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講演4「化学物質の安全性はどこまでわかっているか」

東京・京都会場でのアンケートに寄せられた質問に、講演者(白石寛明)が回答します。
多数のご質問をいただきましたが、似た内容の質問をまとめるなど主催者側で整理しましたことをご了承ください。

Q1: 子供や老人に対する影響はどのように考慮されているのでしょうか?

A1: 子供や老人など、感受性の高い人々に対する影響に関する知見には限りがありますが、そうした知見があれば、それは考慮されて規制値などが決められます。動物実験においても感受性の差に関する知見がない場合は、安全係数を大きめにとるなどの配慮がなされますが、内分泌かく乱作用などによる影響がどのような有害性を示すかについてははっきりせず、さらに研究を進めていく必要があります。


Q2: (既にばらまかれている)化学物質をどのように処理・対処していくことが必要なのでしょうか?また、具体的に現在取り組まれているプロジェクトなどあれば教えてください。

A2: すでに環境中に放出され地球的規模で拡散してしまった化学物質を処理することは実際上不可能です。重金属・ダイオキシン・有機塩素系溶剤などによる局所的な土壌汚染・水質汚染では、膨大なコストがかかりますが、物理的な除去や微生物による分解などで処理は可能です。


Q3: オゾン層保護法の1988年は間違いではないですか?

A3: 1988年5月に制定された環境省所管の法律「特定物質の規制等によるオゾン層の保護に関する法律」をさしているので間違いではありません。なお、国際的な「オゾン層の保護のためのウイーン条約」は1985年に採択され、1988年に発効しています。


Q4: ケルセン汚染の土壌に関して、土壌汚染対策法との関係はどうなっているのでしょうか?みかん産地では、現在どのような対応をしているのですか?

A4: 土壌汚染対策法は、土壌の特定有害物質による汚染から人の健康被害の防止を目的とした法律です。特定有害物質に指定されているのは、鉛、砒素、トリクロロエチレンなどいくつかありますが、ケルセンは対象物質になっていません。みかん産地では代替農薬に転換されていますが、過去の使用履歴を踏まえた土壌対策は特に計画されていないと思います。


Q5: 安全な化学物質はあるのですか?どのような化学物質も現在の人口から考えると、蓄積されて有毒性を持ってしまうのではと危惧しています。

A5: 体内に吸収された場合には、どのような化学物質でもその量が多すぎれば有害性を示す可能性が考えられます。化学物質は、一般環境への放出や人への暴露の機会を減らし、安全に利用することが大事です。化学物質には、PCBのように蓄積されやすい性質を持つものもあれば、ビスフェノールAのように取り込まれても速やかに排泄されるものもあります。蓄積されやすい化学物質は、優先的に安全性の確認がなされています。


Q6: 化学物質の安全性評価は、いき値のある毒性と発がん毒性が基準であることは理解しましたが、他の生物への評価基準というのはあるのでしょうか?

A6: 他の生物に対する評価基準としては、水産動植物や水生生物の保全のための基準があります。水生生物の保全のための環境基準は、生活環境の保全を目的として「人の生活に密接な関係のある動植物」を対象とし、地域の特性に応じて複数の生物の慢性毒性データを基に定められています。他の生物への影響評価の方法は、比較的短期で高い濃度の影響を問題とする場合、微量ですが長期の影響を問題とする場合など、保全目標によって異なります。


Q7: 人の生涯リスクとして10万分の1を用いたのは何故でしょうか?(通常100万分の1という数字は聞くのですが)

A7: 諸外国での健康にかかわる将来的な目標値としては、10万分の1から100万分の1が提示されています。米国の大気浄化法では目標とするリスクレベルを設定して環境目標を定めることはせず、排出対策を行っても、最大暴露を受ける人の生涯リスクが100万分の1以上である場合により厳しい対策を講ずることとされています。スウェーデンでは生涯で10万分の1、年に100万分の1のレベルとされています。オランダでは最大許可限度を生涯リスクでは約1万分の1に設定し、目標値を100万分の1に設定しています。いき値のない発ガンのリスクレベルから日本の大気環境基準が設定された物質はベンゼンのみですが、現状の汚染レベルが考慮されて約10万分の1の生涯リスクになったようです。日本の水道水水質基準や水環境基準では、WHOの勧告で採用されている方法(70年間で10万分の1)を参考にして設定されています。(参考:大気環境学会誌32巻4号)。


Q8: 食品衛生法では、ADI(一日摂取許容量)はNOAEL値(無毒性量)の1/100の値を使用していると聞きました。オキシダントの環境基準はNOAELの何分の1を使用しているのですか?

A8: ADIは得られる科学的知見から影響を予測するときのあいまいさを考慮して決められますので、NOAEL値の1/100の値を使用するというように決められてはいません。光化学オキシダントの環境基準は1時間値で0.06ppmです。1時間値で0.1ppmを超えると目やのどの刺激などの症状があらわれること、0.06ppmならば、肺や循環器障害をもった方にも影響がないという報告が参考にされています。


Q9: Japanチャレンジプログラム(注)に関してですが、なぜ既存物質について国ではなく企業をスポンサーにして考えているのでしょうか、企業にどのようなメリットがあると考えられますか。新規物質ならまだしも、既存ならどこかがやればいいのではと積極的にはなれないと思います。

A9: 化学物質を扱うものには、本来、規制の有無にかかわらず、人の健康や環境への悪影響をもたらさないように化学物質を適切に管理する社会的な責任があると思います。「アジェンダ21」第19章では、国際的な協力・データ交換の必要性とともに、毒性情報の収集・提供での政府と事業者の役割についての考え方が示されています。その中で、企業は、製造物質のハザードデータを提供すべきであり、そのデータは政府、国際組織などや、可能な限り一般大衆にも利用されるようにすべきであるとされています。化審法の改正法案の国会の付帯決議として、既存化学物質の安全性点検については、産業界と国の連携により計画的推進を図ることされています。企業の安全性に対する取り組みは国民や国際社会からも支持され、企業にもメリットがあると考えます。

(注)Japanチャレンジプログラム
化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律が制定された昭和48年の時点で製造・輸入されていた既存化学物質について、安全性情報の収集を加速化し、広く国民に情報発信を行うため官民協同により立ち上げられた「官民連携既存化学物質安全性情報収集・発信プログラム」のことで、通称「Japanチャレンジプログラム」という。
http://www.env.go.jp/chemi/kagaku/kison_index.html


Q10: 化学物質の排出量削減にリスクコミュニケーションはどのような形で貢献するのでしょうか?成功事例は多いのでしょうか?
   最近、企業の信頼性が下がってきている感もありますが、各社で評価され、出てくる化学物質の安全性についての監査の様なことは行われているのでしょうか?又、行われていれば、どのように行われているのでしょうか?

A10: リスクコミュニケーションは化学物質による環境リスクに関する正確な情報を市民、産業、行政等の関係者が共有し相互の意思疎通を図ることです。リスク評価における仮定やあいまいさを、正確な情報として共有することは、リスクの削減対策を実施する際に必要不可欠です。
 新規に製造される化学物質は、蓄積性、分解性、毒性試験が行われており、厚生労働省、経済産業省及び環境省が合同でほぼ毎月、安全性についての審査がされています。新規物質の審査は企業秘密に関係するため非公開ですが、既存の化学物質の審査は原則公開で行わますので、傍聴も可能です。


Q11: 以前、テレビ(NHK)で、化学工場と行政以外にたくさんの関係者が集まって、ある工場の今後の排出のあり方を話し合っているのを見たことがありますが、日本で同じような実践ができているケースがありますか?

A11: 神奈川県などの自治体で、企業、行政、市民や研究者が集まって企業の取り組みについて話し合っているケースがあります。


Q12: PRTRに関しては、試行実施を経て、排出量提出が義務付けられていますが、行政的な経過や発表を聞いたことがありません。その辺はどのようになっているのですか?一般市民としては、どのように期待したらよいのでしょうか?
   化学物質の排出について、環境省のHPでは県単位ですが、あるサイトでは、工場サイトor化学物質ごとの情報が発表されているとのことです。そのNPOの基礎情報はどうやって入手しているのですか?環境省のものと同じ基礎情報ですか?情報を共有してコミュニケーションが大事と最後に言われていましたが、NPOのサイトを自力で探すしかありませんか?

A12: 届出された排出量や政府で推定されたデータは、開示請求することによって入手することが可能です。環境省に開示請求の仕方が記載されています。NPOは開示請求によってデータを得ており、環境省のものと同じ基礎情報です。平成13年度より毎年、集計結果が公表されており、直近のものは平成15年度です。


Q13: PRTR等で濃度がわかったとしても、大気中の濃度を私達は減らすことができるのでしょうか。私達の吸う有害物質をどのように減らせばよいのでしょうか。例えば、マスクをするとか、工場周辺を歩かないとか…。空気中にある、又は、水道水中にある化学物質(家内では浄水器、空気清浄機がありますが…)を、なるべく避ける方法はあるのでしょうか?

A13: 個人でできることには限りがありますが、大気中の有害物質の濃度は社会全体の取り組みの中で減らしていくことが重要と思います。個人的には有害物質を含まない製品を利用するよう心がける、本来必要のない化学物質は使わないように注意しています。適切な量を使用して環境への排出をできるだけ抑えること、個人的に暴露を避けるためには、殺虫剤や塗料などの化学物質を扱うときはマスクや手袋をするなどしています。


Q14: 私達ができることの中で、「極端にかたよらないバランスの良い生活をしましょう」というものがありましたが、具体的にどのようなことをすればよいのでしょうか?

A14: 平均的な人と比べて、特に変わった行動や習慣がないかをチェックして見てください。たとえば、特定の食品を好んで食べていないか?周囲に変わった発生源はないか?などをチェックし、もし当てはまるなら、リスクを考え、対処してみたらいかがでしょう。


Q15: 「リスク管理を自己責任で」との内容に関して分析技術や分析機器の相談などの窓口として適当な機関がありましたら紹介して下さい。
   環境ホルモン、ダイオキシンの測定は、どのようにするのですか?液クロ、ガスクロを使うのでしょうか?他の機器分析としてはどのようなものを使うのですか?

A15: 環境ホルモンやダイオキシンの測定法には液クロ、ガスクロを使う方法もありますが、より簡便な免疫学的な測定法、生物を用いる方法などさまざまな方法があります。公定法を中心にした分析技術については、当研究所でも環境測定法データベースEnvMethod(http://db-out3.nies.go.jp/emdb/)を公開していますので参考にしてください。


Q16: 身の回りの化学物質のリスクをどのように集めたらよいのでしょうか?

A16: 含まれる化学物質が表示されていればそれをもとに有害性について調べることはある程度は可能ですが、使用している化学物質が表示されていない身の回りの製品中の化学物質の情報を集めるのは専門家でも困難な状況です。


Q17: 化学物質のリスクに関する行政・研究において、日本が他国よりも進んでいる分野があれば教えて下さい。

A17: 行政において、高蓄積性で有害性のある化学物質の製造輸入の禁止処置はどの国よりも進んでいると思います。環境中の化学物質のモニタリングも他国より積極的になされています。内分泌かく乱化学物質の研究など、研究面で日本がリードしている分野もあります。


Q18: 化学物質の表示は、PRTR対象物質が1%以上含有している場合、MSDSやラベルに記載するなど、対応が決まっているのではないでしょうか?

A18: PRTR対象物質(又はそれを1%以上含有する製品)を事業所間で取引する際、化学物質の譲渡先に、性状及び取り扱いに対する情報(MSDS)の提供が義務付けられています。代表的な種類として化学薬品、塗料、溶剤などがありますが、事業者による取り扱いで環境中に排出される可能性の少ない一般消費者用の製品、乾電池、粉状や粒状でない固形物などの場合は例外とされています。


Q19: ビニールなどの化学物質を生ゴミから作ることが出来るようになったとテレビを見て知りました。そのようなものも絶対に安全と言えるのでしょうか?

A19: ごみからビニールのような性質を持つ化学物質(ポリ乳酸など)を作ることが可能です。微生物でごみを分解して、生成する化学物質を精製して原料にします。どのような材料を用いたとしても、純粋な化学物質からできる製品の安全性は同じと思いますが、原材料によって含まれる不純物は変わりますので、ゴミの分別やどのような場合でも有害な物質を含まないよう精製の仕方を注意する必要があります。また、先にも述べましたが、どのように使っても絶対に安全な化学物質というものはなく、利用にともなう利点と問題点を理解した上で、安全な利用を心がけることが大切なことを理解していただきたいと思います。


Q20: 化粧品、シャンプー、はみがき等に含まれている化学物質の作用について一般市民に分かりやすく説明するのにどの様にしたらよいか教えて下さい。

A20: わかりやすく説明する方法に正解はないと思いますが、含まれる化学物質がなぜ必要なのかを説明し、成分の人や生態への有害性でわかっている点とわからない点を説明し、特に重要なエンドポイントについて普通に利用したときの濃度と影響の関係を示し、どの程度のリスクがあるかを考えてもらうことであると思います。
一例として、わかりやすさを念頭において環境省で作成された化学物質ファクトシート(http://www.env.go.jp/chemi/communication/factsheet.html)がありますので参考にしてください。


Q21: 燻煙・燻蒸式殺虫剤のリスクは、どうですか?
   バイト先の飲食店で使われていますが、大丈夫でしょうか?

A21: 個別の製品についてはお答えできませんが、農薬のように生物に影響のある化学物質は、特に注意して使う必要があります。多量に使えば暴露する機会が増えてリスクは大きくなります。一方、使わずにいたために衛生害虫が増え、病気や食中毒などがはやっても困ります。発生源を見つけて対策を立て、薬剤に頼りすぎることのないようにすることが大切です。どの程度つかって良いかは、使用上の注意を順守してください。


Q22: 昔妊娠中にX線撮影をするなとかいろいろ言われていましたが、発育途上で放射線や超音波など、物理的処理を受けた影響については環境研としては調べてはいませんか?

A22: 電磁波と小児がんに関する疫学調査などが行われています。また、発光ダイオードの光による刺激の影響についての研究が始まっています。放射線や超音波の影響についての研究は現在行われておりません。


Q23: GMO(遺伝子組み換え食品)は表示されますが、遺伝子組み換え薬品の表示はどうなっていますか?

A23: 医薬品の表示の義務については、薬事法で定められており、生物由来製品の表示項目として、「24 遺伝子組換え技術を応用して製造される場合にあっては、その旨」を添付文書または容器若しくは被包に表示するよう義務付けられています。

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