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広域大気汚染−酸性雨問題をめぐって

 酸性雨は発生地域だけの問題ではなく,その影響は国境を越え広範囲に及びます。とくに東アジア地域は経済発展が急速であり,その影響が懸念されることから,現在世界中の研究者から注目されています。

世界では

 近年,世界の大気化学に関する研究の焦点は,酸性雨原因物質の一つであるエアロゾルに当てられています。とくに経済発展が進む東アジア地域は,工業活動に由来するガス状大気汚染物質やエアロゾルの放出もヨーロッパや米国をしのいでいます。このため現在,東アジア地域では酸性雨に関する研究が国際的に進められています。

 2001年には,ACE-Asia(Aerosol Characte-rization Experiment in Asian Region:アジア地域でのエアロゾルの化学組成と物理的特性を明らかにするための国際協同研究計画)プロジェクトが行われ,アジアだけではなく欧米の多くの研究者が参加しました。

 また南アジアから東南アジアに広がる密度の高いエアロゾルの層が農作物にも影響を与えている可能性が指摘されたことから,ABC- Asia(Atmos-pheric Brown Clouds-Asia)プロジェクトがUNEP(国連環境計画)で進められ,エアロゾル,ガス状大気汚染物質のアジア地域での分布や輸送に関する研究が行われています。現在UNEPには,東アジア酸性雨モニタリングネットワーク(EANET)の事務局が置かれ,酸性雨問題に関するさまざまな活動を行っています。

日本では

 日本で本格的な大陸規模の広域大気汚染に関する研究に取り組み始めたのは1990年代に入ってからです。

 アジア大陸からの酸性雨の原因になるような大気汚染物質の輸送現象の解明のため,地方自治体の研究機関を中心とした取り組みとともに,1991年と1994年にNASA(米国航空宇宙局)を中心とする大規模観測(PEM-West:Pacific Exploratory Mission)で東アジア−北太平洋の大気の輸送現象観測が行われ,多くの日本の研究者が参加しました。これを契機に国内での地上観測や周辺での航空機観測が始まりました。

 東アジア地域における大気汚染物質の放出の増大は,エアロゾルの増加による寒冷化や対流圏オゾンの増加による温暖化など,地球温暖化問題にも大きな影響を及ぼすものと考えられています。

国立環境研究所では

 国立環境研究所では,1990年の本格的研究の開始以来,研究対象領域も国内から東アジアへと広がってきています。現在は,福江島や沖縄などの地上観測により南アジアや東アジアから輸送されるエアロゾルの研究を行っています。とくに有機エアロゾルを短い時間間隔で連続的に観測してその変動を明らかにすることで,輸送の特質,気候変動への影響を調べています。また,中国の青島付近や舟山群島,武漢周辺,成都周辺などで地上観測を行っています。これは,大陸における光化学大気汚染のモデルのためのデータ提供が目的です。さらに,中国においてエアロゾルの航空機観測を行い,大陸規模の大気汚染の輸送パターンや日本や太平洋地域への影響を明らかにする研究も行っています。

 一方,今後は酸性雨長距離輸送モデルのバージョンアップを図り,より精度の高いソース・リセプターマトリックスの作成が必要です。そのために発生源インベントリーに関して,これまでのデータの精緻化を進めています。2000年度のデータをもとにした大気汚染物質の発生源インベントリー(発生量マップ)の作成およびそのCD-ROM化を図ると同時に,これまでのデータにはなかった有機炭素,黒色炭素(ススなど),重金属(水銀,鉛)の発生量マップ作成を行っています。また,アジア大陸に面した局所排出源の少ない地点でエアロゾルや降水を捕集して,発生源地域の特定に結びつく鉛同位体比,重金属の測定を行い,広域大気汚染の定量化を進めています。

 この他酸性雨問題に関連して,これまでに酸性,酸化性物質の植物影響,陸水・土壌への影響,また生態系に及ぼす影響についても研究を行っています。現在,陸水に関しては日本における河川酸性化と水質の変化,ならびにそれらが魚類の分布・行動に及ぼす影響を明らかにし,酸性化危惧度短期評価手法を作成しています。また,酸性雨問題対策技術の開発に関する研究などについても,中国などで実施しています。

トピック

  • 東アジア酸性雨モニタリングネットワーク(EANET)
     EANETは,東アジア各国が参加している酸性雨の観測ネットワークです。東アジアのSOx,NOxの排出が増加し,近い将来酸性雨による影響が深刻な問題となり得るという懸念から,環境庁(現環境省)が主導し1993年に「東アジア酸性雨モニタリングネットワークに関する専門家会合」を開催したのが発端となっています。

     EANETの事務局はUNEPのアジア太平洋地域資源センターに置かれています。一方,ネットワークセンターは日本にある酸性雨研究センター(新潟市)に設置されており,ネットワークの推進に向けた中核的な役割を果たしています。

     こうしたネットワークを立ち上げるにあたって,当時は各国のモニタリング手法や精度がまちまちでした。そこでまず,各国が共通な手法で酸性雨のモニタリングを行い,高い水準の調査データを得ることから始めました。それを基盤に,EANETは酸性雨の現状について各国間の情報や意識の共有化を図り,国際協調の下で酸性雨問題の対策につなげていくことをめざしています。

     現在,EANETは(1)雨,雪,霧となって落ちてくる湿性沈着,(2)大気汚染物質中のガス,エアロゾルが直接落ちてくる乾性沈着(現在は濃度計測),(3)森林などの土壌・植生の状態,(4)湖沼などの陸水の状態,の4項目のモニタリングを行っています。今後は,発生源インベントリーの作成やモデリングなどの実施が検討されています。

     ・EANET参加国(12カ国)

     カンボジア,中国,インドネシア,日本,ラオス,マレーシア,モンゴル,フィリピン,韓国,ロシア,タイ,ベトナム
図
酸性雨モニタリングネットワークサイト(湿性沈着)2001年