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全国公害研協議会会長 長野県衛生公害研究所所長 藤島 弘道

藤島  弘道の写真

 一昔前なら,世紀末の異変と騒がれそうな事件がいくつか続いた。その都度,発生した事件に対処するため危機管理の必要性が議論された。当研究所でも,松本サリン事件が所としては一段落ついた平成7年9月に,その教訓を生かして「緊急事故対策のためのマニュアル」を作成した。

 危機管理を日常業務の延長ととらえるか,日常業務と質的に異なるからこそ危機管理なのか,意見の分れるところであるが,小生としては,技術屋が個々の日常業務の中で技術を研鑚し,事件が発生した時,所として対応できる体制が危機管理と考えている。

 長野県では,本年1月中旬渡り鳥であるレンジャクが,60羽ほど集団で電線から路上に落ち,死亡するという事件があった。回収できたのは51羽であったが,住民に不安が拡がり原因究明のため,家畜保健所には病理・細菌検査が,当所には農薬などの検査が依頼された。

 当所では,(1)有機リン系農薬,(2)有機塩素系農薬,(3)殺虫剤,(4)青酸配糖体を対象とし,食道・胃の内容物,肝・腎臓,体脂肪を検体として検査を実施した。結果は,農薬・殺虫剤はどの検体からも検出できず,食道・胃から摘出したピラカンサスの実及び胃内容物からシアンを検出した。当該地区及び他地区のピラカンサスの実からもシアンが検出された。食道から摘出したピラカンサスをすりつぶしたもの等をマウスに投与し,マウスが嗜眠状態に落ち入ることを確認した。詳細は省くが,以上のような経過で自然界の植物中の成分で渡り鳥が死に至ることもあることを確認した。

 職員達の話では,胃の内容物あるいは自然界のピラカンサスの青酸配糖体から,フリーのシアンを定量するのに随分てこずったそうである。酵素がからんでいるのか,いわゆる公定法で抽出しても数値が安定せず,種々工夫を要したとのことである。小生としては,平素扱っている物質でも公定法でうまく行かなかった時,種々工夫を加えたことがまさに危機管理のトレーニングだったと考えている。技術屋の常日頃の検査に対する姿勢ということであろう。

(ふじしま ひろみち)

執筆者プロフィール:

専攻公衆衛生学,昭和39年 長野県職員,平成4〜6年 衛生部長,平成7年〜現在 長野県衛生公害研究所所長,平成9年〜全国公害研協議会会長