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海洋性?物プランクトン
"円石藻"を用いた地球環境研究

生物圏環境研究領域 系統・多様性研究室生物圏環境研究領域 系統・多様性研究室

円石藻とは? ハプト藻とは?

 円石藻は海洋性の?物プランクトンで、炭酸カルシウムからなる特徴的な円盤状のプレート(円石)によって細胞が覆われています。円石の形態的な相違に基づいて種の記載・分類が行われていて、これまでに約200種ほどが見つかっています。
 分類上、円石藻はハプト藻に所属します。ハプト藻は、鞭毛に似たハプトネマと呼ばれる構造をもつこと、細胞の外側が有機質鱗片や円石で覆われるといった特徴をもつ藻類です。細胞が壊れやすく、培養が困難なことから、ハプト藻に関する研究は十分に行われてきたとは言えません。ハプト藻は海洋を中心に豊富に生息していて、渦鞭毛藻や珪藻などとともに海洋生態系を代表的する重要な?物プランクトンです。


基礎生産者としての重要性

 ハプト藻は海洋環境を中心に豊富に生息し、バイオマスの高いことが知られています。南極海などの高緯度海域で大発生するPhaeocystis や白色のブルームを形成する円石藻の大量繁殖の様子は航空機や衛星写真で確認できるほどです。写真の中に見える青白いもやもやしたものが、円石藻 Emiliania huxleyi によって引き起こされたブルームです。    

写真はSeaWiFSプロジェクト( NASA/Goddard Space Flight Center とORBIMAGE)で撮影されたものです。
詳しくは、Emiliania huxleyi Home Page (http://www.soc.soton.ac.uk/SOES/STAFF/tt/eh/index.html) を参照ください。

炭素循環に関わる生物としての重要性

 円石藻は炭酸カルシウムでできた円石を生産します。膨大な量の円石が海底に沈降、化石として堆積しています。海洋の炭素循環に重要な役割を果たしてきた生物と言えるでしょう。写真はイギリス東南海岸で見られるチョーク質の白い崖(白亜の崖と呼ばれています)です。実はこのほとんど全てが円石でできています。古い時代(三畳紀後期)から現在に至るまで、円石は海洋全域で絶え間なく堆積し続けました。地球上で最も豊富に存在する化石の一つです。

イオウ循環に関わる生物としての重要性

 ハプト藻は硫黄化合物の一種DMSP(dimethylsulphoniopropionate)を生成します。DMSPは、DMS (dimethyl sulfide)に変化して大気中に放出され、光化学的反応の結果、SOxなどの硫黄化合物に変わります。こうした硫黄化合物は雲の核となり、雲形成を促進します。このようにして形成された雲は酸性雨の原因となるばかりか、太陽光の反射と温室効果を促進することになります。ハプト藻の大量繁殖による大気温度の上均一化、大気循環への影響が懸念されています。

海水温マーカーとしての利用

 海底堆積物中には、円石藻由来の非常に安定した脂質成分が存在します。アルケノンはその一つで、50万年位は安定して存在することがわかっています。炭素数37の長鎖上飽和アルケノンでは、2重結合が2個(C37:2)、3個(C37:3)、4個(C37:4)のものが存在します。
 興味深いことに、水温とアルケノンの上飽和度の間には密接な相関があり、細胞の生育水温が低くなると上飽和化の進んだアルケノン(C37:3やC37:4)の割合が高くなることがわかっています。つまり海底堆積物中の各アルケノンの濃度を調べることで、過去の海水表層の温度を推定することが可能です。
 3つのアルケノン(C37:2、C37:3、C37:4)の濃度に基づいて、アルケノン上飽和指数 (Uk37)(Prahl and Wakeham 1987) とUk37から水温への換算式 (Prahl et al. 1988) が提唱されています。
定 義
Uk37 = [C37:2] - [ C37:4] / [ C37:2]+ [ C37:3]+ [ C37:4],
Uk37 = 0 .034 T + 0.039

地層年代の指標としての利用

 円石藻の最初の化石は、約2億2千万年前の中生代三畳紀後期の地層から見つかっています。それ以後、ジュラ紀初期に主だったグループが出現、白亜紀に種の多様化が最も進み、現在に至ります。地層年代の指標となる微化石は珪藻、有孔虫など他にもいろいろありますが、円石藻の場合、海洋全域に分布するコスモポリタンであること、多量の化石が存在すること、微量の試料で研究が可能なこと、各地質年代に特有の種が存在することなどから、地質年代の指標生物として極めて有用です。円石藻の化石を用いることで、6万年から100万年の解像度で地質年代の推定が可能です。学術的目的のみならず、海底油田の探索と掘削の効率化などにも利用されています。

日本近海の円石藻

 大部分の円石藻は、黒潮海流の影響下にある海域や外洋域を中心に生息しています。また種類数はそれほど多くないのですが、沿岸域に生息する円石藻もいます。



日本近海で確認されている円石藻

56属121種、赤色の種は培養されたことのある種
Acanthoica acanthifera
Acanthoica aculeata
Acanthoica quattrospina
Algirosphaera oryza
Algirosphaera quadrcormu
Algirosphaera robusta
Alisphaera ordinata
Alisphaera unicornis
Alveosphaera bimurata
Anoplosolenia brasiliensis
Anthosphaera fragaria
Anthosphaera lafourcadii
Braarudsphaera bigelowi
Calciarcus alaskensis
Calcidiscus leptoporus
Calcidiscus leptoporus f. rigidus
Calciopappus caudatus
Calciosolenia murrayi
Calicasphaera dentata
Calicasphaera diconstrica
Caneosphaera molischii
Cayptrolithina divergens f. tuberosa
Cayptrolithina multipora
Cayptrolithina wettsteinii
Cayptrolithophora hasleana
Cayptrolithophora gracillima
Cayptrolithophora papillifera
Calyptrosphaera oblonga
Calyptrosphaera papillifera
Calyptrosphaera sphaeroidea
Ceratolithus cristatus
Ceratolithus cristatus var. telesmus
Chrysotila lamellosa
Coccolithus pelagicus
Coccolithus pelagicus f. hyalinus
Coronosphaera mediterranea
Corisphaera gracilis
Corisphaera quadrilaminata
Corisphaera tyrrheniensis
Cruciplacolithus neohelis
Cyrtosphaera aculeata
Dactylethra pirus
Discosphaera tubifera
Deustchlandia anthos
Emiliania huxleyi
Emiliania huxleyi var. coronata
Florisphaera profunda
Gephyrocapsa oceanica
Gephyrocapsa ericsonii
Gephyrocapsa ornata
Hayaster perplexus
Helladosphaera cornifera
Helicosphaera carteri
Helicosphaera carteri var. hyalina
Helicosphaera pavimentum
Homozygosphaera spinosa
Homozygosphaera triarcha
Homozygosphaera vercellii
Hymenomonas coronata
Isochrysis galbana
Jomonlithus littoralis
Michaersarcia adriaticus
Michaersarcia elegans
Neosphaera coccolithomorpha
Ochrosphaera neapolitata
Oolitothus fragilis
Oolitothus fragilis var. cavum
Ophiaster hydroideus
Ophiaster reductus
Papposphaera lepida
Papposphaera sagittifera
Periphyllophora mirabilis
Pleurochrysis carterae ?
Pleurochrysis haptonemofera
Pleurochrysis roscoffensis
Pontosphaera discopora
Pontosphaera japonica
Pontosphaera syracusana
Poricalyptra aurisinae
Poricalyptra magnaghii
Poritectolithus maximus
Poricrater galapagoensis
Reticulofenestra parvula
Reticulofenestra sessilis
Scyphosphaera apsteinii
Rhabdosphaera clavigera
Rhabdosphaera clavigera var. stylifera
Rhabdosphaera xiphos
Scyphosphaera apsteinii
Syracolithus bicorium
Syracolithus confusus
Syracolithus dalmaticus
Syracolithus ponticuliferus
Syracolithus quadriperforatus
Syracolithus schilleri
Syracosphaera anthos
Syracosphaera borealis
Syracosphaera corolla
Syracosphaera corrugis
Syracosphaera epigrosa
Syracosphaera exigua
Syracosphaera halldalii
Syracosphaera histrica
Syracosphaera lamina
Syracosphaera molischii
Syracosphaera nodosa
Syracosphaera nana
Syracosphaera orbiculus
Syracosphaera ossa
Syracosphaera pirus
Syracosphaera prolongata
Syracosphaera pulchra
Syracosphaera rotula
Thorosphaera flabellata
Turrilithus latttericioides
Umbellosphaera irregularis
Umbellosphaera tennuis
Umbilicosphaera hulburtiana
Umbilicosphaera sibogae
Umbilicosphaera sibogae var. foliosa
Zygosphaera hellenica

円石藻保存株の保存状況

 一定の温度、光条件下で培養されている円石藻保存株の培養状況を示したものです。培養容器の底に白く見えるのが円石藻です。

 外洋性の円石藻用の培地改良と培養条件の検討が今後の課題です。

2000年発行の微生物保存株リストの表紙。754株の保存株が掲載されています。
ハプト藻は8株で、その内4株が円石藻です。

株の寄託・分譲、その他の問い合わせ先
〒305-8506 つくば市小野川16-2
国立環境研究所 微生物系統保存施設
tel: 0298-50-2556, fax: 0298-50-2587
e-mail: mcc@nies.go.jp
web page:
http://www.nies.go.jp/labo/mcc/home.htm

外洋性円石藻 Oolithotus fragilis の人工培養条件下での微細形態変異

Oolithotus fragilis
●コッコスフェアのサイズ: 22.0 〜29.2 μm
●円石の表面のパターン:中央部 (central column) から放射状に規則的に広がる縫合線 (suture line) は直線的
●円石の構成:12-18のエレメント (element) からなる
●分布:水深150-200mの有光層下層
(Okada and McIntyre, 1977)

Subspecies: O. fragilis var. cavum
●コッコスフェアのサイズ: 4.0 〜8.0 μm
●円石の表面のパターン:縫合線は上規則に屈曲
●円石の構成:11-15のエレメントからなる
●分布:水深50-100mの有光層中層
(Okada and McIntyre, 1977)



O. fragilisとO. fragilis var. cavum の中間的な形態が、フィールドサンプルの観察でも記録されている







  • 同一培養株を異なる栄養条件下で培養することで、Oolithotus fragilis とO. fragilis var. cavum の両形態を確認できた。
  • 自然界で観察されたO. fragilis var. cavum の形態特徴は、環境条件の違いによって誘導されたと考えられる。
  • Oolithotus は全世界の海洋に生息する種で、300万年くらい前から海底堆積物に化石として残存している。すなわち過去に遡って円石の形状を確認できることから、遙か昔の自然環境推定が可能かもしれない。円石の形態変異に基づいて、様々 な側面から海洋環境をモニタリングすることが期待できる。
  • 今後、Oolithotus 培養株を用いて、円石の形態変異と様々な外的環境条件(温度、 光強度、炭酸濃度、各種栄養条件)の関係について、各パラメータごとに調査を行う予定である。

本ポスターを作成するにあたり、以下の方々に写真、情報を提供していただきました。ご協力ありがとうございました。

筑波大学 井上 勲先生
筑波大学 Dr. Noel, Mary-Helene
The Natural History Museum Dr. Geisen, Markus
海洋バイオテクノロジー研究所 熱海 美香
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