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第2セッション・第1講演「ディーゼル排ガスの危険性と汚染の現状を知る」


講演者(新田裕史)による回答
>>講演者発表資料

Q: 基本的に「疑わしいものには、手を打つこと」が環境研究の基本姿勢と考えてよいでしょうか?

A: 環境基本計画(平成12年閣議決定)では環境政策の指針となる四つの考え方のひとつとして「予防的な方策」を挙げ、「環境問題の中には、科学的知見が十分に蓄積されていないことなどから、発生の仕組みの解明や影響の予測が必ずしも十分に行われていないが、長期間にわたる極めて深刻な影響あるいは不可逆的な影響をもたらすおそれが指摘されている問題があります。このような問題については、完全な科学的証拠が欠如していることを対策を延期する理由とはせず、科学的知見の充実に努めながら、必要に応じ、予防的な方策を講じます。」とあります。いわゆる予防原則が環境政策の基本であることはまったくその通りだと思います。しかしながら、環境研究の第一の役割は科学的知見の充実に努めることにあると考えています。


Q: ディーゼル排ガスの危険性は何時わかり、そしてなぜ放置されてきたのでしょうか?

A: 1950年代以降、健康影響に関する報告がなされるようになりましたが、国際的にディーゼル排ガスの健康リスクに関する評価が実施されるようになったのは、1980年代の後半からのことです。国際がん研究機構(IARC)では1989年にディーゼル排ガスの発がん性の評価(http://www.inchem.org/documents/iarc/iarc/iarc611.htm)を行い、「2A」すなわち、「おそらく発がん性を有する」としています。その後WHOでもリスク評価(http://www.inchem.org/documents/ehc/ehc/ehc171.htm)が実施されましたが、我が国での取り組みが国際的にみて遅れていたということはないと考えています。もちろん、研究者としては十数年来、ディーゼル排ガスの健康影響については強い危惧を持っていましたので、もっと早く対策について検討できなかったかという反省はあります。取り組みが遅れたとすれば、その第一の原因は窒素酸化物対策を優先したためということが言えます。ただ、ディーゼル車のみを規制することで大気汚染の問題がすべて解決する訳ではないことを忘れないでおくことも必要です。


Q: ガソリンの排ガスの危険性についてのデータをもう少し示してください。

A: 国際がん研究機構(IARC)では1989年にディーゼル排ガスとともにガソリン排ガスの発がん性の評価(http://www.inchem.org/documents/iarc/iarc/iarc611.htm)も同時に行い、「2B」すなわち「発がん性を有する可能性がある」と評価していますが、その他の健康影響に関するものも含めて十分な知見はありません。ディーゼル車に比べてガソリン車からの粒子排出量は少ないと思われますが、これについても十分なデータはありませんので、今後研究所においてデータの整備に取り組みたいと思います。


Q: 人が粒子を吸い込んだ場合、粒子中に含まれる物質が溶けだして発ガンを引き起こすのですか? それともほかのメカニズムがあるのですか?

A: 残念ながら、人において、ディーゼル排ガスがどのようなメカニズムで発がん性を示すのかはほとんど解明されておりません。


Q: 排ガスは花粉症に影響しているとのことでしたが、アトピー性皮膚炎にも影響はあるのでしょうか?(都会から離れて山に入ったら症状がでなかったという記事を読んだことがあります。) 排ガスの影響は一時的なものなのでしょうか?

A: ディーゼル排気粒子がアレルギー反応を強めることが動物実験から報告されています。しかしながら、 花粉症をはじめとして、アレルギー性疾患とディーゼル排ガスとの関連性について疫学研究ではほとんど明らかになっていません。 したがって、ご質問のような現象が排ガスの影響によるものである可能性は否定しませんが、 現在の我々の知見では明確なお答えはできません。疫学研究の実施には多くの制約がありますが、 諸外国ではディーゼル排ガスを人に曝露させる実験が実施され、その結果の報告がされるようになってきていますので、 両者の関連性が解明されることが期待されます。


Q: 2000年代の有害性の研究発表は分子レベルのものになっていくのでしょうか?

A: 毒性学の研究は確かに分子レベルの研究に向かっていると思います。疫学研究においてもこのような研究を取り入れていくと思いますが、 リスク評価で取り上げられるようになるまでにはさらに研究の進展が必要だと思われます。


Q: 国内だけでなく他国からの大気汚染による日本人の健康リスクはどのくらいですか?

A: 全くと言って良いほどデータはありません。ご質問にお答えするためには、我々が吸っている空気中の汚染物質の由来と、 それぞれの汚染物質の有害性を明らかにする必要があります。両者のデータを得ることは容易ではありません。


Q: 排ガスが人に対して非常に有害だということは様々な報告から明らかになってきたと思います。すなわち、 今後さらに排ガスの特性を調べたり疫学調査をするよりも、ディーゼル車をなくす、あるいは処理を義務づけるというような対策を とっても良い段階に来ているのではないでしょうか?

A: ご指摘の通り、ディーゼル排ガスについては具体的な対策を早急に立てるべき段階にあると思います。 ただし、講演の最後に述べましたように、健康影響のメカニズムが完全には解明されていない状況ですから、 どのような対策が最も有効なのか、将来にわたって有効な対策技術は何か、などの疑問に明確に答えるためにはさらに研究を進める必要があると考えています。


Q: 出典にあった「日本における化学物質のリスクランキング」著者名と出版社名を教えてください。

A: http://unit.aist.go.jp/crm/1kouen_010711.htm、ないし
http://env.kan.ynu.ac.jp/ws2001/ をご覧下さい。


Q: SPMのうちディーゼル由来のものはどれくらいですか?

A: 現在、環境省ではディーゼル排気粒子の測定を全国数カ所で実施しており、 その結果がまとまりますとかなり正確にお答えができると思います。現状の推計では、 大都市圏で1次粒子分として30〜40%程度と考えられています。
(参考:環境庁「浮遊粒子状物質総合対策に係る調査・検討結果について(平成11年)」 http://www.env.go.jp/press/press.php3?serial=2129、 および「自動車排出ガス原単位及び総量に関する調査結果について(平成10年)」 http://www.env.go.jp/press/press.php3?serial=349


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