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2006年12月28日

湿地生態系の自然再生技術評価に関する研究(特別研究)
平成15〜17年度

国立環境研究所特別研究報告 SR-68-2006

1 研究の背景と目的

表紙
SR-68-2006 [8.6MB]

 「21世紀『環の国』づくり会議」で提唱され、「新・生物多様性国家戦略」に盛り込まれた自然再生事業では湿地の再生が重要な課題の一つとなっている。多くの湿地は近年の工業化・農地化によって埋め立てられ、特に都市域では河川河口域にのみ僅かに自然が残っている状況である。それらの湿地生態系の機能を再生させ、より良い環境を取り戻すには、人工湿地を含めた湿地の再生・創造が不可欠である。しかし、自然の節理を無視した再生・創造では持続可能な生態系を確保できない。そのため、より自然に近い湿地生態系の自然再生実験等によって自然の節理を学び、湿地生態系の再生及び管理・事業評価を実施する必要がある。

 本研究では自然再生事業に先立つ理念・シナリオの形成を行い、野外調査及び再生実験等から基礎的知見を得て、持続可能な湿地生態系の再生技術の検討を行うと同時に、再生評価手法を開発することを目的とし、湿地生態系への自然再生技術を定量的・客観的に、物質循環的機能の観点から評価する手法の検討を行った。

2 報告書の要旨

課題1.湿地生態系の機構把握に関する研究

 塩湿地植物群落における植生分布の非生物的要因としては、比高の変化に伴う土壌の酸素条件、湛水、栄養制限、塩分や硫化物の集積、土壌の排水性、気温、UVや乾燥ストレス、冠水時間などが取り上げられてきている。東京湾最大の塩湿地である小櫃川河口域中洲を対象に、植生分布とその決定要因の検討を行うことを目的とした。中洲中央部から上流側に広がるシオクグが下層植生であるアイアシとの混生群落最も多く、次にアイアシの純群落、シオクグ純群落、ヨシ純群落であった。環境要因による種分布を明らかにするために、種の在・不在デ-タから優占種3種の環境要因の平均値を図1に示した。平均値に対するテューキーの多重比較を行った結果、ヨシとアイアシの立地ではリター量と下流からの距離、有機物量に関して有意差が見られ(P<0.05)、アイアシとシオクグの立地には有意差がみられなかった。

図1
図1.各種が出現した環境要因の平均値。

 植生の在不在データを基に各種が出現した全地点の環境要因データを用いて平均値を算出した。縦細実線は標準偏差を示す。植生の在、不在データは、被度が10%未満の出現を除いてある。有意差検定は、テューキーの多重比較を用い、図中に示したa、b、cの記号で有意差(P<0.05)を表した。同一アルファベット間に有意差はみられない。

課題2.自然再生技術に関する研究

 霞ヶ浦湖岸で確認されたマコモ、クサヨシ、カサスゲを試験対象種として、水位変化による生育状況の違いを調べ、現地において植物の成長期に水位操作を行うと、長期間の水位上昇では、カサスゲ群落がミクリ群落、クサヨシ群落がヨシ群落に変遷する可能性が高くなり、また、長期間の水位低下では、クサヨシ群落は縮小し、代わりに陸域の植生に変遷すると推察された。

 霞ヶ浦植生帯復元地区の湖岸に隔離水界を設置し、外来魚の操作を行うことで移植あるいは操作した水生植物の成長に差を調べた。さらに、投入した霞ヶ浦航路浚渫土起源の土壌シードバンクから沈水植物の成長を調べた(図2)。ブルーギルの除去は沈水植物の成長を有意に促進した。また、土壌シードバンクからはコウガイモとオオトリゲモが出現した。

図2
図2 実験終了時における移植した沈水植物の現存量(a)と土壌シードバンク由来の沈水植物の現存量(b)。グレー(左)が魚無区で、白(右)が魚有区。

課題3.自然再生のシナリオ・評価に関する研究

 霞ヶ浦では近年、湖岸の植生の衰退が著しく、1972年には西浦において12km2存在した植生帯が1997年には2km2足らずに減少した。これは、霞ヶ浦の水資源開発に伴う水位管理や直立護岸の整備による湖岸の侵食が原因であると指摘されている。これに対して、湖岸植生帯の保全を目的として、2000年に緊急対策地区として11地区を選定し、粗朶消波工を設置し、2003年に完成した。これは、湖岸から数十メートル沖合に設置した丸太の枠に、クヌギやコナラの枝を束ねた粗朶を詰めることにより、大きな波浪によって引き起こされる湖岸植生の破壊や底質の侵食を抑え、それによって湖岸の植生帯が保全・復元することを期待するものであった。しかし、この様な消波工の設置が湖沼環境に及ぼす影響については十分な生態系影響調査はなされていない。そこで、消波工の設置されている湖岸と、周辺で消波工の設置されていない湖岸の調査を行い、粗朶消波工の設置が生態系へ与える影響について検討した。自然再生地及び自然地の植生調査を行い、現存植生を把握するとともに、過去の資料と比較することで植生変遷について調べた。

 2003年の調査結果と1992年の資料を比較すると、堤防から水際における低水敷の距離は2003年の方が短くなる傾向がみられた(図3)。これは、水位操作による波の強化が、護岸の侵食を進行するためと考えられる。優占種の被度値については、1992年にはアサザが広範囲で確認されたが、2003年には消滅した。粗朶消破堤だけでは植生帯の回復は認められなかった。

図3
図3.古渡地区の各ラインにおける優占種の被度値の年度別比較(1992、2003)

〔担当者連絡先〕
独立行政法人国立環境研究所
アジア自然共生研究グループ 野原精一
Tel.029-850-2501

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