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「東アジアの広域大気汚染の研究」の概要

Summary

 ここでは,東アジアの大気汚染物質の発生源データを初めて包括的に構築した「東アジア地域における発生源インベントリーの構築」,そしてこれまでその重要性は指摘されてきたものの,観測許可が下りず正確な情報がなかった中国における汚染状況を初めて観測した「航空機観測によるエアロゾル性状の空間分布測定」について紹介します。

1.東アジア地域における発生源インベントリーの構築

 東アジア地域を対象として,多成分の大気汚染物質発生源インベントリーを,埼玉大学や計量計画研究所と共同で構築しました。このインベントリーは,SOx・NOxによる大気汚染・酸性雨の実態解明を進めている内外の研究活動に対して,数値シミュレーションに用いる正確な発生源入力データを提供することを目的としています。

 インベントリーの主な項目
(1)対象地域:中国,台湾,韓国,北朝鮮,モンゴル,日本
(2)対象年度:1995年
(3)対象物質:SOx,NOx,非メタン揮発性有機化合物(NMVOC),アンモニア(NH3)
(4)対象発生源:人為発生源および自然発生源(植物起源NMVOC)
(5)空間分解能:経緯度0.5度グリッド(約45㎞×約55㎞)

 大気汚染物質の発生量は,一般に大気汚染の発生をもたらすさまざまな人工的な「活動量」と各活動の単位当たりの発生量「発生原単位」の積(次式)で表わします。

 発生量=活動量×発生原単位

 活動量の例としては,固定燃焼発生源における燃料消費量や自動車の走行距離などが相当します。発生原単位は燃料消費量や走行距離当たりの対象物質発生量のことです。

 その結果,SOx(図6)やNOx(図7)は,経緯度0.5度のグリッドごとの差異が大きく,地域による発生量の違いが目立ちました。一方,NMVOCは南方に行くほど発生量が多く,アンモニア(図8)は家畜排泄物が寄与することから中国中央部で発生量が大きいことがわかりました。

図6
図6 SOxの発生量マップ
図7
図7 NOxの発生量マップ
図8
図8 アンモニアの発生量マップ

2.自動車の環境効率評価

(1)観測

 観測は2002年12月から2003年1月にかけて中国の寧波ー温州間,上海ー青島間において行いました。ここではその中から12月28日と1月6日の観測結果を紹介します。

 搭載した測定器はガス測定器(オゾン,NOx,SO2),PM2.5およびPM10サンプラー(採取装置),電子顕微鏡分析用インパクター(粒子捕集器)です。

 両日の飛行コースは図9の通りです。

(2)結果と考察

 図10〜13に両日のガスおよび粒子状汚染物質の濃度を示しました。いずれもSO2とNOxの相関が高く,またNOxは輸送途中で速く減少しますが,本調査では高濃度NOxが観測されており,発生源近傍の汚染物質の分布を反映しているものと考えられます。また,両日とも観測領域は高気圧に被われていたため,汚染物質は下層に限定されたものと思われます。

 九州大学応用力学研究所鵜野教授の化学天気予報システム(CFORS:Chemical weather FOR-ecasting System)モデルの予測によれば,1月6日の上海周辺のSO2濃度は図12の測定結果とよく一致していました。

 今回の観測において,エアロゾルの化学成分の濃度には次のような特徴がありました。

 1)PM10とPM2.5の濃度が各成分ともよく似ており,エアロゾルが微小粒子側に存在していたと思われます。

 2)全陰イオン(Σ−)と全陽イオン(Σ+)の比が1:1に近く,エアロゾルが発生源近傍で中和されていることを示しています。これは,2002年3月の渤海湾上空における航空機観測でも見られたことです。

 3)中和の特徴は1月6日の青島から常州での観測でも見られましたが,わずかに全陽イオンの方が高い濃度でした。これは気塊が中国北部から輸送されていることを反映しているものではないかと思われます(中国北部はアルカリ性土壌で陽イオンが多い)。実際,流跡線解析*によれば,気塊は中国北部から輸送されていることがわかりました。

 *ある時刻にある地点にあった空気塊が,時間とともにどのように流れていくかを計算する方法

図9
図9 観測飛行コース
図10
図10 2002年12月28日のガス状汚染物質の変化
図11
図11 2002年12月28日の粒子状汚染物質の化学成分
図12
図12 2003年1月6日のガス状汚染物質の変化
図13
図13 2003年1月6日の粒子状汚染物質の化学成分