ヘッダーユーティリティメニュー

イベント情報、交通案内、サイトマップ、関連リンク、お問い合わせ・ご意見

グローバルナビゲーション


ホーム > 刊行物 > 国立環境研究所ニュース > 15巻 > 4号 (1996年10月発行) > 地球温暖化対策の経済への影響−炭素税の導入とその税収の使途が経済に及ぼす影響−

ここからページ本文です

研究ノート
地球温暖化対策の経済への影響−炭素税の導入とその税収の使途が経済に及ぼす影響−
日引  聡

炭素税(二酸化炭素排出の原因となる化石燃料などに含まれる炭素分に比例してかけられる税課徴金。)の導入は,主に化石燃料の消費量を削減し,地球温暖化を防ぐための政策手段として注目されている。しかし,一方で,各企業の生産費用の上昇によって製品価格は上昇するため,企業の生産や民間消費などの有効需要は減少し,労働者の所得や企業の利潤は低下する結果,国内総生産(以下ではGDPと略す)は減少する。このため,炭素税の導入によって,どの程度実質GDPが減少するのか,また,炭素税収をどのように使えば,あるいは,どのような政策を組み合わせれば経済への影響(言い換えれば,実質GDPの減少)を小さくできるか,などに関する知見が,政策を検討する上で必要となる。このよう問題に答えるために,経済モデルが世界中で開発されている。

私は,平成5年度から,温暖化対策の経済影響分析のための世界経済モデル開発のプロジェクトである,SGM(Second Generation Modelの略称)プロジェクトに共同研究者として参加している。これは,アメリカや日本を始めとする約20ヵ国・地域のサブモデルを開発し,それをリンクさせて世界モデルをつくるものである。

以下では,昨年3月に完成した日本サブモデルを使って,

  1. 2000年以降の二酸化炭素排出量を1990年のレベルに抑制するために,2000年以降に炭素税を導入する場合,抑制のために必要な炭素税率はいくらか?
  2. このとき,経済に与える影響,特に,実質GDPに与える影響はどれくらいか?
  3. 徴収した炭素税収を使って,(a)政府消費支出を増加させる場合,(b)政府の財政収支の赤字を埋め合せる場合,(c)各家計への一定額の税還付をする場合の3ケースのそれぞれについて,上記の2点を比較し,どのように炭素税収を使えば経済への影響を小さくすることができるか?

について,分析結果を紹介しよう。

図1

(1)経済成長に伴うエネルギー消費量の増加を反映して,温暖化対策が実施されない場合の CO2排出量は年々増加する。CO2排出量を抑制するためには,図1に示すように,温暖化対策無しの場合の排出量の16〜25%を削減する必要がある。このために必要な炭素税率は,3つのケースに対して図2で示される。

(2)どのケースでも炭素税は年々上昇するので,温暖化対策無しのケースと比較した場合の実質GDPロスは年々大きくなる。実質GDPロスは,財政赤字の埋め合せケースが最も小さく,ついで,家計への税の還付のケース,最後に政府消費支出増加ケースの順となる(図2)。なお,実質GDPロスが大きいケースほど炭素税の水準は低く,ロスが小さいケースでは炭素税は高くなっている。これは,炭素税収の還流が,それによって発生する有効需要の増加を通して CO・増加の要因となる結果,GDPロスが小さいケースほど CO2増加の効果を相殺するためにより高い炭素税が必要となるのである。


図2

(3)炭素税の導入による経済への影響(実質GDPロス)が,炭素税収の還流方法によって異なるのは,炭素税収をどのように還流させるかによって,設備投資を通して生産力に与える影響が異なるからである。すなわち,3つのケースを比較すると,政府財政赤字の埋め合せのケースが最も設備投資を進めることによって生産力を高め,ついで,家計への還付のケース,最後に政府消費支出増加ケースの順となる。

これは,政府財政支出赤字縮小ケースでは,炭素税収の全額が企業の設備投資のための資金に使われ,家計への税還付のケースでは,税収の一部が設備投資の資金に使われる一方で,政府消費支出拡大ケースでは炭素税収は一切設備投資の資金供給にならないからである。すなわち,家計への税の還付のケースでは,還付によって増加した所得のうち消費されずに貯蓄に回された分が企業への投資資金の供給となる。政府財政収支赤字縮小ケースでは,政府による国債の買戻し等を通して,炭素税収全額分が設備投資のための企業へ資金供給に使われる。しかし,政府消費支出拡大ケースでは,税収のすべてが消費に回される結果,経済全体の貯蓄は増加しないために,設備投資のための資金供給の効果がゼロとなる。

以上の分析結果は,長期的な観点から炭素税導入による経済への影響を考える場合に,有効需要の増加だけでなく,経済の生産力への影響も考慮した税収の還流方法を検討することの重要性を示唆している。

したがって,短期的に景気の安定化を図るのために,炭素税収を財源として政府支出増加が必要となる場合には,税収を消費的な項目に使うのではなく,経済全体の生産性をより高めるような社会資本の形成に役立つ投資に重点的に使うことが,炭素税の導入による長期的な経済影響を小さくする上で重要となる。

(ひびき  あきら,社会環境システム部環境経済研究室)

執筆者プロフィール: 京都府宮津市生まれ,東京大学大学院経済学研究科博士課程修了,
<趣味>ユニークなTシャツを買うこと


サブナビゲーション



フッターユーティリティメニュー