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2012年1月31日

藻類コレクション—その歴史、活動、課題など

研究をめぐって

 バイオ燃料の探索にまつわり、近年一般にも脚光を浴びるようになった藻類。近年の分子生物学の進歩や生物多様性へ関心の高まりから、様々な分野で藻類利用の可能性が広がっています。ここでは、藻類を研究材料として提供する藻類コレクションの歴史、活動のトピックス、課題を紹介します。

世界では

 藻類のコレクションは、1920年代のプラハに始まり、今ではアジアを含めて世界の主要な国には必ず1つは存在するといっても過言ではありません。その中で、保存株の分譲を活発に行っている代表的なコレクションは、英国の藻類原生動物コレクション(略称CCAP)、米国のテキサス大学藻類コレクション(UTEX)とプロバゾリ-ギラード海産藻類微生物コレクション(NCMA、前身はCCMP)、ドイツのゲッチンゲン大学藻類コレクション(SAG)、フランスのパスツールシアノバクテリアコレクション(PCC)、オーストラリアの国立藻類コレクション(CSIRO)、そして国立環境研究所のNIESコレクション(NIES、つくば)などです。これらのコレクションを中心に1998年からおよそ4年ごとに「藻類カルチャーコレクション会議」が開催され、コレクションの活動、培養や保存の技術的問題、コレクションが抱える分類学の問題などについての発表やディスカッションが行われています。2008年の会議は、最も古い歴史を持つ藻類コレクションの1つであるCCAPで開催され、DNAバーコーディングやタイプ標本の凍結保存とその管理などについて話合われました(写真1)。

写真1
写真1 2008年にスコットランド、オーバンのCCAPで開催された
「藻類カルチャーコレクション会議」 (写真提供:CCAP)

 コレクションの抱える問題は、分類学の問題とも強くかかわっています。藻類の新種を記載する場合、参照した生物の標本や図解(生きていると形が変化してしまうことなどから不活性な状態でなければいけないことになっている)をタイプに指定し、後の研究のために残すことが「国際植物命名規約」で決められています。微細藻類の場合は、海藻や陸上植物のように押し葉標本を作ることができないため、主に図解が残されてきました。しかしこれだけでは後世の研究者が参照する場合に不十分なことが多く、2000年の規約改訂では「凍結保存された株」もタイプに指定できるようになりました。また、これは新種の記載だけでなく、分子系統解析などに基づいて属や種の記載を改訂する場合にも、それまでの図解のタイプを補完する目的で採用することができます。そこで、少しずつですが新種の記載や既存種の改訂の際に凍結保存株がタイプに指定されるようになり、凍結保存を積極的に行っているCCAPやUTEXといったコレクションに凍結タイプ標本が保存されるようになりました。現在、NIESコレクションにも日本人研究者が指定した7種のタイプ標本が凍結保存されています。

 この他、藻類コレクションも含めた一般的なコレクションが直面する課題として、先端科学の要求にどのように対応するかという問題があります。近年の科学技術の進展は目覚しく、特に分子生物学の発展は、生物資源の取得、改変、利用のすべての点でその可能性を著しく増大させたといえます。先端的な科学や産業利用のためには付加価値のついた高品質の生物材料が求められます。そのためにOECD(経済協力開発機構)は「生物資源センター(BRC, Biological Resource Center)」という概念を打ち出し、2007年にはその実践のために「生物資源センターのためのベストプラクティスガイドライン」を定め、藻類を含めた培養株の標準的な取り扱いの指針を示しました。BRCは、これまでのような培養株の保存と提供の機能だけをもったコレクションではなく、生物情報の集積・発信機能を含めた総合的な組織を意味し、生物多様性条約でも多様性の域外保存機関の1つとしてその必要性が強調されています。BRCの考え方は、細菌や菌類のコレクションと比較して一般に規模が小さい藻類コレクションについても当てはまり、今後は、標準的な指針に沿ったコレクションの管理が求められることになるでしょう。

日本、国立環境研究所では

 日本の藻類コレクションの歴史は、1957年に設立された東京大学応用微生物研究所(IAM、現在の分子細胞生物学研究所)の微細藻類コレクションから本格的にスタートしたと言えます(IAMの藻類以外の微生物コレクションはこれより前の1953年に設立されています)。その後50年の歴史を経て、2007年3月のIAMコレクションの終了にともない、微細藻類株はNIESコレクションに移管されました。現在、NIESコレクションには300株あまりのIAMコレクション由来の培養株が保存されていますが、その中には日本の藻類コレクション黎明期に収集されたIAM C-27株(Tamiya strainとして知られている。現NIES-2170株)を始めとする多数のクロレラ株や、IAMC-9株(現NIES-2235株)を始めとするクラミドモナス株など、古い歴史をもつ培養株が含まれています。また、IAMコレクション設立当時に、UTEXの前身であるインディアナ大学のコレクションやCCAPから分与された株には、Pringsheim、Provasoli、Starrといった藻類の培養や藻類コレクションの魁でもある偉大な藻類学者よって分離された培養株も含まれており、NIESコレクションにも欧米から発した藻類コレクションの歴史の一端が引き継がれているといえます。

 現在、日本の藻類コレクションには、NIESコレクションの他に水産生物資源に特化した独立行政法人水産総合研究センターのジーンバンク、独立行政法人製品評価技術基盤機構バイオテクノロジーセンターの藻類コレクション(主体は細菌および菌類を扱う日本最大規模のBRC、一部に藻類が含まれている)、NBRPの分担機関でもある神戸大学の大型海藻コレクションなどがあります。その中で、NIESコレクションは保有数、分譲数とも日本最大のコレクションとして活動しています。

 1985年には、保存株のカタログである「NIESCollection List of Strains, 1st Edition(NIESコレクション保存株リスト第1版)」を発行し、2009年には第8版を発行するにいたりました。分譲された培養株は、水環境に関わる研究や生理特性の解析など、藻類のかかわる様々な基礎および応用研究に利用されています(図8)。

図8
図8 分譲した培養株の利用目的
様々な基礎および応用研究に利用されていることがわかります。水環境の測定・改善にはバイオアッセイ、赤潮・アオコの制御、アオコ毒関連研究、水処理・水質浄化に関する研究が含まれます。
写真2
写真2 NIESコレクションのスタッフ

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