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第1セッション・講演「衛星リモートセンシングで見る環境の現況と変化−渡り鳥の生息域とサンゴ礁を例として−」

講演者(田村正行)による回答

Q: 中国のタンチョウの生息地の危機を感じた。間口が広がり、テーマ数が増大していき、内容の充実が進まない。世界の動向を含めて、大きな「まとめ」の発表テーマが必要ではないでしょうか。

A: 研究を実施する上では「選択と集中」が必要です。環境問題の重要性の観点からプライオリティをつけ、マンパワーとリソースを重要な課題に集中させる必要があります。私達はこのことを忘れずに研究を進めたいと思っています。タンチョウ及びコウノトリの中国における生息地は、開発によって危機的状況が迫っています。この状況に対処するためには、私達の実施しているような研究により生息地の分布と環境を把握し、適切な環境保全策を提言することが重要です。


Q: 数種類の鯨に発信機を埋め込んで(パワーをコントロールした銃で表皮と脂肪層の間に打ち込むmax1kg程度)、衛星を通してモニタリングを行ってみてはどうでしょうか。

A: 衛星トラッキングは鳥だけでなく海洋生物にも有効です。実際、鯨やウミガメなどの移動経路を、深さも含めて3次元的に追跡する研究が行われています。このような研究を通してこれまで分からなかった鯨の生態が明らかになっています。


Q: 渡り鳥にモニターをつけるために捕獲する時に傷つける心配はないのでしょうか。生物の生息域として例えば日本全土がおおわれている絵がありますが実際にはほとんど生息していないのに生息しているように表示されていると、この絵は何なのだろうと思います。

A: 鳥に発信器をつける際には、獣医免許を持ったものが担当し鳥を傷つけないよう細心の注意を払っています。鳥を傷つける可能性が皆無とは言えませんが、その危険性は、この研究によって得られる保全上のメリットと比較して、評価されるべきだと考えます。Bird Life Internationalの資料では日本がコウノトリの越冬地とされていますが、これは資料が古いためで、現在コウノトリは日本にほとんど渡ってきません。しかし、かってはコウノトリが日本に広く生息したという記録があります。一旦渡りが途絶えるとそれを回復させるのは至難の業ですが、自然環境を回復させることによりコウノトリに再度日本に来てほしいものです。


Q: 中継地の重要な拠点の一つとして養魚場周辺域があることを紹介されました。(1)養殖場に対する実害はないのでしょうか。(2)被害があるとしたら養殖か業者による防止対策は施しているのでしょうか。鳥類の保護の立場から防止対策に制限を加えるか制限を行う場合業者への補償をどう考えますか。(3)国立環境研究所の活動として、ここまで立入った取組をしますか。(4)自然保護の考え方として「渡り」に人為活動が影響(正負とも)している場合、排除するのでしょうか。正は共存として認め、負は排除するとしたら、その選別の根拠はどのように確立していくのでしょうか。

A: (1)〜(3)についてはまだ調べていませんが、重要な問題ですので中国の研究者を通じて調査したいと思います。現地行政機関の政策的な取り組みの実態を把握することも保全策を立てる上で重要だと考えます。(4)に関しては、人為的介在無しで鳥が生存できるような環境が保全されることが理想です。しかし、渤海湾岸のように開発が進んでしまった場所では、人為的環境であっても鳥の生存に役立つのであれば人間活動と共存するような方策を考えざるをえないと思います。生存に役立つかどうかの判定は一律な基準ではなくケースバイケースになると思います。例えば、養殖池の場合、鳥による損害を補償して人が近づかないようにすれば「正」ですが、そのような補償ができず鳥を追い払うようになれば「負」ということになります。


Q: この技術は、他の動物(クマ、シカ、カモシカ、サルなど)に応用して、生態の調査に役立てることはできないでしょうか。

A: 衛星追跡は鳥だけでなく他の動物にも適用できます。実際、象や鹿などにつけて移動経路を追跡した研究が行われています。ただ、衛星追跡は誤差が150m〜1000mありますので、狭い範囲の移動を追跡するには通常のテレメトリか、最近開発されたGPS追跡システムを用いる方が適切です。


Q: 九州の出水市のナベヅル、マナズル等大型鳥の日本とシベリア間渡り鳥の生息域を測定してもらいたい。

A: 出水で越冬するナベヅル、マナヅルについては共同研究者である東京大学の樋口教授が1993年に追跡を行っています。渡って行った先(繁殖地)は中国の三江平原、ザーロン自然保護区でした。詳しくは樋口広芳編「宇宙からツルを追う」読売新聞社をご覧下さい。


Q: ハイパースペクトルセンサによって、サンゴや海藻の分布を把握できる水深は何mですか。

A: センサのS/N(シグナル対ノイズ比)、観測条件(太陽高度、大気状態、海水の濁りなど)によって異なりますが、水深補正を正確に行えば10m程度まで分類が可能だと考えています。


Q: タンチョウとコウノトリの「交尾-産卵-子育て-巣立ち」と「移動時期」の関係はどうなっているのですか。

A: タンチョウ、コウノトリともに4月初旬にはアムール川流域の繁殖地に戻り、交尾、産卵、子育てを行います。雛は7月下旬までには巣立ちます。その後、コウノトリは8月下旬に渡りを開始し徐々に南に下っていきますが、タンチョウは10月末まで繁殖地に留まり、その後短期間で越冬地に渡ります。


Q: 他の研究対象として、[トラッキング]:クジラ、イルカ、マグロなどは考えられませんか。[センシング]熱帯雨林、エルニーニョ現象。

A: 衛星追跡の対象としては、鳥だけでなくクジラ、イルカ、オットセイなどの海洋動物や魚類も含まれます。実際これら生物の移動経路を追跡する試みが行われています。詳しくはsatellite tracking,bio-loggingなどのキーワードでインターネットを検索してみてください。


Q: 最後の方のスライドでリモートセンシングで得た結果と実地調査で得た結果を重ね合わせ、サンゴ、海藻等の分布が概ね一致しているとのことでしたが、生きたサンゴを示すと言われた黄色の部分が実地調査と比べて随分広いように思いましたが、これはセンシングの精度の問題と考えていいのでしょうか、それとも単に私の見誤りだったのでしょうか。

A: 衛星画像上で生きたサンゴを示す黄色の部分が、現地調査によって生きたサンゴと確認できた地点より多いのは確かです。これは、今回の現地調査が、画像全体を調べたものではなく、代表的な数地点について衛星による分類と実際の底質を比較した予備調査であったためです。正確に画像分類の精度を検証するには、画像上でランダムに検証点を多数設定し、ピクセル単位で分類の当否を確かめる必要があります。実際、石垣島の白保ではIKONOS衛星の高分解能画像による分類結果に対してこのような検証を行い、分類精度81%という結果が得られています。

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