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気温と死亡との関係

研究ノート

本田 靖

 地球温暖化によって植生が変化する,あるいはマラリアを媒介する蚊の生息域が変化するといわれており,その研究が進んでいる。これらの変化が人に与える影響は非常に大きく,重要な問題である。ただし,温暖化の健康影響を考えた場合,これらの影響は間接的なものである。直接的な影響としては,気温の上昇そのものによる健康影響をみる必要がある。

 そこで,我々は疫学的方法を用いた気温の健康影響研究を開始した。資料の得られた1972年から1990年までの日最高気温,日別の死亡データを用いて,寒い日と暑い日とでどの程度死亡しやすさが異なるかを調べた。死亡のしやすさの指標として,死亡率(1億人の人がある気温で1日生活したとき何人死亡したか)をもちいた。図1は九州での様子を年齢ごとにみたものである。高齢になるにしたがって死亡率が高くなること,暑さ寒さの影響も高齢ほど大きくなることがわかる。65歳以上の様子をみると,寒い日の死亡率の高さが目につくけれども,33℃以上でもやや高い死亡率を示している。図2は北海道の65歳以上の場合を示している。このように,寒い地方の方が暑さに弱い。このように,地方による違いはあるけれども,V字型のパターンを示すことにかわりはない。

 では,どの死因がこのパターンを形作っているか?28〜33℃のときの死亡率に比べて33℃以上での死亡率の方が高いのは,感染症,循環器疾患,呼吸器疾患が主なもので,がんではほとんど気温による変化がみられなかった。熱射病は,33℃以上を示した日の死亡全体の0.5%にも満たないので,日射病がV字型に貢献しているとは考えられない。このことから,暑い日に死亡しやすいのは,もともと循環器,呼吸器に病気を持っている人だろうという推測ができる。

 もうひとつ興味深い現象は,図1ではほとんど平らに見える子供の死亡率である。65歳以上の死亡率に比べると死亡率の差は小さいけれども,割合で見ると,23〜28℃に比べたときの33℃以上の死亡率が1.5倍から3倍程度と,非常に高い。この異常なパターンは,全死亡から事故による死亡を差し引いてみるときれいに消失する。だから,気温そのものが死亡を増やしているのではなく,気温の高い夏休みに海や山でレクリエーションをする機会が増え,それに伴って事故死する子供も増えるのだろうということのようである。気温の直接的な影響ではないけれども,子供の事故対策が重要であることをはっきりと示している。

 実は,子供の例以外にも,暑さ寒さを防ごうとする人間活動によって死亡率が低下することを示す報告がいくつかある。そのため,地球が温暖化したときにどのような死亡パターンの変化が起きるのかの予測は非常に難しい。現在,我々は日本の南北でどのように死亡パターンが異なるか,またエアコンの普及率がどのような影響を与えるかを調べている。

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図1 年齢別にみた気温と死亡との関係(九州,男,1972〜1990年)
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図2 北海道での日最高気温と死亡との関係(65歳以上男,1972〜1990年)

(ほんだ やすし,環境健康部環境疫学研究室)

執筆者プロフィール:

昭和52・56年東京大学医学部卒業,医学博士。専門は疫学。アメリカで4年半疫学の研究をし,平成4年7月から当研究所に勤務。日本の生活に再適応できないのではないかと危惧されたものの,半分アメリカのようなつくば市に住むことができ,なんとか再適応できたと本人は信じている。中学から大学まで続けた体操もできなくなって体力が落ちてきたので,趣味といえるほどテニスに打ち込んでみたいとひそかに思っている。Jurassic Park のはるか前,大学時代に「緊急の場合には」を読んで以来の Michael Crichton のファンであることが自慢。