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コラム「ライダー」

 ライダー(レーザーレーダーともいう)は,電波ではなくレーザー光を使ったレーダーです。レーダー(Radar)はRadio Detection and Ranging の縮小語ですが,このRadioをLightに置き換えて LIDAR と呼ばれます。サーチライトや暗闇に差し込む光線を見ることができますが,これは光が大気中の塵で散乱されるためです。ライダーはレーザーを光源として,このような散乱光を高感度のセンサーで計測することによって大気中の塵(黄砂や大気汚染エアロゾル)の分布を求めます。ライダーではパルスレーザー(間欠的に非常に短い時間間隔で発光するレーザー)を用い,レーザーの発射から戻って来る時間遅れを利用して散乱体までの距離を計測します。また,その時間に対応する散乱の強度からその距離における散乱体の濃度を求めます。たとえば,ライダーによく用いられるヤグレーザーは約10ナノ秒(10-8秒)の瞬間的な光を発射します。光速度で伝播するので,このパルス光の空間的な長さは約3mに相当します。つまり,3mの長さの光の塊が光路上に分布するエアロゾルに散乱されながら光速で飛んで行く状況を考えればよいのです。この散乱光を望遠鏡で集めて時間応答波形を記録することによって,光路上のエアロゾルの分布が得られます。

 国立環境研究所で開発した小型ライダーでは,ヤグレーザーの基本波(1.06μm)と第2高調波(532nm)の2波長を用いて散乱光を測定します。2波長を用いることによってエアロゾルの粒径に関する情報が得られます。また,532nmでは,散乱強度と同時に散乱による偏光の変化(偏光解消度)を測定します。この偏光解消度は散乱体が非球形である度合いの指標です。大気汚染による硫酸エアロゾルのような液相のエアロゾルは球形ですが,鉱物粒子の黄砂は非球形なため偏光解消度が高く,黄砂を感度よく判別することができます。小型ライダーの測定の方向は真上方向のみで,高度約15kmまでの対流圏のエアロゾルと雲の高度分布を昼夜,天候によらず継続的に観測しています。

散乱体が球形であれば散乱による偏波面は変りません。黄砂のように球形でない場合、散乱光に垂直偏波成分が表れます。これを測ることにより黄砂を判別できます
ライダーで非球形を区別する原理図
ライダーの原理図(左)、ライダーによる観測の写真(右)
ライダーの原理図