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国立環境研究所特別研究報告(SR-21-’97)
「環境保全のためのバイオテクノロジーの活用とその環境影響評価に関する研究」(平成3〜7年度)(平成9年3月発行)

 最近のバイオテクノロジーの発展はめざましく,中でも組換えDNA技術をはじめとする遺伝子関連技術は,様々な分野において活用され,環境関連分野においても遺伝子組換え環境指標植物や環境浄化微生物等の野外での活用が期待されている。しかしながら,遺伝子組換え体の生態系に及ぼす影響に関する研究はこれまでにほとんど行われていない。本研究では,環境保全に有用な遺伝子を探索して遺伝子組換え生物を作成すると共に,それら遺伝子組換え生物のモニタリング手法の開発,さらに開発した手法を用いて遺伝子組換え生物の環境中における挙動を調べると共にそれらの生態系への影響を明らかにすることを目的として研究が実施された。その結果,遺伝子操作により植物の大気汚染耐性を高めることが可能であること及び水銀還元酵素遺伝子が微生物の良いマーカーになること,ならびに水銀分解遺伝子を組み込んだ遺伝子操作微生物が水銀浄化能を獲得し,環境浄化への活用の可能性が示唆されたこと,さらに遺伝子操作組換え生物及び親株の生残・増殖性,生態への影響等の多くの事柄が明らかにされた。

(地域環境研究グループ 矢木修身)

国立環境研究所特別研究報告(SR-22-’97)
「湿原の環境変化に伴う生物群集の変遷と生態系の安定化維持機構に関する研究」(平成3〜7年度)(平成9年3月発行)

 地球の生態系の中でも湿原・湿地生態系は多様な環境を内包し,多様な生物の生息の場となっている生態系の一つである。湿地のなかでもミズゴケの堆積した泥炭地は日本の国土面積の0.5%以下で,北欧・カナダの10%以上に比べ,希少な生態系であり人為に弱い生態系であるので保全の対象にされている。さらに,生物の生息場所としての湿地の重要性や生物多様性の保護は国際的な関心事になっている。このような背景から,特別研究「湿原の環境変化に伴う生物群集の変遷と生態系の安定化維持機構に関する研究」が平成3年度から平成7年度に実施された。調査による現況の把握と過去との比較を行った。また,航空写真撮影,地形測量,気象自動観測,リモートセンシング法を使った調査も実施された。これまでの湿原調査に無い切り口から湿原生態系を明らかにし,多くの湿原の比較・一般化のための方法の確立が行われた。「釧路湿原」,「尾瀬ヶ原」,「赤井谷地」,「宮床湿原」を調査地とし,湿原の生態系多様性,湿原の種多様性,湿原生態系の変遷と人間活動の関係が明らかにされた。湿原生態系保全のためには,的確な現状把握と科学的な知見の蓄積が欠かせないと思われる。

(生物圏環境部 野原精一)

国立環境研究所特別研究報告(SR-23-’97)
「都市型環境騒音・大気汚染による環境ストレスと健康影響に関する環境保健研究」(平成4〜7年度)(平成9年3月発行)

 幹線道路沿道での交通騒音が環境基準を超える地域があり,とくに夜間交通量が増加傾向にあることから,不眠症に関する疫学調査など沿道住民の睡眠影響について詳細な検討を実施した。その結果,幹線道路の夜間道路交通量と沿道住民の不眠症リスクとの間には正の相関関係がみられることが明らかとなった。また,道路沿道におけるもうひとつの問題として大気汚染を取り上げた。特に,ディーゼル排ガス由来の浮遊粒子状物質にはアレルギー反応を増強する作用が示唆されていることから,アレルギー疾患の代表格であるスギ花粉症との関連性を検討した。その結果,スギ花粉症の有症率には地域差がみられるが,それはスギ花粉飛散数と基本的に対応しており大気汚染レベルとの関連性はみとめられなかった。その他,本報告書では騒音と大気汚染を中心として環境ストレスに関する種々の知見が示されている。

(地域環境研究グループ 新田裕史)

国立環境研究所研究報告(R-135-’97)
「新潟県上越市の地盤沈下性状と新しい地盤沈下観測システムの開発」(平成9年3月発行)

 地盤沈下は,いわゆる典型七公害の一つとされてきた。地盤沈下は一度発生すると,ほとんど元に戻らないという特徴を有している。しかも,沈下の進行は緩慢で発見しにくく,気が付いたときには国民の生活環境などに多大なる損失を与えている。

 上越市高田市街地は,日本有数の豪雪地域の一つとして知られている。降った雪を消すため,多量の地下水を揚水することにより,著しい地盤沈下が生じている。そこで,高田市街地においてボーリング調査を実施した。採取試料について,地質学的な分析や観察あるいは土質試験を行って,第四系の地下地質と地盤工学的性質を明らかにした。

 従来の地盤沈下観測井は,鋼管の抜け上がり量を記録する方法で地層の収縮量を計測するため,広い敷地や多くの経費を要している。そこで,新しい地盤沈下観測システムを開発した。このシステムは,収縮量の計測にアラミド繊維製のワイヤーを用い,施設の小型化と経費の削減を図っている。この地盤沈下観測システムを佐賀県有明町と新潟県上越市に設置した。地下水位の急激な低下に伴う収縮量を的確に観測しており,システムの有効性を実証した。

 本報告書が示すように,多くの事柄が明らかとなり,地盤沈下行政に役立たせた。

(水土壌圏環境部 陶野郁雄)