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第3セッション・講演「微生物で環境をきれいにする−バイオレメディエーションとは?−」

講演者(牧 秀明)による回答

Q: 海岸にEM菌(有用性微生物)を散布し、臭いの除去をするということがありますが、今回の講演からすると国立環境研究所では、このようなバイオオーグメンテーションの実験は行わないとのことですが、国内において実験を実施されている例があることから、このバイオオーグメンテーションについても進めて頂きたいと思います。土壌微生物への影響が心配されます。

A: バイオオーグメンテーションに関して、沿岸漂着油が対象の場合、そもそも現場に石油分解菌は相当数生息しているため、外部からの分解菌供給の効果を出すのは、やはり極めて困難であると考えます。トリクロロエチレン等の特定化合物を対象とした時には、優良な分解菌を外部から供給した時のある程度の効果が期待できると考えられ、その効果保持のための環境要因と制御方法について検討を行っていきたいと考えております。また土壌微生物への影響については、従属栄養細菌数に関しては影響が見られなかったという結果を得ておりますが、今後、土着細菌の多様性・組成についての影響という観点で、検討していきたいと考えております。


Q: トリクロロエチレンの分解生成物については研究されているのでしょうか。例えばジクロロエチレンの研究等あれば教えて下さい。

A: 本研究所では、これまでトリクロロエチレンの分解に関しては好気的分解のみを扱ってきており、従ってここでは嫌気分解で見られるようなジクロロエチレン等の代謝産物は生成されません。しかし、極めて高濃度(100mg/L以上)のトリクロロエチレンを好気分解させた時に、少量のハロ酢酸が生成されることが確認されておりますが、実際にはこれほどの高濃度の汚染に対してのバイオレメディエーションの適用は考え難いと思われます。


Q: 今回、微生物を使い海洋汚染物質の除去に利用していましたが、もしその微生物をシリカゲルや多孔性ガラス等に不動態化してそれを工業用あるいは狭い範囲内での汚染物質の除去に利用できますか。

A: 固定化菌体の場合、細胞(菌体)と菌の保持する酵素の安定性、および菌体の更新(増殖)ができないという問題があり、残念ながら油を分解する酸化酵素に関しては、その不安定性と油という水に不溶性の物質の分解にかなりの時間を要することから、不適当であると思われます。


Q: 土壌汚染・地下水汚染のバイオレメディエーションは本当に安いのでしょうか。長期間汚染が拡大していないことを最低限証明しなければならない。その上で浄化が進んでいることも示さなければならず、モニタリング体制と地下の汚染拡大にどのように対応するのでしょうか。容易なことではないでしょう。MNA*は単に対応していないというexcuseでないといいきれるのでしょうか。

A: 高濃度の汚染源・プルーム箇所が同定されている場合、物理的除去で早急に除去した方が費用的にも合理的であると考えます。しかし、数十mg/Lという濃度の汚染で、汚染源が明瞭でないような場合、バイオレメディエーションが有利である場合があると思われます。MNA*は、濃度が下がっている傾向が認められ、どのくらいの期間でどのくらいの濃度にまで減少するかが予想される場合には実施する価値があると考えられますが、そうでない場合には、物理的除去、あるいはバイオスティミュレーション等のより積極的な浄化法を施す必要があると考えます。

MNA: Monitored Natural Attenuationの略、監視下にある自然浄化をさす。


Q: 微生物による油分解を促進させるために添加された肥料(N、P‥)が、沿岸の富栄養化をひき起こすことは、可能性としてあるのでしょうか。これと関連して、バイオレメディエーションの環境評価として、バクテリアのDGGEの結果は示されていましたが、緑藻や褐藻の組織成の変化についての研究の蓄積はありますか。

A: 栄養塩の濃度を高めるのは、漂着油の存在する汀線付近のみを対象としており、富栄養化が顕在化・問題となる沖合まで、植物プランクトンの異常増殖を引き起こすような栄養塩の濃度を高めるほどの肥料が散布されることは、実際的には考え難いです。また、緑藻や褐藻の組成変化については知見の集積はございません。


Q: 海域での原油分解試験で、微生物と共にN、Pといった栄養塩を付与するということでしたが、その栄養塩類濃度はどの位なのでしょうか。付与N、P濃度が高すぎると、逆に海域の富栄養化といった別の汚染問題をひき起こす可能性が考えられるので質問した次第です。

A: 汚染油近傍(直近)の窒素濃度が1mg-N/L、リン濃度が0.1mg-P/Lという状態が2週間持続できれば、油分解促進の効果が発揮されると考えます。栄養塩の濃度を高めるのは、漂着油の存在する汀線付近のみを対象としており、富栄養化が顕在化・問題となる沖合まで、植物プランクトンの異常増殖を引き起こすような高い濃度の栄養塩を供給することは、実際には考え難いと思われます。また、栄養塩の濃度を高めるのは、漂着油の存在する汀線付近のみを対象としており、富栄養化が顕在化・問題となる沖合まで、植物プランクトンの異常増殖を引き起こすような栄養塩の濃度を高めるほどの肥料が散布されることは、実際的には考え難いです。また仮に栄養塩濃度が高まり、植物プランクトンの異常増殖が発生したとしても一時的なものであり、その状態が維持されることはないと考えます。


Q: 知的財産化について商売をする気はないので気にしていないと言われたが、税金を社会に還元する際に公平に還元するためには、国立環境研究所で積極的に知財化しておくべきではないでしょうか。油分と菌の相性など知財化の税は多いのではないでしょうか。

A: ご指摘有難うございます。当方で実施しております研究開発の目的として、まず試験手法を開発・評価し、それを当該現場の方で、各々試して頂くということを考えており、やはり特許で縛ってしまうというのには馴染まないものと思われます。ただ、個別的な試験装置や手法については特許性を帯びたものもあると考えており、例えばトリクロロエチレン分解等に関しては分解菌及びその分解手法に関連した特許を取得しています。また仮に特許を取得しても、研究成果と共にそれを公開していくことで、個人の所有から保護できると考えております。


Q: 特許は、営利を追求しない所にどんどん取ってもらわないと、いずれアメリカあたりに高い金を払うことになる。税金だけでなく、他の所から収入があれば国民も助かるのですか。

A: ご指摘有難うございます。当方で実施しております研究開発の目的として、まず試験手法を開発・評価し、それを当該現場の方で、各々試して頂くということを考えており、やはり特許で縛ってしまうというのには馴染まないものと思われます。ただ、個別的な試験装置や手法については特許性を帯びたものも有ると考えており、例えばトリクロロエチレン分解等に関しては分解菌及びその分解手法に関連した特許を取得しています。また仮に特許を取得しても、研究成果と共にそれを公開していくことで、個人の所有から保護できると考えております。特許料を研究資金の原資に充てればとのご意見ですが、独立行政法人の性格上、個別の研究開発により利益を得る方向にはなっていない上に、仮に本研究開発によって特許を取得できたとしても、さほどの特許料が得られるとは考え難く、本研究所で研究開発を行うにしても、もっと他の収益性の見込めるものの方が相応しいと思われます。


Q: (1)微生物を利用した技術における微生物に関する倫理について、どうお考えになられますか。(2)バイオレメディエーションの発展途上国における展開についてどう思われますか。

A: (1)活用後に殺生する訳でもなく、常に増殖している細菌について、動物に対するような生命の尊厳の尊重という概念は当てはまり難いと思われます。一種の産業生物として利用しているというのが実状で、それが野外で使われるために、やはり他の野生生物や生態系に対する影響という観点で留意すべきであると考えます。(2)バイオレメディエーションそれ自体は、難解なものでもなく、高度な装置系や技術が必要でなく、発展途上国でも充分に実施可能であると考えます。ただし、その評価のための汚染物質や生物学的なモニタリング技術については、充分な習熟が必要であると考えます。


Q: 泥池の水浄化に植物利用を行っていますが、この植物利用上の安全性学Bioremediationの後始末についてどうすれば良いでしょうか。

A: ボタンウキクサ、ホテイアオイ等の極めて繁殖と成長のよい外来性の浮遊性植物を用いた場合、その外部への漏洩防止等の管理・制御が重要だと思います。


Q: 実際に沿岸全域が原油で汚染された場合に、肥料添加の方法と量はどのようになっているのでしょうか。

A: 1989年にアラスカで起こったエクソン・ヴァルディズ号タンカー流出油事件後の場合、窒素換算にして全部で50トン近くの肥料が広大な現場に現場に散布されました。特殊な液肥(農薬のように、海水で分散ささせたものを噴霧器で散布)と顆粒状合成肥料(野球の投手が使うロージンバックのような袋に入れたもの)を現場に適用しました。その量と期間については、肥料製造会社の取扱説明書に記載されています。これまでの現場試験を通じての一応の目安としては、汚染油近傍(直近)の窒素濃度が1mg-N/L、リン濃度が0.1mg-P/Lという状態が2週間持続できれば、油分解促進の効果が発揮されると考えます。


Q: バイオレメディエーションの応用について。産棄物の分解→生ゴミの危険ガスとH2Oに分解。分解速度の早い菌の開発。産水処理(下水処理するため)等への応用を考えていただきたい。

A: セルロース等の生体高分子を分解する微生物を、生ごみ処理に適用することは考えられるかも知れません。分解速度の速い菌の開発というのは、今のところ自然界からの優良菌の単離・培養というのにとどまっており、遺伝子工学による育種等、これまで色々と試みられてきましたが、実際の現場に適用して有効性が認められた事例は非常に少ないようです。排水処理に関しても同様で、微生物を操作するより、よりよいプロセス(嫌気処理・好気処理、その組合せ)の最適化を行うことの方が、現時点ではより有効と言えます。


Q: Oil Spill Bioremediationに関しての評価であるが、好気菌の場合O2濃度、油の揮発、酸化の効果が示されていなかったがなぜか。栄養塩の添加方法、油分解菌をサポートする菌種、種類は何か。

A: 今回お話しした現場試験では、酸素消費の測定は行っておりません。実験室内で模擬干満装置を用いた分解試験では、酸素消費の測定も実施しております。石油の揮発に関しては、実験に供試した原油は、予め風化により揮発性成分は留去されたものを用いておりますので、揮発の寄与はさほどないと考えております。栄養塩の添加方法は、農業用徐放性肥料顆粒を網袋に入れ、それを石油と海砂とを混合した試料に接触させました。分解菌については、全部を把握している訳でないですが、Rhodococcusという放線菌の一種を確認しております。


Q: 海洋の貧酸素化の改善にバイオレメディエーションの手法を適用することは可能でしょうか。

A: 生物を用いた原位置での修復ということでは一種のバイオレメディエーションと言えますが、とにかく貧酸素水塊の場合は、元凶である汚濁負荷を減らすことと、干出できるような干潟・浅海域という場の修復の方が、根本解決策であると思います。


Q: P9の下図の2つのピークは何ですか(未分解か、分解生物か)。

A: GC-MS分析の際に用いた内部標準物質(ヘキサメチルベンゼンとアゾベンゼン)です。


Q: 石油汚染の処理をバイオレメディエーションで行った場合、50%は剥離・流出するということであるが、流出したものは、再びオイルボール等になって二次汚染するのではないでしょうか。

A: 実際に確認はしておりませんが、剥離・流出した油も微生物分解を受け変質(炭化水素組成・物性等)しており、廃油ボールにはなり難いと考えております。


Q: 農繁期になると水田から濁水が河川や湖を汚染しているという問題があります。微生物を作用させて濁水の原因となっている微粒子を吸着し、回収することは可能でしょうか。濁水には土壌に含まれていた肥料が流れだしているともいわれています(この場合バイオオーグメンテーションになるかもしれないので、効果をはかることは難しいと思いますが)。

A: 濁水の濁りは大部分が土壌粒子であり、微生物では除去はできないと考えます。


Q: 微生物分解後の物質は安全なのでしょうか。

A: 高濃度(100mg/L以上)のトリクロロエチレンを好気分解させた時に、少量のハロ酢酸が生成されることが確認されておりますが、実際にはこれほどの高濃度の汚染に対してのバイオレメディエーションの適用は考え難いと思われます。原油の分解産物については完全には把握しておりませんが、一時的に多少毒性のより高いものが少量生成するとの報告もありますが、全体的にみて、生分解可能な低分子化合物(これらにも毒性がある)を有する原油よりも、それらが分解された原油の方が低毒性と言えると考えております。


Q: 菌の培養方法はどのように行っているのでしょうか(油資化菌のみの検出は難しいように思うのですが)。

A: 炭素源の入っていない人工海水寒天培地上に播菌し、原油を浸潤させたガラスフィルターをシャーレの蓋に静置し、石油の揮発性成分で菌を増殖させました。


Q: バイオオーグメンテーションとスティミュレーションの有効性については、本日はスティミュレーションの方が効果的だとのお話しでしたが、文献によっては、オーグメンテーションの方が効果的との知見もあります。本当のところはどうなのでしょうか。条件により違うと思いますが、どのような場合に知見が違うのでしょうか。

A: バイオオーグメンテーションに関して、沿岸漂着油が対象の場合、そもそも現場に石油分解菌は相当数生息しているため、外部からの分解菌供給の効果を出すのは、やはり極めて困難であると考えます。トリクロロエチレン等の特定化合物を対象とした時には、優良な分解菌を外部から供給した時にある程度の効果が期待できると考えられ、その効果保持のための環境要因と制御方法について検討を行っていきたいと考えております。また外部から供給する分解菌による現場微生物への影響についても併せて検討する必要があると考えています。


Q: 海洋油汚染の除去という点で実用化というレベルに到達しているのでしょうか。あるいは実用化の見通しについてはどうでしょうか。

A: 対象とする漂着油の性質や、漂着現場の地勢がバイオレメディエーションに相応しい場合、実用可能な段階にきていると言えると思います。現に海外では数例実際の漂着油現場に適応されております。我が国では、まず現場周辺の住民や漁協の方々の理解が得られた場合には、実行可能な段階にあると考えております。


Q: 今後、バイオオーグメンテーションとバイオスティミュレーションどちらが伸びてくる可能性が高いでしょうか。また、重金属と塩素系有機溶媒が共存している汚染現場では、バイオレメディエーションだけでは難しいのでしょうか。

A: バイオスティミュレーションの方だと思われます。重金属と塩素系有機溶媒の混合汚染現場については、後者のバイオレメディエーションは可能だと思われますが、前者は困難であると思われます。

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