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講演1「湖・沼・池の環境研究30年−アオコから生物多様性・自然の再生へ−」

講演者(高村典子)による回答

Q: ハクレンを用いる実験において、前期と後期では温度も違っていました。本当にハクレンの影響だけなのでしょうか?水温の影響がどのくらいあるのでしょうか?一回の実験で結論づけていいのでしょうか?

A: 後期のアオコの発生量が少なかったのは平均水温が約2℃低かったためであると考えることができます。ハクレンのプランクトン群集および水質に及ぼす影響の実験は、公開シンポジウムで紹介した以外にも行いました。詳しくは、「富栄養湖沼群の生物群集の変化と生態系管理に関する研究(開発途上国環境技術共同研究)」の報告書(SR-38-2001)をごらんください。


Q: ハクレン投入による他の影響の恐れはないのでしょうか?ハクレンは外来生物で、沈水植物等への食害が懸念されているのでは?

A: 草魚と異なり水生植物への食害の心配はありません。ハクレンを用いたバイオマニピュレーションの研究は、途上国の環境問題支援のためのプログラムの一環として行ったものです。研究成果は、中国で活用されています(『環境儀』No.9をご参照ください。)。


Q: 中国でのハクレンの投入は食用のためで、その結果として水がきれいになったのであって、食用としての需要の無い日本での導入は不可能なのではないですか?

A: 確かに、食用として需要がない日本での利用価値は中国には劣ると思います。


Q: アオコとハクレンについて、統合的な数理モデルは有りますか?

A: あります。「富栄養湖沼群の生物群集の変化と生態系管理に関する研究(開発途上国環境技術共同研究)」の報告書(SR-38-2001)をごらんください。


Q: 結局、霞ヶ浦はハクレン導入で効果が有るのですか無いのですか?

A: 講演でも述べましたが、霞ヶ浦の植物プランクトンのモニタリングから、霞ヶ浦では1999年ごろからシアノバクテリアの現存量が著しく減少して、1970年代のようにアオコが発生しておりません。従って、現在の霞ヶ浦では効果はないと思います。


Q: 生態系を撹乱してまで、湖水浄化をすすめる必要があるのですか?

A: バイオマニピュレーションの実施については、利点と欠点を把握した上での議論に基づいてなされるべきだと思います。議論をするための科学的な影響評価を提示することが科学者の役割であると考えています。


Q: 池の周辺に森林や水生植物が存在すると、アオコが発生しないとの事ですが、森林や水生植物がアオコの増殖を制限する物質を出していると考えて良いのでしょうか?直接的な制限物質があるとすると、それは何ですか?また、間接的な場合は、どんな事がアオコの増殖を制限していると考えられるのでしょうか?

A: 現在、農業環境技術研究所との共同研究で、樹木や水生植物のアオコに対する他感作用についての研究を進めています。まだ、色々な植物種のスクリーニングが終わった段階ですが、幾つかの植物種について強い他感作用を確認しています。 間接的には、
 1) 光量を抑制する効果
 2) 水温の上昇を抑える効果
 3) 水生植物が、大型動物プランクトンが魚から避難する場所として機能するため大型動物プランクトンの植物プランクトンへの摂食を促進する効果
 4) 底泥からの栄養塩の巻き上げを阻害する効果
 5) 脱窒作用を促進する効果
 6) 森林土壌からの流入する溶存有機物質のキレート効果により、アオコの増殖に必要な鉄などが不活性される効果
などが考えられます。  これらは、森林や水生植物群落の生態学的機能と呼ばれています。実際のフィールドでは、こうした機能が相加的・相乗的に働いているため、生態系として評価することが大切です。


Q: トンボの多様性は生息環境(植生帯・護岸等)が主な要因であると結論づけていますが、ブラックバス等の肉食外来魚の影響は調べられているのでしょうか?

A: 調べましたが、我々の研究デザインでは統計学的に有意な関係は得られませんでした。我々の調査地である兵庫県南西部のため池で、ブラックバス等の肉食外来魚が放たれていない池を探しだすことは、ほとんど不可能でした。そのため、ブラックバス等の肉食外来魚がトンボの多様性に及ぼす影響を調べるためには、今回のような調査研究ではなく、他の実験的な研究手段を用いるのがよいかと思います。


Q: 生物多様性の視点から、理想的な自然はどの様なものですか?それは、人の手を加えない状態か、あるいは、人によって管理された状態でしょうか?人の手を加えるとするとどの程度までゆるされるのでしょうか?また、我々の身近にある自然に対する、研究者の役割や具体的な活動を教えて下さい。

A: 現在は、大絶滅時代と呼ばれるほど多くの生物種が絶滅の危機に瀕しています。2002年3月に閣議決定された「新・生物多様性国家戦略」では、今日、生物多様性の減少を引き起こしている要因として、以下の3つの危機をあげています。
 @人間活動ないし開発が直接的あるいは間接的にもたらす種の減少と絶滅
 A人間の生活や生産様式の変化、人口減少など社会経済の変化に伴い、自然に対する人為の働きかけが縮小撤退することによる里地里山等における環境の質の変化、種の減少ないし生息・生育状況の変化
 B移入種等による生態系の撹乱や自然界に存在しない化学物質による生態影響のおそれ
 ここ50年あまりの間に急激におきている生物多様性の減少が、我々にどのような影響を与えるのかについて、まだ、十分に明らかになってはいません。しかし、人間は清浄な水や大気などの自然の恵みがなければ生きていくことはできません。自然に親しみ、多様な生き物とふれあうことは、人間の喜びのひとつです。私には「理想的な自然」について、ここで適切にお答えする力はありませんが、色々な場で、生物多様性の減少機構を明らかにし、それを軽減するための保全手法を提案することが、研究者の役割であると考えています。また、具体的には、自然再生事業などに参加して研究を進めることで、生物多様性の保全活動を行っています。

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