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第2セッション・講演「ダイオキシンによる免疫低下のメカニズム−人への影響の解明をめざして−」

講演者(野原恵子)による回答

Q: 妊娠中の母体にダイオキシンを投与すると仔の悪玉抗体が増えたとのことですが、善玉抗体への影響はどうだったのでしょうか。また、人間の赤ん坊は母体から免疫をゆずり受けて生れてきます。生後数ヶ月はその免疫が効いていますが、その間も授乳等によるダイオキシン曝露があった場合は、発表であったように、仔の悪玉抗体が増えるのでしょうか。今後の研究課題の一つとしてご考慮頂けたら幸いです。

A: 妊娠中にダイオキシンを投与した母親から生まれてきた仔の場合、善玉抗体には顕著な変化は見られませんでした。今回のように母親にダイオキシンを投与した場合、一部はこどもが母親の体内にいるときに胎盤経由で仔に移行しますが、生まれてから母乳によって仔にいくダイオキシンのほうが多いことがわかっています。しかし、悪玉抗体の量に対しては、どちらの影響が大きいかはわかっていません。母親経由のダイオキシン曝露の悪玉抗体への影響については、まだ研究が始まったばかりで、今後検討しなければならないと思います。


Q: 資料P8図2のダイオキシン量(g/kg体重)のgはどれくらいの量ですか。また、ダイオキシンはどのように投与したのですか。

A: 1gは10-6gです。 ダイオキシン(2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p-dioxin)は、コーンオイルに溶かして、経口投与しています。


Q: ダイオキシンによる免疫低下のメカニズムのご講演は大変わかり易く、門外漢にも大体理解できました。この種の研究は外国での状況はどうなっているのでしょうか。この研究の世界におけるレベル、評価はどうなのか知りたいと思います。

A: ダイオキシンの健康影響については、欧米の研究が先行しており、1990年代後半までは日本からの研究報告の発信はごくわずかでした。国立環境研究所では、1996年にダイオキシン研究を行うための施設を作り、集中的に研究を開始しました。その結果、これまでに30報を超える論文を国際誌に発表しています。私達免疫グループは1999年から研究を開始し、毒性学分野で高いレベルの雑誌であるToxicological Scienceなどに論文が掲載されています。


Q: ダイオキシン+他の化学物質(複合汚染/微量)の相乗作用についてはどうでしょうか。

A: ダイオキシンと他の化学物質との相乗作用については、実際の生活の中では重要な問題と思いますが、これまでほとんど研究は行われておらず、今後の課題だと思います。


Q: 母親の妊娠中にダイオキシンを投与した場合、その子においてIgEの増加が見られる実験結果がありましたが、この結果は最近のアレルギー疾患の増加とリンクしていると考えてよろしいのでしょうか。また同様の研究成果が他でも発表されておりますか。

A: 今回マウスの実験では、1g (1000 ng)/kg体重を母親マウスに投与したときに仔の悪玉抗体の上昇が観察されました。これは現在のヒトでの平均的な蓄積量(7-8ng/kg)の100倍以上の量になります。しかし、このときにマウスとヒトとの感受性の違いや、ダイオキシンの体内動態の違いなど考慮しなければなりませんが、明らかになっていない点も多々あります。ですから、影響がないということは現在のデータからでは言えませんが、100倍以上の差ということから考えると、ダイオキシンの影響の可能性は低いと思います。ただし、他の方の質問にもありましたように、ダイオキシンと他の化学物質などとの複合影響については、まだわかっていません。
 これまで、ダイオキシンを直接マウスに投与したときには、IgG(善玉抗体)もIgE(悪玉抗体)も減少することが報告されてきました。今回の結果はそれと全く反対の結果であることから、慎重に検討すべきと考えています。私達はこれまで2回の実験で再現性を見ましたが、現在さらにもう一度追試を行っています。


Q: 毒性のあるダイオキシン類は29種と話されましたが、それ以外の同族体は無毒と言い切ってもよいのでしょうか。

A: ダイオキシン類の毒性は、講演でもお話ししましたように、細胞内のアリールハイドロカーボン受容体 (AhR) というタンパク質と結合することによって誘導されます。毒性のあるダイオキシン類といわれる29種類は、AhRと結合する性質をもっていて、AhRを介したメカニズムで毒性を発現すると考えられるものです。AhRと結合することによる毒性は、少量でも影響が出ることが特徴です。しかしながら29種類以外の同族体でも、AhRを介さない毒性は示す可能性があります。


Q: 人の体内蓄積濃度と健康状態(全般)の関係を疫学的に研究することは取り組まれていますか。

A: 日本では、環境省が平成12,13年度に、大阪府能勢町と埼玉県3市で、焼却施設周辺と焼却施設から離れた対照地域の住民に対して、血液中のダイオキシン量の測定と、血液中のリンパ球構成や薬物代謝酵素の測定を行っています。その結果、焼却施設周辺と対照地域で、ダイオキシン量や薬物代謝酵素に有意な差はなく、リンパ球構成も正常の範囲であったことが報告されています。


Q: 動物実験によって動物に対する影響や毒性メカニズム(仕組み)を解明し、この結果を基に遺伝子から人に対する影響や毒性のレベルを見極めようとしたアプローチをされているとお見受けいたしました。この手法を他の物質、例えば自動車の排出ガスに含まれているPRTRの未規制物質が人に与える影響やレベルなどにも応用できますか。またポスターセッションにあったPM2.5などの研究にも適用は可能なのでしょうか。これまで動物実験の結果という言葉はあちこちであったのですが、リバーストキシコロジの考え方は本日初めて伺いましたので。

A: 遺伝子の網羅的解析技術であるゲノミクスを利用したリバーストキシコロジーについては、現在世界中で研究がおこりつつある、という段階だと思います。一般的には、ある種の動物において、遺伝子情報から毒性を明らかにしようという方法をとると思います。私は汚染物質の健康影響について、動物実験から得られた結果を利用してヒトへの影響を実験的に明らかにしたいと考えており、これを実現させる方法として、実験動物とヒトでのトキシコゲノミクス・リバーストキシコロジーを組み合わせることを思いつきました。今後トキシコゲノミクスの研究データを蓄積していくことによって、ご質問の排ガス中の未規制物質や、その他のさまざまな汚染物質の影響を明らかにしていくための強力な手段となるのではないかと考えています。

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