇が予測される傾向にあること、②またその逆で、SSTが低く、海氷が多いGCMは、海氷の減少ペースが相対的に遅い傾向にあり、将来の気温上昇量が小さく予測される傾向にあること、という2点を示している。

 第2モードは、20世紀後半の北半球冬季の海氷分布の南限付近にあたる局所的な領域における将来の気温変化のばらつきに関係するモードであり、20世紀後半の北太平洋の海氷が分布する付近や中緯度・低緯度の熱帯海洋や乾燥域の気温のばらつきが関係する(図2)。20世紀後半、北半球の海氷が南限域でも多く、そこでの気温が低い傾向を示すGCMほど、将来の海氷消失により、その領域の将来の気温上昇量を大きく予測する傾向にあり、一方で、20世紀後半ですでに南限域での海氷が少なく、気温が相対的に高い傾向にあるGCMは、将来の気温上昇量を小さく予測する傾向にあることを示している。

 次に、客観解析気象データと全GCMの平均値の差が、上記2つのモードの20世紀後半の空間パターンの特性をどの程度含んでいるかを計算し、その量から将来の気温変化量に含まれる各モードの空間パターンを推定した。客観解析気象データのGCM平均値からの差は、第1モードに関する図1で示されたパターンと同符号のパターン特性を若干強めに含んでおり、一方、第2モードに関しては、図2で示されたパターンと異符号のパターン特性を若干弱めに含んでいるという結果が得られた。その結果を用いた将来の気温上昇量は、全球的に、用いたGCMの出力を単純平均した気温上昇量よりも高くなった。(図3)。特に、北半球の高緯度域では推定値とGCM平均値との差が顕著であり、前者が1.5-2.0℃程度大きな上昇量を示す。

 この推定の信頼性に関する統計的検証の結果、南半球や低緯度域では信頼性の改善がみられないが、北半球の高緯度地域では、これまで単純平均して見積もっていた気温上昇量の信頼性よりも高い信頼性を示していることが明らかとなった。

 以上から、本研究の推定結果は、北極海の海氷の大きな減少により、特に北半球高緯度地域で、複数のGCMの出力を単純平均した将来気温変化予測と比較して、実際にはより大きな気温上昇が起こる可能性を示唆している。

 本研究では、全球的な広い領域に対して、今回応用した手法を応用し、GCMによる現在気候再現性と将来予測の統計的関係を考慮して、将来の気温変化量を推定した。今後は、日本地域を対象とした解析や評価の信頼性をより向上させるための手法の高度化が課題である。

発表論文

Abe, M., H. Shiogama, T. Nozawa, and S. Emori (2011): Estimation of future surface temperature changes constrained using the future-present correlated modes in inter-model variability of CMIP3 multi-model simulations, J. Geophys. Res., doi:10.1029/2010JD015111.

参考文献

Shiogama H., S. Emori, N. Hanasaki, M. Abe, Y. Masutomi, K. Takahashi, and T. Nozawa (2011): Observational constraints indicate risk of drying in the Amazon basin, Nature Communications, doi: 10.1038/ncomms1252

図 1:第1モードの将来(21世紀後半)の気温変化に関する空間パターンと20世紀後半の気温に関する空間パターン(GCM平均値からの偏差)。単位は℃。
図 1:第1モードの将来(21世紀後半)の気温変化に関する空間パターンと20世紀後半の気温に関する空間パターン(GCM平均値からの偏差)。単位は℃。
図 2:第2モードの将来(21世紀後半)の気温変化に関する空間パターンと20世紀後半の気温に関する空間パターン(GCM平均値からの偏差)。単位は℃。
図 2:第2モードの将来(21世紀後半)の気温変化に関する空間パターンと20世紀後半の気温に関する空間パターン(GCM平均値からの偏差)。単位は℃。
図 3:本研究で推定された気温変化量の、全GCMの気温変化の単純平均値からの差。単位は℃。差が統計的に有意である領域のみ、色でも差を示している。
図 3:本研究で推定された気温変化量の、全GCMの気温変化の単純平均値からの差。単位は℃。差が統計的に有意である領域のみ、色でも差を示している。

問い合わせ先

独立行政法人国立環境研究所 地球環境研究センター
 気候変動リスク評価研究室室長 江守 正多(029-850-2724)
 気候変動リスク評価研究室特別研究員 阿部 学 (029-850-2379)
 

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