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2019年4月26日

詳細モニタリングによるエネルギー消費実態の把握と時間及び地理による消費量推定への展望

特集 地域の持続可能性を高めるロードマップの開発
【研究プログラムの紹介:「統合研究プログラム」から】

牧 誠也、藤井 実

 パリ協定の採択により、全世界で気候変動対策が加速しています。また、持続可能な世界を実現するための目標としてSDGs(Sustainable Development Goals)が提唱され、17の目標のひとつにも持続可能で信頼できる近代的なエネルギーシステムを構築することが求められ、エネルギーを安定的に使用することができ、かつ低炭素化を進める必要性があります。

 わが国や世界で低炭素社会を実現するには、住宅、業務施設や工場などで個別にさまざまな対策を講じるだけではなく、都市全体や地域レベルでも、省エネ化の施策や低炭素なライフスタイルの推進、需給バランスの効率化などを進めることが必要です。これにより、持続可能かつ信頼して使用できるエネルギー供給システムを構築することができます。しかし、都市全体の視点で低炭素化の対策を検討する際には、時間帯ごとのエネルギー融通やエネルギー供給を効率化するため、時間帯ごとのエネルギー需要が把握できていることが望ましいですが、このようなデータはほとんど整備されていないのが実態です。

 統合研究プログラムPJ2サブテーマ3の研究プロジェクトでは、現在のエネルギー消費量を詳細に把握し、将来のエネルギー消費量を推計して低炭素化計画の作成支援を行うため、インドネシア及び福島県新地町でエネルギー消費のモニタリングを実施しています。インドネシアでは、市街地の割合が多く建物のエネルギー消費に起因する二酸化炭素排出量が大きいボゴール市において、商業系3か所、公的施設7か所、住宅7か所の計17か所の建物を計測対象としているほか、ブカシ市の化粧板工場の1か所を加えて、計18か所で電力消費量をモニタリングしています。また、新地町では町内での大規模需要家である下水処理場と、2つの製造工場でモニタリングを実施しています。

 プロジェクトで開発したモニタリングシステムは図1のようになっています。各建物の分電盤のどの系統がどんな機器に繋がっているかを調査し、電力消費量の大きな機器を対象に、系統単位で毎分の電力消費量を約200個の電力センサーを用いて調査しています。これらのモニタリングによって得られたエネルギー消費量のデータを元にして、建物の特徴や世帯構成、気象データ等を用いて、エネルギー消費の将来予測や、機器の変更や行動促進を含む省エネ施策による地域の低炭素化計画へと繋げる方法を開発しています。

 低炭素化計画の作成支援を行うため、本プロジェクトでは以下の3つの異なるモデルを作成しています。

システムと観測イメージの図
図1 エネルギーモニタリングシステムと観測イメージ

1.エネルギー消費将来予測モデル

 エネルギー消費将来予測モデルとは、モニタリング結果をもとに1時間後や翌日といった、少し先のエネルギー消費量を予測するためのモデルです。本研究では、エネルギー消費の要因を理解し、今後の低炭素化計画作成の一助になる精度の高い予測を行えるモデルを開発しています。本プロジェクトでは、重回帰分析と時系列分析の双方の特性を併せ持つ、多変量時系列分析法(Auto-Regression eXogenous モデル及びマルコフスイッチングモデル)を用いて、社会的・気象的要素を考慮した予測式を作成し、これらの知見をもとに時系列の将来予測に適した深層学習(Deep Learning)の一種である、LSTNet(Long- and Short-term Time-series network)による予測式の開発を進めています。

 図2はボゴール市の計測対象のうち、大学の研究室オフィスと住宅の一つについてAuto-Regression eXogenousモデルによる再現モデルの構築を行った結果と、ブカシ市の工場に対してマルコフスイッチングモデルで再現モデルを構築した結果のうち、ある1週間について表したものです。一部で再現性が高くないモデルもありましたが、R2値は0.7以上のものが多く、高いものでは0.9以上、ピーク以外の予測性能をよく表現する平均絶対誤差率(MAPE)も低いモデルが多く、概ね高い精度で再現が可能な予測モデルを構築することができたと考えています。

再現モデルのグラフ
図2 インドネシアを対象とした再現モデルの結果
Maki.et.al(2018), 牧ら(2018)より著者作成

2.面展開のための電力消費再現モデル

 面展開のための電力消費再現モデルとは、モニタリングで得られたエネルギー消費パターンを市や地域全体に当てはめ、時間・空間でのエネルギー消費量を推計するためのモデルです。ただし、本プロジェクトでのモニタリング対象は、サンプル数が限定されており、かつ代表性があると言い切ることも難しい状況です。そのため、モニタリング対象の建物データや世帯データ等から共通変数・共通性を確認し、モニタリング対象以外の施設のエネルギー消費予測へと、面的に広げていく方法の開発を進めています。

 このような、マルチソースのデータから共通性をもとにデータを連結して分析する方法を、データ融合(Data Fusion)といい、実際に計測されたデータセットから構築したモデルを、計測していない対象に適用する方法を「半教師あり学習(Semi-Supervised Learning)」といいます。

 本プロジェクトでは、ボゴール市の家庭を対象に、建物や機器保有、世帯構成等の情報についてアンケート調査を実施し、モニタリングデータから、モニタリング対象ではない家庭の時系列電力消費パターンを推計する第1段階と、第1段階の結果をもとに地理情報を利用してアンケートを実施していない建物の時系列電力消費パターンを推計する第2段階の、2段階モデルを作成することを検討しています(図3)。

 第1段階ではアンケートで得られる建物や機器保有、家庭の情報等から電力消費パターンを再現するため、これらの情報を説明変数とする深層学習での半教師あり学習の再現モデルを作成します。第2段階でも、第1段階で作成した再現モデルを基本モデルとしますが、各建物にモデルを当てはめる際、サンプル数が少ないことから、不適切なものを含め分類・当てはめルールを多数作れてしまい、適切な分類を行うことができない場合があります。そこで、本プロジェクトでは、多数ある説明変数から一部のセットを抽出して作成した分類ルールを多数整備して、全体でのエネルギー消費量が統計値から大きく変わらないように適切なものを選択することでモニタリングしたデータを面に展開させる方法を開発しています。

展開法の図
図3 2段階構造となるモニタリングデータの面への展開法

3.省エネ効果の分析モデル

 省エネ効果の分析モデルとは、各建物や地域レベルでの省エネ施策の効果を予測・検証するためのモデルで、各建物単位では機器の変更や節電行動等の効果を算定し、地域レベルでは需要家のエネルギーを把握し、その融通や消費量削減などの制御をするデマンドレスポンスによるエネルギー需要の変化の推計などを行います。そして、モニタリング対象毎に検証した詳細な省エネ施策の効果が、市全体の中ではどの建物にどの程度適用可能であるのかについて判断することができます。また、デマンドレスポンスのシミュレーションについても、モニタリングデータをもとに実態に合った検討を行い、デマンドレスポンスのスケジュールや、その際の情報提供法などを詳細に提供できるモデルにすることで、汎用性の高いシステムとして構築していく予定です。

 以上のような異なる性質のサブモデルの開発を通じ、低炭素化計画に貢献する時間帯・地理条件によるエネルギー消費量の推定法を開発しています。この推定法を完成させることで、広範囲でのエネルギー消費量を推定するだけでなく、省エネ施策の効果を衛星観測で検証することも可能となります。

(まき せいや、社会環境システム研究センター 環境社会イノベーション研究室)
(ふじい みのる、社会環境システム研究センター 環境社会イノベーション研究室 室長)

執筆者プロフィール:

筆者牧誠也の写真

(牧)環境分野でビッグデータを解析することで新たな知見や連結させることで見えてくることを研究しています。その結果、本棚がカオスになってきている気がするのでどうにかしたいところです。

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