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「干潟・浅海域における水質浄化に関する研究」概要とその成果

Summary

1.東京湾奥部における浅海域の特徴

 浅海域の一つの例として,東京湾奥にある三番瀬を調査対象としました。三番瀬は水産的にも重要な浅海域であり,冬にはノリがとれるほか,1年を通してアサリやバカガイの漁獲があります。三番瀬と,その沖合の湾央部における水質・底質・生物量などを1996年9月から1998年9月にかけて調査し,比較しました(図1)。

図1
図1 東京湾奥部に調査地および三番瀬における二枚貝水平分布

(1)東京湾奥部の水質

1)湾央部(地点5,6)では,夏季に底層が貧酸素状態になったが,三番瀬(地点1〜4)における溶存酸素は3〜6㎎/lの幅であり,生物の生息には十分であった(図2)。

2)溶存酸素,pHで見る限り,三番瀬では,生産(光合成)を消費(呼吸)が上回っていた。これは底生生物が豊富に存在し,その酸素消費が高いためである。

3)湾央部では,夏季に底層が貧酸素化していたため,生存個体は極めて少なかった。

4)シオフキガイの殻長別分布では,三番瀬内でも地点による差があり,岸寄りの地点で小さい個体が多くみられた。

図2
図2 東京湾奥部三番瀬調査地点1〜6における溶存酸素の鉛直分布

1)三番瀬内の底泥は,主として細砂で構成されている。有機物が多く堆積した湾央部の底泥と大きく異なり,泥分率(泥の割合),含水率(水分の割合)や強熱減量*が小さい値であった。

2)三番瀬内では,湾央部に比べ底生生物種数・生物量とも多く,湿重比では,軟体動物(二枚貝など),多毛類(ゴカイなど),甲殻類(カニ,エビなど)の割合が98%以上を占めた。中でも,二枚貝の生物量はとくに多く,その重要性が示された。

*強熱減量(volatile solids)とは,乾燥させた試料を高温で熱したときに消失(試料中の有機物が加熱分解され二酸化炭素などとして大気中に放出されて重量が減少する)する量の割合(%)をいいます。強熱減量の値は,試料中に含まれる有機物のおよその目安になります。

(3)底泥中の光合成色素分布

 浅海域における循環の担い手である底生生物の研究の一つに,底生生物が食べている植物プランクトン内の光合成色素およびその分解物の組成,分布を調査する方法があります。光合成の主役であるクロロフィルaは植物プランクトンの脂質に包まれていますが,摂食されたり死滅して直接海水と接すると,加水分解されフェオ色素に変化します。つまり,底泥中のクロロフィルaとフェオ色素の量や分布状態を調べることによって植物プランクトンの量,摂食,分解の程度を知ることができます。今回の結果では,

1)底泥のクロロフィルaやその分解物であるフェオ色素の分布から,湾央部より浅海域の方が有機物分解が活発であった。これは(2)-2)の結果である底生生物の現存量の結果とよく対応している。

(4)東京湾奥部の底泥における酸素消費と底泥からの栄養塩の溶出

 東京湾では底層が貧酸素化することで,底泥からの栄養塩の溶出が増大します。

 また,底泥のコアサンプルを持ち帰って室内で測定すると,実際の現場での値と誤差が生じる場合があります。このため現場で直接測定するための装置を開発しました。

1)栄養塩の循環に占める底泥からの溶出の寄与が大きいことが推察された。

2)三番瀬に設置した測定装置2台から得られた栄養塩溶出速度はそれぞれ異なっていたが,底生生物量当たりの値は同程度であった。

2. 東京湾奥部における底生生物による水質浄化

 東京湾の主に砂質の浅海域では,底生生物として二枚貝が優先しています。二枚貝は海水をろ過して摂食することから,海水中の植物プランクトンなどの懸獨有機物を除去します。ここでは,この除去を浄化の一つと考え,二枚貝の役割に注目しました。三番瀬におけるその水平分布を調査するとともに,室内実験により,ろ過速度,排泄速度などを測定して,三番瀬における水質浄化機能を推定しました。二枚貝のうち,ここでは,現在水産価値が低いため人為的変化(漁獲)が少なく,増減が自然状態に近いシオフキガイを中心に取り上げています。

(1)三番瀬における底生生物の現存量

1)三番瀬内に17調査地点を設定し,底生生物の水平分布を調査した結果,個体数では多毛類と甲殻類が優占し,生物量(湿重)では二枚貝のアサリ,バカガイ,シオフキガイの3種で全体の約83%を占めた。

2)シオフキガイは船橋側では全調査地点で出現し,軟体部乾燥重量(乾重)で表した生物量は,三番瀬全体の平均値で2.35g/m2であった。

3)シオフキガイの殻長と軟体部乾重,殻付湿重と軟体部乾重との間にはよい相関が見られ,現場調査で容易に測定可能な湿重から軟体部乾重への換算が可能であることが示された。

(2)二枚貝の海水浄化能力

 浅海域における底生生物の水質浄化能を評価するため,その基礎となる底生生物の呼吸速度,ろ過速度,排泄速度を,室内実験で測定しました(図3)。なお実験で用いたシオフキガイと海水は,1998年6月から1999年1月の期間,ほぼ2カ月に1回の頻度で,三番瀬で採取しました。

1)実験室で7〜25℃の範囲で測定されたシオフキガイのろ過速度と呼吸速度は,ともに水温が高いときに高い値を示した。軟体部乾重当たりのろ過速度と呼吸速度は,重量の小さな個体ほど大きかった。これは,シオフキガイの表面積(この場合はエラの面積)と体重の比が,小さな個体ほど大きいためと推察される。

2)シオフキガイの軟体部乾重当たりの海水ろ過速度と呼吸速度は,平均値で3.0l /g時であった。一方,既存文献では,砂に潜っている二枚貝のろ過速度として1.4〜7.2l/g軟体部重量/時の値が得られており,これは本実験と同程度と考えられる。

3)シオフキガイの軟体部乾重が0.3〜0.9gの個体について,摂食速度,糞排泄速度,偽糞*などを測定することにより,摂取量の約74%の窒素が同化(浄化)されるものと推定された。なお,同化率は{摂取量−(糞+偽糞)排泄量}/摂食量で表される。

図3
図3 シオフキガイの呼吸速度・ろ過速度・排泄速度の測定

(3)現場浄化能評価

1)三番瀬における二枚貝のろ過速度は,シオフキガイにより169l/m2/日,上記3種の二枚貝の合計で442l/m2/日と計算された。これを書き直すと0.44m/日となり,二枚貝が1日で44㎝の高さの水をろ過することに相当する。

 水深2m程度の三番瀬では,二枚貝により数日のうちに海水がすべてろ過される計算となります。海域におけるろ過量は,二枚貝の存在量に比例します。今回(1998年6月)の生物量はとくに大きな値ではなく,たとえば1996年9月には三番瀬内にて3.4kg湿重/m2という値が観測されています。この場合同様に計算すると,二枚貝が1日で6.6mの高さの水柱ををろ過することに相当します。

*二枚貝は一度に大量の植物プランクトンを摂るとき,摂取し切れず吐き出す場合があります。これが糞状に見えるため偽糞といいます。