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「大気エアロゾルの計測手法とその環境影響評価 手法に関する研究」の概要

Summary

 北京の大気エアロゾル濃度は,最近では改善されてきたものの,世界の首都のトップクラスに入るほど高いのが現状です。こうした大気汚染は,中国国内の問題であると同時に東アジア全体の問題でもあり,研究が急務となっています。ここでは都市大気エアロゾル発生源の寄与として,乾性降下物量の経年変化,黄砂標準物質の作製,土壌由来(主に黄砂)エアロゾルの化学的性質を紹介します。なお,この研究は1996年から2000年にかけて,日中友好環境保全センターと共同で実施しました。

1.大気エアロゾルと乾性降下物の同時モニタリング

 1998年より2年間,乾性降下物のモニタリングを行いました。地点は北京,銀川,蘭州の3カ所です(図3)。

図3
図3 乾性降下物モニタリング地点と黄砂標準物質作成原料採取地点

 手法は,ハイボリュームエアーサンプラー(日本などで標準モニタリングとして採用されている大気エアロゾル採取装置)の捕集面と同じ条件にしたステンレス製捕集装置を考案製作し,降雨中は蓋を閉じ乾性降下物のみを採取するようにしました(図4)。

図4
図4 乾性降下物量の経年変化(北京)

 乾性降下物とは,大気エアロゾル中の粗大粒子部分とほとんど同じと考えてよい物質です。乾性降下物の季節変動は冬季よりも春季に高い傾向を示しました。春季は黄砂エアロゾルが多く発生するところから,その寄与が高いことが推察されました。その黄砂がどれだけ地表面に沈着するのか推定した結果,北京では月に15トン/km2にもなることがわかりました。北京に飛来する黄砂の平均粒径は,およそ4〜10μmの範囲内にあり(図5),粒径に関しては日本の黄砂よりやや大きい程度でした。ハイボリュームエアーサンプラーで1日サンプリングすると,中国の北京など都市域の平常時試料は真黒ですが,黄砂現象のときは黄土色をしています。日本の奄美大島で採取したものと比べると違いが面白いです(写真1)。

図5
図5 黄砂エアロゾルの粒径分布
写真1
写真1 平常時と黄砂時の大気エアロゾルの色比較

2.黄土標準物質,黄砂エアロゾル標準物質の作製

 北京や銀川などの都市大気エアロゾル中に含まれる土壌由来エアロゾルの割合を明らかにするためには,比較基準物質があれば便利です。また,発生直後の“汚れていない黄砂エアロゾル”があれば,都市大気内で生じている大気動態変化を実験室で検証することもできます。そこで,世界初の黄砂エアロゾルおよび黄土の標準物質の作製を試みました。原料となる表層砂と黄土は,銀川,北京に飛来する黄砂発生源の一つである,寧夏回族自治区のトングリ砂漠(4万m2)と典型的な黄土推積層(厚さ約250m)が発達している甘粛省会寧で採取しました(図3)。

 作製後の黄土標準物質をCJ-1(China Loess),人工の黄砂エアロゾル標準物質をCJ-2(Simulated Asian Mineral Dust)と名づけました(写真2)。

写真2
写真2 黄砂エアロゾル標準物質

 作製した試料の50%平均粒径はCJ-1が38.1μm,CJ-2は24.1μmです。CJ-2は,風成塵堆積土壌である黄土の粒径と大きく違わないことが確認されました。また,CJ-2の化学組成値について,各元素濃度比は日本(大阪,屋久島,山口)の黄砂エアロゾル,北京の黄砂エアロゾルの両方の相対濃度比とよく似ていることが確認されました(表2)。CJ-1とCJ-2は,中国の国家標準局によって,2001年春に国家1級標準物質として認定を受けました。

表2
表2 CJ-2と黄砂エアロゾルの文献値との比較

3.土壌由来エアロゾルの化学的性質

 土壌由来エアロゾルをいろいろな地点で捕集し,その化学成分を比較しました。黄砂発生地である砂漠地帯や黄土高原の試料と北京のような都会の試料を比較すると,硫酸イオンや鉛などの重金属類が都会で捕集した試料中に多く存在することがわかりました(図6)。

図6
図6 砂漠土壌および黄砂時エアロゾル中のAl相対濃度比
 タクラマカン砂漠:降下物(●),サルテーション粒子*(■),表層土(▲)
黄砂時エアロゾル:蘭州(○),銀川(□),北京(△)
*強風でも高く舞い上がらず,すぐに落ちてくる砂粒

 土壌由来エアロゾルは,自動車排ガス,石炭燃焼排ガス等の大気汚染物質と大気中で反応する可能性があります。そこでCJ-1とCJ-2を使い,中国都市大気中で濃度が高いSO2ガスが現実に黄砂と反応するのかを検証するための室内実験を行いました。その結果,SO2ガスは非常に早いスピードで黄砂粒子表面にSO4形態で取り込まれることがわかりました。黄砂粒子はこの酸化反応機構を一層促進する触媒効果を持っています。

 中国の都市大気エアロゾルは写真1のように平常時は真黒で,硫酸アンモニウム粒子が日本よりも多く含まれてます。硫酸の源の多くは大気中のSO2ガスです。SO2が黄砂表面でSO4に酸化し捕捉されることは述べましたが,それ以外に別のルートで黄砂表面に捕捉されることも見つけました。それは平常大気中に多く含まれている硫酸アンモニウム粒子が黄砂と大気中で混じったとき,黄砂中のカルシウムとアンモニアが置き換わる反応です。この反応は,湿度の高いときにゆるやかに進行します。エアロゾル同士の反応などは日本だけでの観測では思いもよらなかったことで,中国との共同研究を行って初めて発見したことです。この現象も黄砂標準物質を用いた室内実験で検証できています。