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第2セッション「現代文明最大のジレンマ−環境と経済の両立−」

講演者(増井利彦)による回答

Q.
 経済効果(GDP)の根拠を明確にして欲しいと思います。どのようなモデルを想定されているのかが判りませんでした。

A.
 モデルの構造につきましては、短時間で説明することは不可能ですので、割愛しました。モデルにつきましては、ホームページで関連する論文を掲載する予定です。


Q.
 環境と経済は産業界の個々の企業にとっても、大きなテーマです。環境会計などバランスシートまで試作する優良企業も出てきております(そうしないと株式の投資家が離れる)。講演にでてきたモデルに関しては、マクロの観点での取り組みとして大変興味をもちました。是非、ミクロの取り組みと情報交換をして頂ければと思います。

A.
 ご指摘ありがとうございます。


Q.
 環境と経済の両立に関して、GDPが増えると環境負荷はやがて減少傾向になるということでしたが、このときの環境負荷をSOxのみで測ることは適当なのでしょうか? CO2やその他のもの含めた場合、明らかにGDPの高い国の方が負荷が高いように思います。また、環境負荷をどう測るかということも難しいところではないでしょうか? さらに全ての途上国がピークを超えるだけのキャパシティが地球にはあるのでしょうか?

A.
 環境負荷としてSOxのみをとらえることは必ずしも実態を正確に把握しているとはいえませんが、データの利用可能性といったことから発表の通りSOxに限定しています。こうした問題点を解決するために、現在、水質などより包括的な環境負荷を考慮に入れたモデルの開発にも取り組んでいます。地球のキャパシティについては、どのような生活水準を望むか、また将来の技術発展により大きく変わりますので、世界的な議論が必要であると思います。


Q.
 シナリオとして、例えば、1.電柱の地下化、2.都市中心部への乗用車の乗り入れ禁止、3.炭素税の導入、等々を採りあげて、経済効果 / 環境負荷を解析することはできませんか?

A.
 炭素税の導入につきましては既にその効果の計算をしています。他のシナリオについては、入力条件が不明なため、上記のようなご提案のままでは計算することはできませんが、詳細な入力条件がわかれば計算は可能です。


Q.
 1. 日本のSOx排出量の推移に関して、対策がなされなかったとした場合の推計とその内訳の推計方法を教えてください。
 2. SOx対策が4年遅れ、8年遅れ、実績のそれぞれの場合のGDP収支の推計に関して。対策がある(ない)場合のGDP影響をNetで推計しているようですが、どのような推計式を使っているのでしょうか? また、なぜマイナスと推計されるのでしょうか?
 3. グリーン購入のGDP影響の推計には、a.市場拡大 b.投資効果 c.投資削減効果 d.他の財から環境負荷の低い財へ移行する際の所得削減効果、など様々なものが考えられますが、どのような推計方法を用いたのでしょうか?
 
 A.
 SOxの排出につきましては、それぞれの対策を表現するようにパラメータ(外生変数)を変化させてシミュレーションを行い(例えば燃料中の硫黄分など)、各対策時の結果の変化分を示しています。
 SOx対策によるGDP影響につきましては、対策年を変化させてシミュレーションを行い、GDPと大気汚染による被害額を計算し、それらの値の変化を比較しています。被害額が大きくなることをマイナスとしていますので、マイナスの値が出ています。
 グリーン購入の影響は、家計が消費する財がより環境低負荷型になることを想定しており、需要の増加に伴って生産規模の拡大も同時に想定しています。つまり、指摘されている効果を同時に考えています。
 モデルにつきましては、ホームページ等を通じて公開する予定です。


Q.
 環境を考える場合、地球規模で考える必要があります。循環型社会が成り立つためには、アメリカの京都議定書からの離脱のようなことを許さない環境を作る必要があると思います。汚染処理技術などの複合技術が経済的に成り立つ、つまりそのような技術を使って汚染度をクリアしたものしか商品として使えない環境をつくる政策が必要だと思います。この点についてはどのように考えますか?

A.
 ご指摘の通り、環境負荷の低い製品や技術が広く普及する社会が必要だと思います。今回示した分析は、国レベルでの対策を取り扱ったものですので、地球規模の視点を明確に組み入れることには限界があります。こうした地球規模の視点に立って問題解決を図るために、世界全体を対象としたモデルの開発も行っています。


Q.
 企業の自主的な「対策」と、国の「政策」により行われた各企業の「対策」を区別しなくていいのですか? 最新の機器を導入するコストに見合う利益(企業イメージ?採算)を中国の企業が得ることができるのか、説得力が弱い感じがしました。環境と経済の両立は企業に任せるだけでは可能ではなく、政府が先導して対策を行わなければ実現しないということですか?

A.
 政府主導ではなく、市場あるいは企業が自主的に取り組むことが重要であると考えています。環境負荷を減らすといったことを実行するのは企業ですので、国の政策と企業の対策は区別しており、各企業の取組がより効果的に推進されるような国の政策は何かということが重要であると考えています。
 中国での利益については、単独で行うには技術面、資金面で問題がありますので、日本による中国への技術移転を想定しています。


Q.
 環境対策についていくつか挙げていた中に、「環境技術の開発」というようなものがあったと思いますが、「環境技術」の定義があれば教えてください。「より効果的な技術」についても、もう少し具体的なものがあれば教えてください。

A.
 環境技術に関する定義は非常に曖昧です。環境技術ではありませんが、環境産業という概念も、国によってまちまちで、各国の実情に応じて定義されています。そのため、ここでは、環境保全に資する技術と非常に広い概念としてとらえています。より効果的とは、費用対効果がいい、より効率的な処理や環境負荷の削減が可能といった意味でとらえています。


Q.
 「環境保全と経済成長」は両立するのか、と置き換えると、より明確になるのではないでしょうか。米国では両立せず京都議定書から離脱、スウェーデンでは両立させていると聞きます。途上国では両立せず、経済成長を優先せざるを得ません。日本はどの立場をとるのか、不明確です。そこへの切り込みが必要なのではないでしょうか?

A.
 ご指摘の通り、どういった立場を取るのかということを議論することは重要です。我々は両立するという立場に立っています。また、我々と共同で研究を行っている途上国の研究者も、途上国においてどうすれば環境保全と経済発展が両立できるのかを真剣に考え、その実現に向けて取組を行っています。


Q.
 当社でも、中国との技術協力などを進めています。講演の中ででてきたAIMモデル、モデルを使ったGDPとSOx・CO2等とのシミュレーション条件・結果を教えてください。

A.
 紹介した中国の分析は、非常にマクロなモデルですので、取り扱いが困難かと思います。現在、我々のチームでは中国をはじめとする発展途上国の研究者と共同で、より個別の排出源や排出技術といった点を対象としたモデルの開発を行っております。そのモデルにつきましては、すでにホームページで公表しております(http://www-iam.nies.go.jp/aim/index.htm)が、COP8に向けてモデルマニュアルを出版する準備を進めております。


Q.
 経済モデルの計算根拠を教えてください。

A.
 モデルにつきましては、ホームページで論文等の公表を予定致しておりますので、そちらを参考にしてください。


Q.
 GDPと環境影響間の計算方法はどのようにして行っているのでしょうか?

A.
 モデルによって異なりますが、例えばWTP(Willingness To Pay;支払い意志額)のように経済活動と環境のトレードオフ(ある環境を守るためにいくら支払うかといった関係)を取り入れているわけではありません。経済活動に伴ってどれくらいの負荷が発生するのか(化石燃料の消費量がいくらで、その結果、硫黄酸化物や二酸化炭素がどれくらい発生するか)を計算できるような構造になっています。ただし、硫黄酸化物の例につきましては、硫黄酸化物の排出が、大気汚染を引き起こし、その結果、健康被害がいくら生じるかという関係を導入しています(その関係につきましては、『日本の大気汚染経験』ジャパンタイムス発行をご覧下さい)。日本の環境対策の分析では、環境負荷(CO2排出量や廃棄物最終処分量)の上限を設定したり、様々な対策を取り入れたときの経済活動(例えばGDP)の変化を分析しています。


Q.
 「グリーンGDP」による「環境と経済の両立性」について、文献または資料の入手方法を教えてください。

A.
 グリーンGDPにつきましては、経済企画庁経済研究所(現・内閣府経済社会総合研究所)において、概念と実際に日本に適用した場合の結果が示されています(http://www5.cao.go.jp/98/g/19980714g-eco1.html)このほか、国連で提唱されている環境経済統合勘定につきましても、国連及びや経済企画庁経済研究所(現・内閣府経済社会総合研究所)で示されています。(http://www4.statcan.ca/citygrp/london/publicrev/intro.htm及びhttp://www5.cao.go.jp/2000/g/0620g-kankyou/0620g-kankyou.html)。
 環境と経済の両立につきましても、近年、そうしたタイトルの書籍が多く見受けられるようになっています。


Q.
 京都議定書など、実施しない場合の経済の長期マイナス増の減殺をカウントすべきではないでしょうか?

A.
 ご指摘の通りではありますが、長期的なマイナスの影響につきましては不確実性が極めて大きな問題です。このため、経済的な指標のもとでマイナスを評価することは非常に困難が伴いますので、物理的な指標(例えば気温上昇や海面上昇等)を用いて京都議定書の効果などを定量的に評価しています。また、中国における農業影響対策など特定の分野に絞った分析は行っています。


Q.
 経済の発展と環境汚染は絶対に矛盾するものと思います。経済の発展にいかに環境へのリスクを減らすかを考えれば矛盾しない、などの発想は間違っていると思いますが、いかがでしょうか?

A.
 何らかの経済活動を行えば、環境負荷が出てくるのは当然で、そういう意味では経済発展と環境負荷の削減は矛盾するものと言えるでしょう。しかしながら、そうした負荷を少しでも抑えるような技術や製品が従来の高負荷型の製品に取って代われば、社会全体の負荷を抑えることは可能です。このとき、単に環境負荷を低減させる活動をコストとしてみるのではなく、ビジネスチャンスとしてとらえたり、ある主体にとってはコストではあるけれども社会全体としてみたときに便益がコストを上回るような状況で、コストを負担している主体をどう支援するのかが、環境と経済発展の両立に向けての議論であると考えています。


Q.
 日本の経験(公害対策)を中国で活用した場合のシミュレーションについては、政策の選択や効用について、どのようにモデル上の処理を行ったのでしょうか? 中国では、これまで環境規制はあっても機能(遵守)しなかったという事情もあり、そのような点を、どのようにモデル上の取り扱いで、配慮されたのでしょうか?

A.
 ご指摘の点は、これまでよく話題に上ってきたことです。今回の計算では、与えられた条件は遵守するという前提に立っておりますので、現実とのギャップを認識する必要はあるでしょう。


Q.
 化学プラントとしてはインプラント対策が重要であると考えますが、いかがですか? 初期投資のマイナスを助成されると持続可能です。

A.
 ご指摘の通りです。こうした対策をいかに支援するかが、環境と経済の両立に向けて重要であると考えています。


Q.
 マクロ経済的収支算出のデータベースを教えてください。

A.
 データは、内閣府経済社会総合研究所が公表している国民経済計算(http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/menu.html)や総務省の産業連関表(http://www.stat.go.jp/data/io/index.htm)を用いています。環境関連のデータは、環境省が毎年公表している各種データを用いています。環境省が『環境統計集』を編集していますので、参考になるかと思います。中国の環境データにつきましても中国の国家統計局が公表しているデータ(http://www.stats.gov.cn/index.htm)やIEA(国際エネルギー機関)が公表しているエネルギー需要のデータをもとに推計しています。


Q.
 環境対策をしなければ物(サービスを含めて)は安くなります(消費者は一時的によく思う)。しかし、その影響(公害)が発生していくにつれてその代価を払わされるようになります。すなわち、結局高くつく、消費者負担は増える → 消費は停滞、経済効果はよくならない、という訳です。長い目で(長期的に)みれば、初期段階で環境対策を講じた方が経済発展につながります。両立する、しないの議論は意味があるのでしょうか? 人の健康・命を商品化しない発想を育てるべきであると考えますが、いかがでしょうか?

A.
 両立する、しないという議論は発表でも述べたように、重要ではなく、いかに両立させるような対策を行うのかということが重要であると考えています。この議論においては、単に環境負荷を減らすといったことのほか、ご指摘のように人の生命をいかに尊重するかということも含めた議論に拡張できると思います。


Q.
 用いたモデルは日本のものと思われますが、ヨーロッパなど他国の環境政策を使うと別のモデルができるのでしょうか? また、その場合、よりGDPロスを減少できるモデルが存在する可能性はあるのでしょうか?

A.
 モデルとは、ツール(道具)ですので、ヨーロッパの環境政策を導入することで別のモデルにはなりません。別のシナリオとして、ヨーロッパの環境政策を導入するという言い方になります。ご質問の通り、さらにGDPロスを減少できるシナリオ(モデルではなく)は存在すると思います。


Q.
 経済効果(環境会計を含む)の具体例を教えてください。

A.
 ここでは、経済効果として取り上げているのは、GDPがどれだけ大きくなったのかという点のみです。もちろん、ある産業にとってはマイナスでも、別の産業のプラスがそのマイナス分を相殺することもありますが、そこまで詳細な議論はまだしておりません。そうした部門への影響につきましては、これまでの論文の中で議論したこともありますので、参考にしてください(近いうちにホームページに掲載します)。また、環境会計につきましては、ここでは取り扱っていません。個別の先進的な取組をされている企業に聞かれる方が、対策と効果がより直接的に関係していると思いますので、理解しやすいと思います。


Q.
 中国のSOx削減シミュレーションに関してですが、削減経路の導出についてはダイナミックモデルに基づくものですか? とするならば、経路依存性について考慮されているのでしょうか?

A.
 中国のシミュレーションは動学的最適化モデルとよばれるモデルです。当然のことながら、技術進歩率等の前提条件により結果は異なりますが、ここではそうした外生的なパラメータについては、既存のモデル分析の想定値をそのまま用いています。いくつかの主要なパラメータに対して感度解析を行っていますが、結果は同じような傾向を示しています。


Q.
 日本の将来シミュレーションに関しては、制約条件付き最大化(最適化)モデルですか?とするならば、経済と環境の両立モデルでは目的関数をどのように採用しているのでしょうか?

A.
 ここでは、相補性問題と呼ばれる問題としてモデルを解いています。モデルの中で特に環境と経済の間のトレードオフ関係を定式化していません。例えば石炭を燃やすとそれに伴って一定の比率で二酸化炭素や燃えがら等の廃棄物が出るといったことのみを表しています。


Q.
 国民一人あたりのGDPとSOx排出のシミュレーションにおいて、前倒し対策をした場合にピークは低くなりますが、低減の最後の方で省エネ対策の時よりも上側(SOxの多い側)になるのはなぜですか?

A.
 「対策の前倒し」における技術的な想定は、「省エネ対策」のような進んだ技術の導入を想定していません。その結果、逆転現象が起こっています。


Q.
 環境制約により発生するGDP変化は、必ずマイナスのケースだけなのですか? 今回の試算の前提の概略をもう少し知りたいのですが。

A.
 モデルで想定している主体(生産者や消費者)は、合理的に行動すると仮定していますので、制約がない場合のGDPは制約がある場合のGDPと比較して必ず大きくなります(環境負荷が制約以下でGDPが大きくなるという結果がわかっていれば、制約の有無にかかわらず、そちらの方を選択するはずです)。実際の社会では、モデルの社会と異なりますので、GDPが逆転する可能性もありますが、モデルという特殊な状況では、環境制約によりGDPは減少します。


Q.
 京都議定書の条約履行の問題、アメリカ等の不参加の問題、また京都の条件で本当に良いのか、ということについて、もう少し教えてください。

A.
 米国の離脱につきましては、発表時間の都合上触れませんでした。京都議定書では第一約束期間と呼ばれる2008年〜2012年までだけをとりあげ、それ以降のことについては触れられていません。もし、京都議定書の水準を2100年まで維持するとしても発展途上国の排出量が非常に増加するために、2100年の気温上昇は2℃を超えてしまいます。米国の離脱問題(京都議定書ではなく独自の提案を採用した場合)も気温上昇に影響を及ぼします。また、第一約束期間以降2100年まで、AnnexB国の排出量を90%削減するという非常に厳しい制約を課した場合も2100年の気温上昇は2℃以上となります。今後は、先進国だけではなく発展途上国が参加できるような枠組み作りが必要であると考えています。

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